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前兆──65.

「ソンリェンの付き合いが悪いんだよね」 「んなの、今に始まったことじゃねえだろーが」 「それはそーだけどさ! だって、屋敷だって出ていっちゃうし、学院も辞めちゃうし!」 「しょうがないじゃ、ないですか……ん、だって、家の事業、本格的に受け継がなきゃならないんですからねえ」  俺寂しい、とテーブルに突っ伏したエミーを慰める言葉を吐き捨てたのは、今まさに腰を振りまくっていたロイズだった。  ついでにロイズが組み敷いている子どもは腕も足も口も縛りつけられながらも、唯一自由な鋭い瞳でロイズを射殺さんばかりに睨みつけている。  この子どもをロイズが攫ってきてから半年以上になるが、子どもはレオから言わせてみればいわゆるじゃじゃ馬という奴で、隙あらば噛みつこうとするわ殴りかかってくるわ蹴り飛ばしてくるわで全く従順じゃなかった。そのお陰で子どもの腕は常に縛られている。  ある程度ロイズも手酷く、それはもうトイの時のように調教したのだが、それでもまだ反骨心を失っていない。それどころか乱暴に扱えば扱うほど子どもの憎悪も怒りも目に見えて増しそれを表に出してくる。だからこそロイズもいたぶりがいがあるのか、ここ最近では彼が独占してこの子どもを犯していた。  なにせ、ロイズの許可なくその子どもに触れようとするものならと、笑顔を湛えたままのロイズの周りの温度が2度ほど下がるのだ。  まあ、ロイズはバイだがどちらかというと女性よりも少年が好みなのだろう。今回もロイズが連れて来たのは少女ではなく少年だったので、そもそもレオの趣味ではないので大して辛くない。  ただ、4人で一人の子どもを好き勝手に共有していたあの頃に懐かしさは抱いていた。 「でも、そりゃそうだとしてもさあ……なんかソンリェン、変だもん」 「まー、そうだなあ。誘っても全然乗ってこねえし、忙しいっつってよ」 「だよねえ! 遊んでもくれなくなったしさあ。そりゃ会った時は話すけど、ソンリェンすぐどっかいっちゃうし、なーんか、ソンリェンの愛人たちも最近全然会ってないって言ってるし。っていうか誘っても断られるんだって。何やってんだよ本当にさあ」 「ま、4人でバカ騒ぎはできなくなったわな。ソンリェンも家のこともあるし大人になったんじゃねえの」 「レオが一番年上じゃんか」 「俺はいーのよ、こん中でも一番格式の低いお家なんでね」 「つまんないな……もうみんなで遊べないのかな?」  あんな仏頂面な男のどこがいいのか、なぜかソンリェンに一番懐いていたエミーは卒業前だというのに屋敷から去ったソンリェンに大層驚いていたし一番ショックを受けていた。  ならば学院で、と意気込んでいればその学院すらもソンリェンは辞めた。  何事かと問い質せば、しれっと「やることができた」と言っていた。  10代前半からの付き合いだしソンリェンも友情に熱い男というわけでは決してないので、疎遠になるのもわかるのだが、ソンリェンがあそこまで家の事業を継ぐことに熱意を見出していたとは知らなかったのでレオもある程度は驚いた。 「落ち着くまでは、ってことなんじゃねえの」 「だって来年になったら正式に継ぐんでしょ? 今以上に時間無くなっちゃうじゃんか!」  それもそうだと頭を掻く。今のソンリェンはなんというか、普段の彼に似合わず鬼気として家のことに励んでいるらしい。それに、たぶんだがレオを含む残りの2人と離れたがっているような気も、する。  このままの状態が続けばきっと来年には、ソンリェンとの関わりは一切立ち消えてしまうのだろう。 「ああもう! ロイズ、俺も挿れたい」 「ええ、いいですよ」  エミーとレオが会話をしていた最中に一発出し終わったのか、ロイズが意識を失った子どもの頭を撫でていた。気絶していた方が楽だろうに、次はむしゃくしゃしているエミーが相手だ。叩き起こされていいサンドバッグにされるのだろう。  そして滅茶苦茶にされて絶叫する子どもを恍惚とした表情のロイズが開発をする。これもまた日常になりつつある光景だった。  ソンリェンが屋敷を去ってからもう数か月が経つ。レオとて、隣で一緒に煙草を吸う相手がいないというのは少しだけ寂しい気もしていた。 「なあ、エミー」 「なに?」 「もしかして、女なんじゃねえの」 「何が」 「ソンリェンの付き合いが悪い理由だよ」  子どもの足を広げて今まさに突き入れようとしていたエミーが、ぴたりと止まってレオを見上げた。怪訝そうな顔をしている。 「女って……これまでだっていたじゃん」 「だから、俺たちになんて構っちゃいられないぐらいの大本命が、できたってこと」 「え」  ロイズとエミーは同時に顔を見合わせて、数拍置いてから噴き出した。 「それは流石に……だってソンリェンですよ?」 「だよねえ、ないでしょ」 「そーねえ……」  レオは自分が吐き出した煙草の煙を見上げた。  ロイズとエミーはもうレオの戯言やソンリェンのことすらも忘れて子どもを押さえつけていたぶり始めている。  くぐもった悲鳴がロイズの部屋ではじけ飛ぶ。細いが、少年らしく角ばった足が狂乱に合わせてびくびくと跳ねている。  いつもであれば話相手がいなくなってしまったレオも残りの二人に混ざるのだが、どうしてか椅子から腰を上げることができなかった。  もう一度天井へと昇っていく煙を見上げ、それを打ち消すように肺から新たな煙を吐き出し交じり合う気流を眺める。  空気に溶けて消えるまで同じ所をぐるぐると回る気流は、まるで自分たちのようだなと。  そんならしくないことも考えて、レオはため息交じりに煙草の火を消した。

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