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亀裂──73.*

「角度、変えるだけだバカ」 「や、ら……らぁ…め、やっ……して、してぇッ…やあ」 「してる、っつーの」 「も、っと ぁ、ァあ……ひ──」 「口開け」 「ぁッ……あう…ひッ、ァあ」 「できるだろ、トイ。ほら」  くっと顎を掴み力を込めれば大きく開かれる口。唾液をとろり、と赤い舌目掛けて零せばトイは嫌がることなく喉を鳴らして飲み込んだ。噛みつくように唇を重ね舌を捻じ込む。  無理矢理されているというのに飢えた獣のように舌が絡みついてきた。  植え付けられた技も何もなく、ただがむしゃらにソンリェンだけを求める舌。散々腫れぼったい唇を堪能し、今度は尖り切った胸先を指で押し上げ何度も舌で転がしながら吸ってやる。  トイは胸を舐められるのが一番好きだ。 「やっあぁ……くび、ち…び、ヤァッ……あ、あ、あ」 「……腫れてんじゃねえか」 「あ、ァ、や…あ、あ……」  嫌だと言いつつ胸をむしろ突き出して、自ら唇に擦りつけてくるくるいじらしさに笑みが漏れる。 「かわいいな」  だが、これ以上苛めば後戻りできない所までいってしまう危うさもある。  そろそろ仕舞いにしてやるためにぐちゃぐちゃに濡れそぼった細い陰茎をゆったりと握りしめ、奥を突く動きに合わせて擦り上げてやる。 「や──ッ! ら、お、ちんち……らぁ……め、や、しな、でっ」  トイが女のようにか細い声を上げて、上半身をくねらせて逃げようとした。  しかし、下半身はさらなる快感を得るためにしっかりとソンリェンに押し付けられもっとと自ら腰を動かしてくる始末だ。 「どっちだよ」 「お、おか、し……おかし、く、な、ぁ……」 「もうなってんだよ、諦めろ」  それは、たわいもない一言だった。  ソンリェンにとって特別深い意味があったわけではない。だが、トイにとっては強烈な一言だったようだ。  これまで思考すらも溶かしていた激しい快感を凌駕してしまうほどの。  快感を一度噛みしめ、ぽかりと目を空洞のように見開いたトイに流石のソンリェンも動きを止める。 「……そ、んりぇ、ん」  だらだらと涙を零しながら茫然とソンリェンを見上げてくるトイの瞳には、確かにソンリェンが映っていた。  というよりも、今この瞬間初めて目の前にいる人間が誰だかわかった、そんな表情だった。 「おれ、おれぇ……おか、おかしく、な……」  鼻にかかる涙声に、ソンリェンはトイの快感を越えた何かを深く理解した。  ソンリェンの首に回された腕もかたかたと震えている。トイの中に今溢れているそれはまさしく恐怖なのだろう。 「も、もどっ、も、どった、のに……トイ、トイは、おれは」 「トイ」  ぐしゃりと、トイの顔が快楽でなく歪む。 「助け、て…し、しすたー……」  それは、よくソンリェンに組み敷かれている時にトイが無意識に呼ぶ名前だった。  壊されたトイを助け、元気になるまでトイの世話をし、トイを雇い育児院で働かせている女性だ。  短気なソンリェンは、トイが自分以外の人間に救いを求める度にしょっちゅう怒りを爆発させていたので、最近はトイも口にしないよう心掛けている様子だったのだが。  ──穏やかだった感情が、黒いものへと変わっていく。  顔を歪めて、子どものように泣き始めたトイがこんなにも憎らしい。  苛立つ、とも違う。憎いのだ。  自分がトイを追い込んでいるのだとしても、意識がまともになってしまえばソンリェンではなく他人のことばかり考えるトイが憎い。  ソンリェンの頭の中は、1年前のあの日からトイのことばかりだが、トイは違う。 「……くそ」  吐き捨てた悪態の苦さに、溢れていた愛おしさが黒い汚泥に塗りこめられていく。 「しす、たぁ」 「うるせえ」 「しすたー……ディ、あっ……ぁ、ァ、ああ、あ、あっ」 「黙れ!」  がん、とトイの顔の横に拳を叩きつける。  トイはびくっと身体を震わせて大人しくなった。大粒の涙を流す赤い瞳はすっかり恐怖に彩られており、ソンリェンは硬直したトイに舌打ちしそのままトイを激しく犯した。 「ぁッ……ぁ、ァん、んぅッ……」  こんな風に、再び穿ち始めれば簡単に快楽へと落ちていく幼すぎる体。  どうせ今この瞬間、先ほど自分が誰かに助けを求めたことすらもすっかり忘れてしまうくせに。 「イきてえか? 」 「あっぁ、ァ、ああ、なん……で、ぇ、あ、あっ」 「イきてえなら、強請れ」 「やっ、だ、ァあ…と、って、とってぇッ……ァん」  ソンリェンは、放出を求めて震えるトイのの陰茎の根本を押し潰すように締め上げたまま、残酷にトイの中を堪能した。  腰を押し付けるたびどくどくと脈打つ根本に、さらに指に力を込めて出せないようにする。  トイはいつもいつも、ソンリェン以外の誰かに助けを求める。ソンリェンがトイを求めてもトイはソンリェンを求めない。ソンリェンは一方通行の交わりに縋るしかない。  過去の自分が今の自分を見たら、くだらないと吐き捨てていただろうなと冷えた脳裏の片隅で思った。  その通りだ、できることならばトイへの感情など理解したくなかった。  そうすれば、ソンリェンがこうしてトイを再び苦しめることもなかった。 「あぁ……い、イかせ……てぇ、出し、て……」 「どこに」 「なか、に……」 「誰のだよ」 「ぁっ、ひ……やぁら、やあぁ……あん」 「誰のを出して欲しいんだ、ん? トイ……」 「……っそんり、っのぉ」  くっと口角が歪む、トイをバカにしたわけではない、自嘲の笑みが浮かんだのだ。  こんなにも屈辱的で、あまりにも愚かしい言葉を言わされているトイの惨めさが直接ソンリェンに跳ね返ってきた。一度壊滅的に壊されたトイの体は、表面上は戻ってきてはいても崩されたままだ。  こんな小さな身体に余るほどの淫猥さを奥深くに刻まれている。自由を手にしたと思っていたのに、こうしてソンリェンに貫かれ続けている。  もっと優しくできればいいのだが、それは無理な相談だった。  トイの本来の意思の強さで拒まれるのが怖い。  自分のものにならないトイを認めなければならなくなることが恐ろしい。  だから、いつまでこんな関係を続けていくのかと自分自身に問うても答えは返ってこない。  ソンリェン自身も、どうしたらいいのかわからないのだ。わからないから、こうして躍起になってトイの身体を求め続けている。 「おら、好きなだけイけ」 「ぁ、ぁあ」  性器の根元を潰していた指を緩め、流れる体液を塗りこめるように上下に扱きながら激しい腰使いで膣奥をめちゃくちゃに掻き回す。 「くっ、あ、ぅう……!」  トイが目をぱちぱちと開閉させ身体を伸ばした。熱い内壁がこれまで以上に収縮したと思ったら手の中の小さな肉がびんと反り返り、冷たく爆ぜた。 「あ、あァ、あ」  思惑通り、精液を飛び散らかせながらもトイは膣内で絶頂を迎えているようだった。丸い目を見開き身体全体で痙攣している。  構わず腰を打ち付ければトイは半狂乱になってソンリェンの体を押しのけようとしてきた。汗ばむ両手首を片手で捕えシーツに叩きつけて押さえ込み、一心不乱に腰を振り続ける。 「や、ぁあ……! イって……ィッてる、うッ、っ」  イってるのになんで。驚愕と、深すぎる快感に魚のようにのたうつトイの赤い瞳は与えられ続ける悦楽に崩れかける寸前だった。  トイの限界まで折り曲げられ押さえつけられた脚が、ソンリェンの動きに合わせてガクガクと揺れる。  首筋にソンリェンの息がかかることすら耐えられないのか、トイは涙を溢れさせながらゆるゆると首を振った。 「あ、ァあ……あ、あ、ンふ」  トイの哀れな嬌声に煽られ、なおも穿つ。  ぎゅっと引き千切らんばかりの締め付けにソンリェンも強く腰を叩きつけて欲を吐き出した。  中に出される感覚すらも敏感な内壁には毒のようで、ついにトイの目から光が抜け引きずり込まれるように瞼が閉じられた。 「ぁ……」  意識を飛ばしてもなお、射精したばかりのトイの陰茎は小刻みに揺れている。その哀れな光景に長時間苛まれ続けたトイの衝撃が伺い知れた。  は、と詰めていた息を吐き捨て、トイにのしかかる。  耳の裏に鼻を埋める。トイの甘い汗の匂いがした。 「トイ」

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