13 / 212

第11話 (7月) (3)

その後、 3人は凪の車で移動し、みなの入院先である病院に着いて、無事に誠一のスマホは本人の手元に戻った。 スタジオでの誠一の説教の意味を理解した光輝は頭を下げて謝罪していたが、誠一は笑顔で「おめでとう!」を伝えて、早くも父親になる喜びに泣く親友を笑いながら抱き締めた。 その様子を見て凪はある意味心配になる。 「今から泣いててどーすんの?(苦笑)」 一方、紅葉は体調の悪いイトコが心配で仕方ないようだ。 「みなちゃん…会える?」 「紅葉、今日はやめとこ。 具合悪くてツラいだろうし… LINEして、少し落ち着いたら見舞いに来よう。」 「うん…っ!」 凪に言われて頷く紅葉。 「…脱水状態で、点滴してもらって眠ってる。貧血もあるからしばらく休ませる…。 ごめん…!」 「当たり前だよ。 仕事はいいから今度こそしっかりついててあげな。」 「本当にありがとう…! 誠一も忙しいし、凪は掛け持ちで大変だし、紅葉も病み上がりなのにごめん… 宜しくお願いします。」 「気にすんな。 必要な物あれば買い出しとか行くから連絡して?えー、荷物渡したよな? ギターはとりあえずうちで預かっておく。 仕事は明日からでいーよな? 誠一、適当に決めといて。 光輝も無理すんなよ。 じゃあ…時間出来たし、紅葉、デートする?」 「!うんっ! 光輝くん、みなちゃんのこと宜しくね。」 「僕も帰るよ。 同じくみなちゃんに宜しく。 お大事に。」 そう言って病院を後にした。 誠一を送ると、機材を自宅に置いてからデートに出掛ける2人。 久しぶりに街へと繰り出し、なるべく目立たないようにくっついてそっと手を繋いだ。 「どこ行く?」 凪の声に紅葉は切実に答えた。 「ぬいぐるみ買い直したい…。 …小麦ちゃん(ぬいぐるみ)を食べるなんて梅ちゃんひどいよー!」 「平九郎(ぬいぐるみ)の隣に置いてたからヤキモチ妬いたんじゃねー?(笑)」 「そっかぁ!平ちゃんモテモテー!」 目当ての物を買えてご機嫌な紅葉。 カフェで休憩することになり、女の子でいっぱいの店内に顔を引きつらせながらも買い物に付き合ってくれた凪にアイスコーヒーとスコーンをご馳走する。 「えー? 絶対そうだよー! ヤバーい…! 本物も超イケメンっ!」 「私服カッコいいねっ!」 店内ですれ違った女の子たちが凪に気付いたようで、そんな会話が耳に入った。 コトン…とトレーを置いて、凪の向かいに座る紅葉は少し俯いた。 「…どーした?」 「凪くんがカッコ良すぎるから…」 柱の影に隠れていたつもりが見つかったのだと理解した凪は苦笑した。 「…お前もさっきの店で言われてたぞ? 気付かなかった?」 「…ぬいぐるみと凪くんしか見てなかった…。」 可愛いことを言う恋人に上機嫌になった凪は指先で紅葉の左頬に触れ、そのまま親指で形の良い唇を撫でた。 「キスしたいからこれ飲んだら帰ろっか。」 思わぬ甘い台詞に紅葉も笑みを浮かべた。 「うん…っ! 待ってね、急いで食べちゃうからっ!」 そう言ってフラペチーノとドーナツを頬張る紅葉…。 その様子を見た凪はまた甘そうなキスになりそうだな…と思いながらアイスコーヒーに口を付けた。

ともだちにシェアしよう!