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第19話

『エスカペと唱えろ』 白っぽく淡く光る塔の天井に赤々と浮かび上がる謎のメッセージを信じ、スグルは残りの魔力を使い、その通りに念じる。 ローブを剥がれ、大杖やブーツも身につけていないし、もしかすると、腕の1本は足りない魔力の代償で失ってしまうかも知れない。 またそんなことよりも今も塔に囚われているであろうライルの安否は当然、気になったが、構っている場合ではない。 「で、られ、た……」 スリメの塔の外にはまだ朝の気配が残っている。幸い、スグルは腕や脚などを失っていなかったが、もはや、町などに戻る為のテレポルトを唱えることはできない。 「どのみち、しぬ、か……」  スグルは数歩、歩くと、脚がまともに動かせないことに気づき、野垂れ死ぬ様を頭によぎらせる。  スリメの塔は変異ダンジョンということもあり、一般人はもちろん、腕のあるトレジャーハンターでさえ近寄らないだろう。 「ははっ、ぶざまな、しに、ざまだ……」  スグルは脚が縺れて、地面に倒れ込む。  だが、地面に倒れ込む瞬間に誰かがスグルを抱きかかえる。  誰か。  それはフィリップの弟で、優秀な魔術士系のハンターでもあるクィルだった。 「貴方は死にませんよ。少なくとも、まだここではね」  クィルは気を失ったスグルにクロトーと言う魔術を施す。すると、スグルの身体をすっぽりと布で覆われた。 「さて、と、次はテレポルトを……」  クィルは布で覆われたスグルの体を抱きかかえたまま、テレポルトを唱えた。

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