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亀裂──71.*

「ぁ……、ん、く」  トイの身体がくねる。剥き出しにされた幼い胸先がつんと天井を向き、今にもしゃぶりついてほしそうに赤く色づいていた。これまで抱いてきた女の胸を見ても果実のようだなんて薄ら寒い感想を抱いたこともなかったのに、トイのそれは確かに甘い果実に見えた。 「ぁっは、ぅ、は……ぁ、あぁ、あ ぁ」  指の動きを少しだけ早くする。吐息のような喘ぎを零し、腹をへこませて足をぴくぴくと動かすトイを真っすぐに見降ろす。  トイの横に横たわり脚を僅かに開かせ、ほどよくとろけた膣の中を3本の指で掻き回す。  最初から強く突けば痛いだけだが、陰茎を扱いてイく寸前まで弄り抜けば、連動するようにトイの女性としての部分も濡れる。一度湿ってしまえばトイは早い。  く、と奥を押し広げて、人差し指で内壁の突起部分をぐちぐちと刺激すればじんわりと襲い掛かる快感にトイの丸い額から玉のような汗が噴き出した。 「、ッ、ひ、ぁ、う」  顔を隠すなと命令してある。トイは従順に命令を守り、シーツを握りしめて与えられる快感の波を受け入れていた。  ただ、真上からじっくりと表情の一つ一つを観察される羞恥にやはり耐えきれないのか、いい所を突かれて唾液が零れそうになる時は口をぎゅっと閉じ、強く目を瞑ってシーツに顔を押し付ける。  そういう時は、「おい」と一言呟けば直ぐに顔は元の位置へと戻った。  イく時の顔汚ねえなと散々馬鹿にしていた過去が悔やまれる、こんなにも愛らしいのに。  赤らんだ頬も、少しひくつく鼻の頭も、涙の滲む目尻も、ざわりと震える産毛も、薄く開かれ赤い舌と唾液が零れる唇も、熟れた苺ジャムのように赤くとろける瞳も、全て。  だが素直にかわいいと口にすることは今はできなかった。それが言えるのはトイが快感に喘ぎわけがわからなくなっている時か、射精してぼうっと呆けている時に限られた。  だから言えない代わりにトイの顔をじっと見降ろす。自然現象である己の瞬きすらも邪魔だった。  言葉も成す術もなくソンリェンの指で高められ、悲鳴のような吐息を溢れさせながら悦楽に飲まれるトイを網膜に焼き付けるために目を見開く。 「……あ、ッ! あっ、ぁ」  びくんとトイが腿を閉じ、大きく口を開けながら頭を振った。ずり上がる身体を片手で阻止し、トイが感じた所をひたすらに責める。  今の段階ではまだトイの奥は弄らない。その少し手前のトイにとってのたまらない箇所をくちゅくちゅと弄る。トイの膣から染み出す体液が指に絡みつく、今日は一段と滑りがいい。  くいと指を上に向かせて内壁にひっかけ、押しつぶすように指で円を描くと声にならない声を上げてトイは細い腰をくねくねと動かした。  逃がす気はない、指を動かし、同じ個所を延々と抉る。 「や、ァ、あぁ、あっ……ぁあ」 「逃げんな、いいんだろ?」 「は……ぁ、」  トイの呼吸が荒く激しくなる。嬌声を出す余裕すらないのか、くしゃりと顔を歪めて首を振る。  もう膣内を弄り始めてから結構な時間が経つが、突き入れているソンリェンの指も手首にまで愛液が垂れて濡れそぼっていた。そろそろだ。 「隠すな」  いつものようにふらふらと揺れる顔を抑えつけさらに顔を覗き込む。トイの綺麗な赤と目が合った。点いたり消えたりを繰り返す電球のせいで、トイの瞳がちかちかと弾けているように見える。 「イク時の顔見せろ」  顔を近づけ、みっともなく開き切った口に吐息を吹き込み、これまでで一番激しく指をまぜくり返した。  トイの瞳がせわしなく揺れ唇がふるふると痙攣し始める。頬の赤みが一段と増し、くうと一瞬だけ閉じられた唇が薄く開かれた。  赤茶色の睫毛がぱっと押し上げられ、大粒の涙がぽろりと零れる。  と同時に上がる今までで最高に甘い声。 「ぃ、イっちゃ、ッァ──!」   びくびくと腰を高く突き上げ、トイは激しい快楽の海の中で鳴いた。  この一瞬に、ソンリェンも溺れる。錯覚であるということは自覚していながらも、トイに受け入れられたような気がしてならないのだ。  痙攣する頭を撫で、ちゅうと額に口づけを落とす。  それすらも刺激になるのか、引き付けを起こしたようにトイの身体が跳ねた。最後まで指で中をめちゃくちゃに扱いて、ちゅぷんと勢いよく引き抜けばがくんっとトイの腰がシーツの上で跳ね上がる。  トイの痙攣が、長い時間をかけてだんだんと治まってきた。トイの目の焦点も合う。  自分が中だけでイったことに今気づいたらしい子どもは、断続的な呼吸の合間に呆けたように嗚咽を零し始めた。  弛緩しきった両足の間に腰を滑り込ませ、膝裏に手を差し込み抱え上げるように身体ごと折らせる。  イったばかりでひくつき、べちゃべちゃに濡れている膣口はソンリェンを待ち望んでいるかのようにぱくぱくと開閉していた。  ぼうっとした表情のままトイが少しだけ顔を背けた。  次にされることをわかっているから無意識のうちに拒んでいるのだろう。泣きすぎて赤く腫れた瞼が痛々しい。  トイは、ソンリェンに体を暴かれる時いつも泣いていた。1年前も、そして今でも。  痛みを与えれば痛みに泣き、快感を与えれば快感に泣いた。怖いのか、嫌なのか、悲しいのか、憎いのか、恨みなのか。  結局のところ全てなのだろうなと理解しつつもソンリェンはトイを抱き続けることを止められなかった。  これしか、トイと繋がる術が見当たらない。  命令だから身体だけは従順に。しかし心の底からセックスという行為を拒んでいるトイはソンリェンを受け入れることはない。  受け入れられることがないとわかっていたからこそ、受け入れさせるために脅してもう一度支配下に置いた。現実は変わらず、いくら交わってもトイはソンリェンを拒み続ける。  それに苛立ってはトイに当たり、仕方のないことだと自身を納得させ、しかしまた苛立つ。  この数か月間はその繰り返しだった。  トイがソンリェンにと手渡したミサンガを、律儀にソンリェンは身に着けている。シャワーを浴びる時以外はずっと。 『ソンリェンにあげようと……思って』  掠れた声は震えていた。  トイの真意はわからない、少しでもソンリェンの機嫌を取ろうと思っていたのかもしれない。酷いことをされないようにと。  なんにせよ、トイが単純な善意や好意でソンリェンにこんなものを渡すわけがない。だが、トイの手首にも巻き付けられているそれを目にする度トイとの繋がりを少しでも感じられて外せなかった。  この紐が切れた時にトイは自分のものになるのだろうかなど、らしくもない願いを抱いている自分に苦く笑う。  ソンリェンはよくトイをバカだと罵るが、自分こそバカだという自覚はあった。 「挿れるぞ」  伺いを立てるためではなく、事実をトイに認識させるためだけに声をかけて腰を落としていく。  たとえトイが嫌だと拒んだとしても、止める気はさらさらない。 「……ッぁ、あ!」  仰け反るトイの汗ばんだ身体を押さえつけて、容赦なく挿入していく。毎日のように犯しているため、ほころんだそこはうまくソンリェンの形に広がっていった。  それどころかトイの身体はこんなにも固く強張っているというのに突き挿れたそこは柔らかく、もっと奥へと誘うように蠢いている。  トイがソンリェンを欲していると、ソンリェンに錯覚させるには十分だった。  一気に奥まで押し込んで、うまく嵌るように腰をずらしさらに突き入れる。ぴたりと、望む場所へと埋め込むことができてほうっと息を吐く。  それに対してトイは、過呼吸のように喉を戦慄かせて衝撃に耐えていた。 「──ッひ、ぁ、あ…ふ」 「力を抜け」 「ゃ、ふか、ふかいぃ……」 「力抜け、ほら……」  言いながら腰を穿ち始める。もうソンリェン自身が耐えられそうになかったことと、トイの理性をさっさと吹き飛ばしてやりたかったからだ。  

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