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第5話

俺は頭が真っ白になった。 何が起きているか分からなかった。 ただ、初めて見る父さんの姿に目を逸らせなかった。 俺が何も出来ずにいる間も 父さんの手は自分のペニスを扱いていて、それが段々と激しくなっていく。 「綺、綺、あや、はぁっ あっ」 俺を呼ぶ声、荒い息、水音。 全てが生々しく感じられた。 暫くして、呻く声がしたと同時に 生暖かいモノが顔にかかった。 一瞬、何だか分からなかった。 ただ、父さんの荒い息だけが部屋に響いて聞こえていた。 俺が我に返るのと同時くらいに、父さんが俺に触れてくる。 思わず顔を強ばらせた。 「っごめん、ごめんな、綺音」 そう言いながら父さんは俺の顔に付いた精液を自分のシャツの袖で拭った。 「…………」 怖い。 父さんに対してそう感じたのは初めてのことだった。 けれど、苦しそうに顔を歪ませる父さんを放ってはおけなかった。 「お父さん」 気づけば俺は父さんの手に自分の手を重ねていた。 俺は大丈夫だよ、という意味を込めて。 きっと、どうしようもなくて、酔って間違ってしまっただけなんだ。 そう思い、困ったように笑って見せた。 すると父さんは思いきり抱き締めてきた。 「ごめんな、綺音」 久しぶりの抱擁に嬉しくなり もういいよ、と抱き返そうとしたその時。 首筋にチクリとした痛みが走った。 「いっ お父さん?」 直ぐに濡れた感触があり、首筋に舌を這わされているのだと知る。 「やっ、やめっ」 引き剥がそうにもキツく抱き締められていて、身動きひとつ取れない。 俺の声は父さんには届いていないようで 数分前と同様に荒い息が部屋中に響いた。 行為は段々とエスカレートしていき、父さんの唇は首筋から上へ上へ上がってくる。 首筋を吸われたり舐められたり、そうしているうちに 耳元まで上がってきた。 ぴちゃ 耳に舌を這わせる音が鼓膜を擽る。 「ひっ」 怖い。 嫌だ。 もう止めて。 確かにそう感じているはずなのに どうしてか突っぱねることが出来ない。 「綺、綺音、はぁ、」 父さんの熱っぽく俺を呼ぶ声、熱い舌、少し冷たい唇。 大好きな父さん。 それらに恐怖を感じながら 身体は快感を得ていた。 俺の下半身はあろう事か、反応していた。 そのことに気づいた時、涙が溢れた。 生理的な涙か、恐怖の涙か その両方か。 それに気づいた父さんは 漸く、顔を上げ俺を見つめた。 そして 「綺音、可愛いね……」 笑顔でそう言うと、キスをしてきた。 「んっ、んっ」 何度もしているうちに頭がぼうっとしてきて何も考えられなくなってしまう。 いつの間にか布団が剥がれ、パジャマの前も開かれ、下半身は暴かれてしまった。 その時の事は細かく覚えていないが 俺はその日、父さんと超えてはならない一線を超えてしまった。 抵抗らしい抵抗もできずに。 いや、出来なかったのではないかもしれない。 抵抗らしい抵抗はしなかったのだ。 怖いと、嫌だと確かに思った。 けれどそれ以上に快楽が勝ってしまった。 行為の途中に父さんの 「綺音、愛しているよ」 と言った笑顔にゾクリとした。 俺はその日、父さんを受け入れたのだ。

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