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第22話 (11月) (1)
11月中旬…
「ただいま…。あー…疲れたっ!
やっと終わった…!」
「お帰りなさーい! 凪くんっ!
お疲れ様っ!」
日付が変わる頃、凪が帰宅すると、まだリビングがほんのり明るく、先に寝ているかと思った紅葉が玄関まで迎えに出てきた。
「珍し…、まだ起きてたの?」
「うん。 園のクリスマス会でヴァイオリン弾くことになったから練習してた!
BGMも付けてみたくなったから打ち込みしてるよー。
でもなんか変…」
「どれ? 俺見ようか?」
打ち込みは凪の専門分野なので、そう申し出ると紅葉はホッとした様子を見せた。
どうやら手こずっていたらしい…。
「いーい? ごめんね、疲れてるのに…。
あれ?でも凪くん意外と早かったね?
今日は遅くなるって言ってたけど…」
2Days×2MonthのLIVEツアーが終わり、今日は打ち上げだと聞いていたが、思ったよりも早い時間の凪の帰宅に喜ぶ紅葉。
PCを前にソファーに座る凪の隣でピタリと彼にくっついた。
その様子を寝ぼけ眼で確認した平九郎はひとつ大きなため息を落とすと、すぐに梅に寄り添って眠りについたようだ。
「あー、なんか二次会キャバクラ行くとか言うからさ。」
「キャ…?きゃばくら…っ?!
って…女の人が隣に座って高いお酒を飲むお店…?」
自分の知識を確認しながら、
もしイケメン彼氏がそんなお店に飲みに行ってしまったらと考えて青ざめる紅葉。
「そう…。露出の激しいドレスのお姉さんがこんくらい近い距離でね?
いや、…だから帰って来たでしょ?
絶対、紅葉がそんな顔になると思って…(苦笑)
エライ?(笑)」
「…うん…っ!!
危なかった…っ!」
ギュッと凪に抱き付いてキスをする紅葉。
凪から微かに香るアルコールを感じつつ、熱烈なキスに応える。
「あ、待って?」
「んー?」
凪は上機嫌で恋人の細い腰を抱いて抱き締めると耳元に口付けた。
紅葉はピクリと反応しながらも、両手で凪の胸を押すと姿勢を正して聞いた。
「あれ? じゃあAoiくんもキャバクラのお店に行っちゃったの?」
「え?! あー、うん。 多分…行ったと思うけど?」
「ダメだよ…っ!
だって…ユキくんがいるでしょ?」
Aoiには同性の恋人がいる。
紅葉はそのことが引っ掛かったようだ。
「…俺も聞いたけど…、別にいいって言うからさー…。」
「でも…!」
「…いろんなカップルがいるんだって。」
「…Aoiくんに電話してみるっ!」
「紅葉…!
お前が言いたいことも、ユキと仲いいのも知ってるけどさ…」
子猫を譲って以来、更に仲良くなった紅葉とAoiの恋人のユキ。
ユキはずっとニートだったが、紅葉から子猫を譲り受けて以来、時々隣の池波氏の家でバイトをしているのでよく顔も合わせているようだ。
「…ユキくん、今日がお誕生日なのに?
…酷くない?」
「それは…ヤベーな。
ったく、Aoiのやつ…っ!
…あ、Ryuから電話だ。
今日ローディー頼んでさ…なんかあったかな?」
凪が通話に出ると、凪の代わりにキャバクラに呼び出されたらしい後輩のRyuが彼女にバレたらヤバイと泣き付いてきたようだ。
「仕方ねーな…。スゲーダルいけど、両方回収しに行ってくるよ。」
「僕も行くっ!」
「いや、お前は…! ……分かった。
俺から離れんなよ?」
お店に着いてみると、そこは紅葉が想像していた以上にキラキラと華やかな場所だった。
紅葉は当然のように年齢確認をされて、凪のジャケットの裾を掴みながら隠れるようにしてLiT Jのメンバーがいる席へ移動する。
「キャーっ! イケメンくんが来たぁー!」
「やバーイっ!」
凪を見たホステスたちが騒ぎ出す。
サングラスをかけてきたが、あまり意味はなかったようで…
彼女たちの視線が凪に集まるのを感じた紅葉は不安になった。
そんな紅葉も話しかけられる。
「わ、本物?! 紅葉くんだよね?
可愛いっ! 顔小さっ!
細いーっ!」
「おー! 来た来たっ!」
「えー、凪? ここはデートで来るとこじゃないよ?(苦笑)」
ホステスの黄色い声とメンバーの冷やかしで迎えられて、高級そうなソファー席に座るように言われる。
とりあえず…と腰を下ろすと凪と紅葉はそれぞれRyuとAoiに話し掛けた。
「Aoiくん!
ユキくん待ってるよ?
送っていくからもう帰ろっ!」
紅葉が説得を試みるがAoiはホステスと楽しそうにしている。
「えー?
やだよ。せっかく楽しく飲んでるのにー!
ねー?」
「ねーっ!」
「でも…!
ユキくんのお誕生日でしょ?」
「そーだっけ…?
あー、プレゼントとか用意してないし。」
「えー? そうなのー?
アミ、近くにこの時間でもやってるお花屋さん知ってるよ!」
「花なんてあいつにやってもねー?
どーせ猫にやられて終わるし!(笑)」
「プレゼントなんて後でもいいから早く帰ってあげて?」
「んー…。
でも今日は打ち上げだし!
飲みたい気分なんだよねーっ!
紅葉くんも何か飲みなよ。」
「あ!私作るね。 水割りでいいー?」
「ごめんなさい、僕車だからお酒飲めないです。」
「えー! 残念ー!
じゃあ…烏龍茶?」
「あ、ありがと…。」
断りきれない紅葉は戸惑いながらもグラスを受け取った。
「やだっ! 可愛いっ! 照れてるーっ!」
「さっきから見てたけど、肌すっごいキレイだよねー! お手入れどうしてるの? エステ?」
「? 普通に…顔洗って、化粧水くらい…です。
お姉さんたちの方がキレイですよ?
…Aoiくん、飲み過ぎてない?
そろそろ帰ろ?」
Aoiに話しかけつつも、紅葉は凪の隣に座ったホステスが確実に凪を狙って話し掛けているのが気になって仕方なかった。
凪は相手にせず、彼女を適当にあしらってマツとゆーじと話しているが、2人の距離も少しずつ近付いてきていて、モヤモヤした気持ちが生まれる紅葉…。
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