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第5話 4月~5月 (3)
佐伯の運転する車の中で凪にLINEで行けなくなったと連絡し、しょんぼりしながら帰宅する紅葉。
借りていた資料を渡すために玄関で佐伯に待っててもらう。
見慣れない来客に梅が吠える声を聞いて顔を歪めた佐伯に念をおされた。
「そういえば…
ペットの写真をファンクラブサイトに投稿するのは良いのですが…
くれぐれもお2人が同居していることが分からないように十分配慮して下さいね。」
「はい…。」
「…それで…いつまで同居を続けるつもりですか?」
「…ずっと一緒にいる予定です。」
終始佐伯に押され気味の紅葉もここはキッパリと告げた。
「本当にに分からない人ですね…。」
「プライベートは自由って…!
お仕事で迷惑、かけません。」
「迷惑ならもう既にかけているでしょう?
あなたの兄弟のせいでLiT Jの翔さんが脱退する事態になって…!
そんな話…前代未聞ですよ?」
「っ!!
珊瑚のせいじゃない…っ!
翔くんが、自分で選んで…っ!」
「ですから…、お兄さんは血の繋がらない小さな弟妹がいるから祖国を離れられず、翔さんが日本を離れることになったのでしょう?
その皺寄せが凪くんにいって…!
結果、Linksの活動に制限がかかっている…!
全てあなたと家族のせいじゃないですか。」
「っ!!」
「何故そこまで彼に拘るんですか…?
彼程の才能あるドラマーは本当に貴重です。
彼にこれ以上の負担をかけないで頂きたい…。
これが私の一番の願いです。」
「あの…!」
困惑する紅葉を前に佐伯は続けた。
「…あなたなら他にいくらでも相手は見つかるでしょう?
弟や妹たち、犬までも拾って手懐けたのですから新しい男も拾ってきたらどうです?
何ならこちらで"紹介""しましょうか?」
不適な笑みを浮かべて紅葉に近寄る佐伯。
伸ばされた彼の手に怯える紅葉は思わず目を瞑った…
「いっ!!」
「?!
平ちゃんっ?!」
「っ!こんのクソ犬っ!!」
「止め…っ!!」
キャンっ!!
「梅ちゃんっ!!」
佐伯に蹴られそうになった平九郎を梅が庇って吹き飛ばされる…!
悲痛な声に紅葉は慌てて梅に駆け寄った。
平九郎は低い声で唸り、紅葉と梅の前に立ち、佐伯に向かって吠え続ける。
「もう止めてっ!!
僕の大事な家族を傷付けないで!!」
紅葉は泣きながら必死でそう叫んだ。
「紅葉っ!
何事だっ!」
そこへ大家の池波がバットを片手に駆け付けてくれた。
いつもの梅の吠える声とは違う、滅多に吠えない平九郎の異様な鳴き声に気付いてくれたのだ。
すぐに凪にも連絡をしてくれて、一先ず池波は佐伯を病院へ連れて行ってくれた。
「紅葉っ!」
「凪くん…っ!
どーしよっ!平ちゃんが佐伯さんを噛んで…っ!梅ちゃんが…っ!
2人とも僕を庇って…!
平ちゃん悪くないのに…っ!ほ、保健所行きだって…っ!!僕のせいで…っ!」
震えながらボロボロと泣き続ける紅葉の肩を抱く凪。
「落ち着け…っ!
大丈夫だから…。
梅、大丈夫か?…動ける?
よしよし…!
すぐ病院連れて行くからな。
平九郎…!偉かったな。
紅葉を守ってくれてありがとう…。」
凪は2匹を撫でると紅葉にちょっと待ってろと言って、ペットモニターへ向かった。
「凪くん…?」
「全部撮ってる。
改良して、音声もな。
おー、バッチリ…!
だから大丈夫だ、紅葉。
平九郎も梅も何処へもやらない。
さっきじいさんから電話あって、あいつの怪我も掠り傷らしいよ?平九郎が本気で噛むわけがない。」
「ほんと…っ?!」
「あぁ。
とにかく梅を病院で診てもらおう。」
「うん…っ!
平ちゃんも連れてく。
離れたくない…!」
「分かった。」
車内で凪は続けた。
「あいつのパワハラつーか、モラハラの矛先がお前に向かってるってなんとなく気付いてなんとかしようとしたけど、あいつの親がお偉いさん…どーやらレーベルの役員らしくて…
すぐに対処出来なくてこんなことになってごめん…!
紅葉のことは信頼してたけど、お前隠し事出来ないからモニターのことも黙ってた。
証拠掴めたのは良かったけど…梅には可哀想なことしたな…。」
診察の結果、幸い打撲だけで内臓などには怪我がなかったが、痛い思いをさせてしまって落ち込む凪と紅葉…。
「梅ちゃん…
平ちゃんを庇ったの…。」
「そっか…。
いつもは平九郎が庇ってくれてるからな。
やっぱそういうとこ、みなに似てるよ(笑)」
「…佐伯さん…
凪くんのことが好きなんだと思う。」
「あそ。俺はキライ。
平九郎が噛んでなきゃ俺が殴ってた。」
「……僕…」
「紅葉は何も悪くないよ。
翔くんは自分で自分の人生切り開いて前に進んだだけ。家族、恋人、友達…誰ににどうこう言われて自分の道を決めたり、考えを曲げたりするような人じゃない。
翔くんの恋人が珊瑚なのは偶然ってか、必然ってか…あ、運命!」
「…そっか…。」
自宅へ戻ると先ずは池波に謝罪に行き、もう遅いので明日また話すことになった。
「大丈夫だ。
金が必要になったらワシがいくらでも払ってやる!」
と池波は笑った。
事態が割りと大事になってしまったので、光輝に連絡して凪は話をしにいき、弁護士にも連絡を入れた。
代わりにみなが来てくれて、平九郎、梅、紅葉と一緒にいてもらう。
梅のことが心配な紅葉はソファーで休みながら2匹を見守った。
「私は紅葉の曲好き。
Linksの曲にするにはもったいないかな…。
すごく綺麗だから…」
「ありがとう…。」
「もう何も気にしなくていいよ。
あとは光輝くんがなんとかしてくれる。」
「うん…!
迷惑かけてごめんね?」
「全然!
むしろありがとう!
私もあいつキライだったの!(笑)
…紅葉、なんか咳出てるね?
薬いる?」
「ううん…いい。」
「疲れたんだよ。
凪が帰ったら起こすから寝てな。」
そう言われて紅葉は目を閉じた。
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