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第13話 (8月) (1)
「これ…美味しいね。」
凪と紅葉の家のソファーで柚子シャーベットを食べながらみなが呟いた。
「本当?良かった!
凪くんのお母さんが贈ってくれたんだよ。
まだあるからあげるね!」
「ありがと。」
悪阻であまり食べられないイトコが美味しそうにシャーベットを口に運ぶのを見て、紅葉も嬉しそうだ。
スマホでシャーベットの販売元を調べてみると、通販は取り扱っていないようで…
紅葉は凪の母、早苗に連絡してまた送ってもらえるようにお願いすることにした。
因みに光輝とみなは、新居を建設中。
自宅の隣に音楽スタジオが併設される邸宅で、完成すればそこがLinksの練習拠点になる。
もう自宅の方は住めるのだが、まだスタジオの工事が続いていて音がうるさいので、みなの体調にも胎教にも悪いと心配する光輝に頼まれて、みなは凪と紅葉の家で過ごすことが多い。
以前のマンションも15分程のご近所だったが、池波から土地を紹介してもらい、新居は5分程の距離。
子育てを手伝う気満々の紅葉は毎日通えると楽しみで仕方なかった。
「まだ外構決まってなくて…光輝くんが庭にブランコと滑り台作るって言い出したんだけど…!あ、あと砂場も…(苦笑)」
「わぁお!素敵っ!
公園みたいになりそうだね。
そういえば、うち(実家)にもブランコ作ってもらってよく遊んだよねー。」
「そうだね。
あれってまだ現役なんでしょ?
すごいよね。」
紅葉の実家の庭にあるブランコは祖父と父と友人たちの手作りで見た目は多少悪いが、兄弟や友人たちもたくさん使ってる大人気の遊具だ。
一方、光輝の親バカっぷりは加速する一方で、まだ引っ越し前だというのにマンションにはベビー用品が溢れているらしい。
「赤ちゃん女の子か男の子か分かった?」
「まだまだだよ。
性別はどっちでもいいけど…
とりあえず一人で安心したかな。」
血筋的には双子が出来る可能性も高いので、彼女はホッとしているようだ。
「みなちゃんエアコン寒くない?
あんまり冷えると良くないからねっ!」
「膝掛けもあるし、この子たち暖かいから大丈夫。ありがと。」
平九郎と梅を撫でながらみなが答えた。
相変わらず光輝と凪は忙しいので、最近はこうやって2人と2頭の犬たちでのんびり過ごしている。
3日間の入院の後、毎日点滴に通院する彼女は相変わらず弱音を吐かない強い女性だが、妊娠中はホルモンの影響もあって精神的にも不安定になりやすいらしく、紅葉はなるべく明るく振る舞い、彼女に寄り添うようにしている。
何をするわけでなくても一緒にいると安心出来るのはきっと、紅葉と珊瑚が両親を亡くした時に彼女が同じように自分に寄り添ってくれていたからだと思う…。
夜…
「ただい…ま?」
「あっ!
お帰りなさいーっ!
今さっき、お散歩ついでにみなちゃんを送ってきたところだよー!
今日も暑かったねー。」
お疲れ様ー!と、背伸びをして凪の頬にキスをする紅葉。
凪の視線は紅葉の太股に向いている。
「えっとー…?
これはどういった嗜好なの?
何かのコスプレ?」
「ん?
あて。これ?
ちょっと冷たいの飲み過ぎたせいか足が浮腫んじゃって…シェイプアップの靴下なの!
みなちゃんがたくさんあるからってくれたよ。」
そう答える紅葉はショーパンにニーハイタイプの着圧ソックスを履いていて、太股の部分は黒のレースである。
思わず凪の視線が泳ぐのは、実は足フェチが故なのだろうか…
「…これ…、ダメなの…?」
「いや……?」
「?
どっち?」
曖昧な返答に困り顔の紅葉。
「あー…うん。
もちろん…、履いてていーよ。
足平気?
あとでマッサージしてやるからな。」
「…? うん。
ありがとうー。
先にシャワーする?」
「……。
その格好だと嬢の台詞っぽく聞こえんな…(苦笑)」
「えっ?! なに?」
知らない日本語だよ?と真面目に受け答えする紅葉と自身の思考を振り払うように眉間に皺を寄せる凪。
「何でもないー。
シャワー浴びたら、メシにしよ。」
「うん!
ご飯炊いてお味噌汁とサラダは作ったよ。」
「ありがと。
帰ってきてお前が待っててくれるとホッとする。…あー、はいはい、お前たちもね。
…上がったら昼に仕込んだしょうが焼き焼くからちょっと待っててな。」
平九郎と梅を撫でた凪はバスルームへと向かった。
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