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亀裂──72.*
まともな状態のトイと会話をすることは極力避けたい。
朝までトイと同じベッドで眠るようになってから──というよりも強制的にソンリェンが寝ていくようになってから、トイとは少しばかり会話ができるようになっていた。
いつもはソンリェンの前だと怯え吃りまともに話すこともできないトイが、ソンリェンの言葉にしっかりと頷き発言する。それは望んでいたことではあったのだが、弊害も出て来た。
元来のトイはしっかりと自分の意思を発言するタイプだ。
つまり、少しまともな会話ができるようになったということは、普段はトイが恐怖やらのため心の奥底に抑え込んでいる感情が如実にソンリェンに対して出てきてしまうというわけで。
先ほどもトイの買い物に無理矢理ついて行ったが、苛立ったトイに鋭い力で腕を弾き飛ばされた。
やってしまったとトイは自身の行動に呆けていたが、まさしくその一瞬の抵抗がトイの本心なのだ。
触れ合いたくない、ソンリェンとこんなことはしたくないと、トイの身体の隅から隅までがソンリェンを否定している。
そしてそれを理解すると、ソンリェンの方も優しくしたいという感情が一気に怒りへと変わり乱暴に扱ってしまう。
そして手を上げればトイはソンリェンに怯え、今までの威勢はどこへやら直ぐにまた怯える口調へと戻ってしまう。
これもまた、堂々巡りだった。快感に理性を崩させてしまったほうが楽だ。
ソンリェンがトイに苛立つことも、トイが怯えることもない。
「あ、あ、ぁ」
華奢な身体の上に覆いかぶさり腰を振る。
柔らかく沈む内壁に遠慮はいらない。ねちゃねちゃと結合部から淫猥な音が響き、聴覚が煽られさらにペースが速くなる。穿ちに合わせてトイのそそり立つ幼い肉の茎を擦り上げれば腰がくねった。
赤く染まる褐色の体。快楽に喘ぐ肢体。例えそれが生理的な現象だったとしても、トイがソンリェンの手で反応を示すのが嬉しくてソンリェンはトイを毎日貪ることを止められないでいた。
「い、や、ぁ……も、ゆっくり、し、てぇ……っ!」
「るせえな……」
「ゆっ、くり、おねが……ァあ!」
中指と親指で上下に扱き、鈴口に指先を添え抉るように掻き回せば直ぐに溢れんばかりの蜜を垂らすトイの肉欲。今日はまだ一度も射精させていない。もちろんわざとだ。
トイの身体は特殊だ。女性器への刺激を受けて絶頂を迎えるのと、男性器への刺激で勃起、射精するのは連動してはいるが明確に言えば違う。
だがこの二つが性感帯がぴたりと合わされば、とんでもない快楽にトイは理性を飛ばし無我夢中で相手の身体を求める。
1年前まではほぼ毎日そういう風に、ソンリェンを除く3人の男たちにめちゃくちゃにされていた。
そしてそんな時のトイは自分がどんな顔をしているのかも気にせず、ぐしゃぐしゃに顔を歪めてがむしゃらに快楽を求めてくる。
そんな淫らなトイが見たくて、ソンリェンだけを求めるトイが見たくて。
こうしていつも、トイの身体に過ぎる快楽を与え、激しく組み敷いてしまうのだ。
「は、ァっ…ァ、あン、あっ……や、はッ……ああァっ」
断続的な悲鳴が不揃いになってきた。そろそろか、と小さな臀部をさらに上へと向かせて、奥の一点に向かって真上から腰を打つ。
「そん、りぇ……っひあ、あぁ……」
電流が走ったかのようにびくんっと目を見開いたトイは、何をどうされたのかがわからないのかはくはくと打ち上げられた魚のように仰け反った。
二つの快楽が同時に高まるように一旦肉欲を扱くのはやめて、同じくビクビクと痙攣しっぱなしで突っ張る足を抱え直して深く穿つことだけに集中する。
こうなったトイは痛みの中から激しい快感を拾う。
「ァッ! あ…ぃた、ァっ……う、ァァ!」
「何が、痛いだ」
「ん、くる、しッぃ…おなか、くるし……」
「苦しいのがいいんだろ? ほら」
「ひゃ、ぁ……」
快楽に喘ぐトイの膣が波のように蠢く。その締め付けに、ソンリェンの額から溢れた汗がトイの首元へぽたぽたと垂れる。今ソンリェンの顔もきっと快楽に満ちた表情になっているに違いない。
トイは叩きつけられる熱に視界すらも白く濁り、目の前にあるソンリェンの顔も見えていないだろう。仮に見られていたとしても、トイであれば構わないが。
「や、ァあァ──ッ!ァ、あ……ひ、くぅ…」
強張っていたトイの身体が、強制的にぶつけられる悦楽にどろどろに溶けた。
シーツを掴む手が緩んだのを見計らって首の後ろまで持っていけば、縋る場所を得られて安堵したのかぎゅっと力の限り抱き着いてきた。
泣きすぎたせいで鼻の頭が赤くなり、鼻水も垂れている。そんな呆けた顔に唐突に愛しさが増して頬を擦り合わせる。
トイの熱い呼吸すらも愛おしい。
「こら、あんま抱き着くな……動きづれえだろうが」
しがみ付かれる嬉しさが声に出てしまったが、理性を飛ばしかけているトイには聞こえていないだろう。仕方なくとりあえずは小刻みに、だが確実にトイの感じる奥まった場所をぐちゃぐちゃに潰し退路を断つ。
溢れ出る透明な体液が増して結合部から溢れ、トイの潰された腹部に溜まり、そして腹の上でぶるぶると揺れる性器に垂れていく。その光景があまりにも淫猥で。
「はっ、ァぁ! あ、ァ……あン…ゥぁ……」
まだ序盤だと言うのに、古いベッドがグラインドするほど激しくピストンしてしまった。
「や、お、おく、お……くぅッ、ァ、やぁ……」
「……もう、奥まで来てンだよ」
「ァ──、ァッ!」
「いいのか、ん? トイ」
「や、あぁ……」
「ヤじゃねえだろ」
「んっ、い、ィい、っん…いいっ……あ、ァんっ」
唇の端から零れた舌を時折吸ってやりながら問いかければ、とろんと淀んだ赤い瞳がソンリェンを見上げて来た。
今、トイはソンリェンのことをソンリェンだと認識しているのだろうか、それともよくこんな風にトイを犯していたロイズやエミーだと思っているのだろうか。
「気持ち、いいか」
「は、ひ…きもひ……きもち、よっ、ッぁ…ア」
「いい子だ」
褒められたことでくしゃりとトイの目じりが緩み、壊れた涙腺から涙が零れていく。それを唇で掬い、絡みつく腕を少しだけ離させて密着していた身体を離し、ギリギリまで引き抜きさらに勢いをつけて奥を突いた。背中に強く爪が立てられたが、構わなかった。
トイが悲痛な嬌声を上げながら腰に足を絡ませてきた。
「そ、そこ、そ……こ、そこ……ッ」
「どこだ」
「そ、こ、そこ…あ、ァあ……あ、あ、ァ、あ……」
もはやまともな言葉を成していない。1年ぶりに抱いた時、久しぶりだというのに感度がさらによくなっていたことに驚いた。
1年と半年の調教は、ソンリェンの身体に激しい後遺症を残していたらしい。
トイの瞳からぼろぼろと涙が滝のように溢れる。これは何の涙なのだろうか。嬉しいのだろうか、痛いのだろうか、苦しいのだろうか、気持ちいいのだろうか。
それとも、ここまで身体を快楽に狂わされてしまったことに対して、ただ絶望しているのだろうか。
「あッ、ァっそこ…ダメ……もっ、ぬいちゃ、や、あぁ……!」
角度を変えるためにずるりと引き抜こうとすると腰に巻き付いた脚にぐいと力を込められる。この細い脚のどこにこんな力があるのか、色狂いのようなあられもないトイにほくそ笑む。
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