3 / 226

第1話 9/12 (1)

045 「ねぇー? 最近、痣とか切り傷みたいなの多くない?」 飲み会終わりの凪を迎えに行き、酔いが冷めるのを待ってから久しぶりに2人で湯船に浸かる。 紅葉は背中を預けた恋人の腕を持ち、指差しながら小さな怪我を指摘した。 「…そう? そんなことないと思うけど…」 「えーっ? だって…ほら、ココとか、ココも…! あ!こっちも!怪我してるーっ! これは一昨日にはなかったよ? んー…腕と脛のとこが多い気がする…! どーしたの? …まさか喧嘩?」 「いい年してそれはないって…!(苦笑) 大丈夫…。怪我ってほどじゃねーし。 ってか、よく気がつくなー…!」 「分かるよ…っ! だって、好きな人のことだもん…。 もしかして…僕には言えない悪いことしてる…?秘密なの…?」 本人以上に凪の小さな変化に敏感な紅葉はとても心配そうだった。 凪は少し考えて紅葉に告げた。 「悪いことって何?(笑) そんな大した隠し事じゃねーよ。 んー、明日ってか、今日?時間ある?」 「うん…。」 「じゃあ一緒にジムに来て?」 「そしたら分かるの…?」 「おー。 大丈夫。 何も心配することはないよ。」 ジムに浮気相手でもいるのかと不安そうな紅葉を宥めて2人は湯船を出た。 1240 都内スポーツジム 凪に連れられてジムにやってきた紅葉(見学者として入れてもらった)は目の前の光景にハラハラしつつも、凪の勇姿に目を輝かせていた。 シュ…ッ!! バシッ!! という音と、荒い息遣いが聞こえる。 リンクの上では凪とトレーナーがキックボクシングの対戦中だ。 「OK! 2分休憩! …やっぱスジがいいねー!」 「いや…もうだいぶ鈍ってるっス…(苦笑)」 トレーナーの言葉に凪はそう答えると、スマホを片手にぷるぷる震えている紅葉のもとへ向かった。 「え、何…? 怖かった? 大丈夫…?」 心配してそう尋ねる凪。 「か、カッコ良すぎて…っ!! どーしよ…っ!倒れそう…!! あ、倒れてる場合じゃなかった! あのっ!! 写真と動画撮ってもいいっ?」 凪がアイコンタクトでトレーナーに聞くと、シャッター音で気が散ると危ないから動画なら…もちろん個人用ならと言われた。 「あとでフォーム見直せるし…いーね。 撮影よろしく。」 「はい! 喜んでっ!! あー! まさかこんなドキドキなサプライズだったとは~っ!! 僕……ヨダレ出そう…っ!」 「落ち着け…(苦笑) 危ないからとか、怪我とかで心配させると思って内緒にしてた。…ごめんな。 でもまさかこんなに喜ぶとは思わなかった…(苦笑)」 その後も紅葉は目をハートにさせ、興奮しっぱなしで凪の練習を動画に納め続けた。 「あの…」 「ん?」 練習を終えて帰り支度をする凪に声をかける紅葉。 「凪くんとってもとってもカッコ良かった…っ!」 「…ありがと。 始めたばっかでまだまだだけどなぁー。 体力作りと肉体改造を兼ねてね…。 考えながら身体動かすと頭もスッキリするんだ。 …多少の痣とか小さい怪我はあると思うけど、続けてもいい?」 「もちろんっ!! 怪我だけは本当に気をつけてもらいたいけど… 応援するっ! また見に来てもいい?」 「…いーよ(笑) よし…っ! シャワー浴びたら帰れるから。 ちょっと早いけど、メシってか、なんか軽く食いに行く?」 ブランチを済ませてから来たのだが、デート代わりに軽く何か食べに行くのもいいかと凪は紅葉に提案した。 「うんと……」 「…?家にする?」 「うん。一回帰ろ? あのね…!」 紅葉は凪の耳元へと囁いた。 "凪くんカッコ良すぎて…したくなっちゃった…っ!" 想定外の展開に思わず笑う凪… 「だめ…?」 「……いーよ。 早く帰んないとね…(笑)」 上機嫌でシャワールームへと向かった。

ともだちにシェアしよう!