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第3話 4月~5月 (1)
メジャーデビューから4ヶ月後
4月…
凪の26才誕生日
「せっかくのお誕生日なのに一緒に過ごせないなんてー!」
「仕方ないだろ?
お前は学校、俺は仕事…
今日に限って別々の仕事だな。」
「最近ずっと別々だよ?寂しいよー!」
ぎゅーっと抱き付く紅葉を見て、凪はポンっと頭を撫でた。
「よし…っ!
学校まで送る。」
「えっ?!
でも…!凪くんも支度しなきゃでしょ?」
2つのバンドを掛け持ちすることになった凪は誕生日も関係なく多忙である。
「いーから…。
そしたら今から10分、一緒にいられるじゃん?」
「っ!!」
凪の台詞に歓喜した紅葉はとびきりの笑顔を見せた。
「せっかくだし、なんか弾いてよ。」
凪は紅葉の手元にあるヴァイオリンケースに視線を向けてリクエストした。
「うんっ!」
もちろん、紅葉は笑顔で答えて、早速防音部屋へ移動し、ヴァイオリンを構える。
贔屓目にも益々上手になった紅葉の奏でる優しい音色に凪も満足そうだ。
6分程で演奏を終えると、あとはずっと2人きりで抱き合って、手を繋いで、甘いキスをしていた。
「お誕生日おめでとう…っ!」
因みに今年の誕生日プレゼントはショートブーツだ。凪は早速履いてくれている。
「ありがと。
最高の演奏だった。
いい誕生日になりそうだよ。」
「ふふ…っ!良かった!
改めてちゃんと2人でお祝いしようね!」
「まぁ、もうそんな誕生日が嬉しい歳でもなくなってきたけどなぁ(苦笑)」
「えー?
そんなこと言わないでー!
美味しい物、ご馳走するからねっ!」
「高い店はダメだからな。
あ、いつものとこにしよ?
最近顔出せてないし…!」
行き付けのドイツ料理店を示した凪に紅葉は頷き、凪の好物の料理と誕生日ケーキを用意してもらおうと決め、学校へと向かった。
本当に忙しい中でも2人の交際は順調だった。
凪が恋人の小さな異変に気が付いたのはGW頃の5月上旬で、ちょうど新しいマネージャーがついたタイミングだった。
「ごちそうさまでしたー!」
「…もういいの?」
「うん!今日も美味しかったぁ!
忙しいのに手のかかる酢豚作ってくれてありがとう!」
いつもおかわりする紅葉が"普通"くらいしか食べなくなり、微妙におかずが余る日が続いていた。
もちろん、余った分は翌日以降に消費しているが、今までは基本的に余ることがなかったので凪は気になっていた…。
なんとなく笑顔が曇る日や、自宅で練習をしていても音に張りがないというか、元気がない気がして、「どうした?」と聞くと、いつも「大丈夫!ちょっと疲れただけだよ」と返してくる紅葉。
確かに学業との両立は大変だろう…。
疲れているのも事実で、なるべく紅葉が休息が取れるように夜も控えたり、あまり激しくしないように気を遣っていた。
そんなある日…
紅葉が仕事から帰ってきた凪にお帰りも言わず、泣きそうな顔で聞いた。
「凪くん…!
お見合いするってホントっ?!」
「はっ?!
ナニソレ?」
思わず凪が片言になってしまう程、寝耳に水の話だった。
「だって…!
京都の老舗旅館のオンゾウシだから…結婚しないわけにいかないし、お見合いの話が何件も来てるって…!
…オンゾウシって何?」
「待て待て…!
…御曹司?
まず、そんなもんになった覚えがねーわ(苦笑)」
キャラじゃねーと凪は笑い飛ばした。
確かに今の凪の実家は京都にある老舗旅館だが、母親の再婚相手の実家であって、次ぐのは義父の息子、凪の義弟だ。
彼らのことはもちろん、家族だと認識しているし、実家だと言っているが、凪自身は義父の籍に入ってないし、継ぐ予定ももちろんお見合い結婚をする予定もない。
「えっ?見合い?
するとしたら義くんじゃねーの?」
「そうなの…?」
「いや、お前の方が詳しいだろ?(笑)
電話して聞いてみれば?
ってか、俺が見合いしてどーすんの?
お前がいるのに…そんなん受けるわけない。」
「……良かった…。」
キッパリとそう告げる凪のおかげでパニック状態から落ち着いた紅葉は床に座りこんで胸を撫で下ろした。
平九郎と梅がその周りを歩き回って心配しているようだ。
「誰の入知恵?
そんな嘘本気にして…、バカだな…。」
「ごめんなさい…。」
シュンとする紅葉を凪は優しく抱き締めた。
普段の紅葉ならすぐに気付くような嘘に騙されて、不安になり、傷付いている。
既に心が疲れているせいかもしれない。
凪は純粋な恋人の心を傷つける犯人を許せなかった。
「俺のこと好き?」
「うん。
大好き…っ!」
「良かった。
俺も好き。
いろんなこと言うやつとか騙してくるやつがあると思うけどさ…
俺のこと、ちゃんと信じてくれる?」
「…うん…!
大丈夫…。
信じてる。」
「俺も信じてるから。
約束して。
イヤなこと、ツライことあったらちゃんと俺に話して。」
「うん…。約束する。」
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