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第7話 4月~5月 (5)

「ん…っ?」 「あ! 気が付いた? …ここは病院よ。」 「…お母さん…?」 そこにいたのは凪の母親の早苗だった。 京都にいるはずの彼女が何故ここに?と紅葉は身体を起こして訊ねようとしたが、思い通りに動かなくて諦める。 よく見たら左腕は点滴に繋がれているようだ。 「無理しないで寝てなさい。 …あなた倒れて救急車で運ばれたのよ? 頑張り過ぎたのね。 さぁ、ゆっくり休んで…。」 そう言われて再び目を閉じる紅葉…。 「ありがとう…。 助かった。 飯もまだでしょ? 今日はもう代わるから…ホテルどこ? とりあえずこれ…タクシー代とか…。」 「お金なんか受け取れないわ。 …大丈夫? あなたも疲れた顔してるわよ? パートナーの一大事なのに仕事を抜けられないなんて…!そういう仕事だとは分かってるけど… でも…結婚出来ないって不便ね。 こちらの病院は一般病棟で個室なら融通が利くと池波さんに教えていただいたから良かったけど、もし集中治療室とか面会が家族だけってなったらどうするつもり? やっぱりお父さんに頼んで紅葉くんをうちの子にしましょう?」 「ちょ…っ! それだと俺たち兄弟になっちゃうだろ? なんつーか、ややこしいな…。 その辺はちゃんと考えるから… でも、気持ちはありがと。 さすがにビビった…! けど、LIVEは抜けられないんだ…受け継いだばかりだし…! 明日の仕事はなんとか調整出来そうだから…紅葉についてるよ。」 「私も紅葉くんが落ち着くまで東京にいるわ。 お父さんも明日来るって言うからみんなで交代しましょう。あなたも休まないとダメよ。」 2人の会話がうっすらと聞こえたのか、紅葉が目を開けた。 「凪くん…?」 「紅葉っ!! ごめんな…!」 凪の謝罪に首を振る紅葉 「さっきより顔色良さそうね。 何か飲み物でも買ってくるわ。」 早苗は気を遣ってくれた。 「迷惑かけてごめんなさい…! あの、平ちゃんが…!」 「大丈夫。 じいさんが見ててくれて、すぐにみなが来て世話してくれたから…。」 「…良かった。 また助けてくれた…。」 「あぁ。 ご褒美に肉やっとく…」 凪の台詞にふっと笑う紅葉 「お仕事…!」 「…お前はしばらく休み。 大丈夫だ…。 Linksはまた光輝が仕切ることになったから。 だからちゃんと元気にならないと…!」 紅葉は大きく頷いた。 翌日、凪の義父の正もお見舞いに来てくれた。 「はい、お見舞いだよ。 個室だと1人で寂しいと思って。」 「わぁー! 平ちゃんと梅ちゃん!」 2匹にそっくりなぬいぐるみをもらって満面の笑みを見せる紅葉。 点滴とたくさん寝たおかげか昨日よりだいぶ体調は良さそうだ。 「おまけにこれも…」 「小麦ちゃんだっ!」 義父の愛犬に似たぬいぐるみももらった。 「可愛いから僕も同じの買ったんだよ。 …思ったより元気そうで良かった。 最近テレビとかたくさん出てたもんね。 疲れたんだね。 昨日は池波さんから電話を受けた早苗さんが紅葉くんが倒れたってパニックになってすごく心配してたんだよ。」 「あなただって大変だ!すぐに行かないと!って走り回ってたじゃない~!」 2人の愛情に感激しながら、忙しいのに迷惑をかけたことを謝る紅葉。 正も早苗も気にしないでと言い、 元気になったらまた凪と2人で遊びに行く約束をした。 結局、紅葉の入院していた5日間、早苗はほぼ付きっきりで看病をしてくれた。 凪はもちろん、みなやカナもお見舞いに来てくれて、光輝は多忙になりすぎたスケジュールについて謝罪してくれた。誠一の謹慎を解いて紅葉の仕事を分担してこなしてくれているらしい。 メンバーには本当に感謝だ。 大学の友人たちも駆け付けてくれて、紅葉は徐々に元気を取り戻していった。 珊瑚とは電話で話して、大丈夫だと伝えた。 翔との新生活は順調らしく、2人のYouTubeチャンネルを教えてもらって見てみれば、コントのような日常生活がとても面白かった。 「珊瑚が幸せそうで良かった。」 紅葉は心からそう思った。

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