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第26話 (12月) (2) ※微R18

「真実ちゃん…! あの、さっきも説明したけど、Ryuくんは凪くんの代わりに連れてかれただけで…! 遊んでたわけじゃないよ?」 「でも秘密にしてた! お酒の匂いも香水の匂いもすごかったの! それにホステスの女の子からLINE来てたの見たんです!」 「…社交辞令みたいなのじゃないかな? えっと、こんなことしても…」 「だって悔しいんだもん!」 「そっか…。うーん…。」 ガタンっ! と、音を立ててグラスを置く彼女の勢いに紅葉も次に続く言葉が見つからなかった。 真実はホストに話しかける。 「ホストクラブにもホステスさんたちがお客さんとして来ますよね?」 「うん。割りと多いよー!」 「…みんなキレイで細くて可愛い。 お金も持ってるし…。」 「真実ちゃんも十分可愛いよー?」 「…でもああいう華やかさは私にないし…。 ダイエットとかメイクとか…いろいろ努力はしてるけど、Ryuちゃんのバンド売れてきたらなんか…世界が違うなぁって。」 「そう…かな? 忙しくてすれ違いとか?」 「それもあるけどね。 私は衣装作ったり、裏方にしかなれないから…。 …やっぱりこの前みたいな事、浮気はなくても 隠し事とかされたら…今後もこういうのが続くと思ったらツラいかな。」 伏し目がちにそう話す彼女はとても落ち込んでいるようだ。 紅葉はなるべく落ち着いて穏やかに聞いた。 「それ…ちゃんとRyuくんに話した?」 「うーん…、まだ話せてないかな。 自分の中でそう思ったらわぁーって限界が来ちゃって。」 「じゃあパーっと飲もうかっ!」 盛り上がる彼女の周りと、ユキはさっきのホストにナンパ?されていてハラハラするし、紅葉自身もおだてられつつお酒を勧められたり、近い距離での接客に緊張していた。 とりあえず初回90分の約束なので、紅葉はユキと真実を見守りながら、さりげなく、ちょっとずつソファーを移動してホストとの距離を取りながら、世間話を続けた。 「5年かぁ! すっごい長いねー! 他の人と付き合ったことないの? えー、でもこんなに可愛いのにもったいない気もする。若いしさー!」 「どんどん遊んだ方がいいよー! ってか、ホストクラブは浮気じゃないよね? また遊びに来てよー!」 「でもハマると怖いなぁ…(苦笑)」 真実は愚痴りつつも、冷静な部分が残っているので少しホッとする紅葉。 一方ユキは世間知らずなところと、天然なところと、個性的なところがあって危なっかしい。 「俺、男の子も大丈夫だよ? 試してみる?」 「んと……ちょっと聞いてみてからでもいい?」 「えー、カレシいるのー?」 「カレシなのかな? …よく分からないけど、一緒に住んでる人がいて…。でも他の人と…その、…勉強して来いって…!」 「へぇー?(笑) じゃあ勉強しとく?」 「公認なら寧ろカレシと3人でってのもありかもよ?(笑)」 「なるほどっ!」 「ユキくん、ダメだってばーっ!」 「紅葉くんは頼んだらデートくらいはOK?」 「ううん…、ダメだよ。」 「カレシ怖いんだっけ? いーじゃん!内緒にしとくよ? 男同士だし、友達って言えば全然! バレない、バレない!」 「でも嘘はダメなんだよっ!」 「えー? お堅いねー。 …じゃあLINEは? 教えて?」 「…ごめんね、教えられない…。」 「悪用しないよ? オトモダチならいーじゃんー? ホストって話聞いて癒すの得意だし、 カレシの愚痴とか、悩みとか…聞いちゃうよ?」 「でも…!」 「あっ! じゃあご飯はー? ご飯くらいならさすがにカレシも口出ししないでしょ?」 カレシ(凪)について愚痴るような不満はないし、癒しは愛犬たちと家族、兄弟、実習先のこどもたちで間に合っている。ご飯は凪と食べたい紅葉…。 身を乗り出して近付くホストに紅葉が困惑していると… 「俺が何?」 「っ?!」 「凪くんっ!」 下を向いていた紅葉が、聞き慣れた恋人の声に反応して勢いよく顔を上げると、そこには凪が立っていた。 物凄く不機嫌そうな顔で…。 しかし、ホストより整った顔立ちの彼はその迫力と威圧感もスゴかった。 「…そこどいてもらえる?」 「あ、ハイ…っ!」 紅葉の隣に座っていたこの店のナンバーツーを睨みを効かせた一言で退かせると、長い足で恋人の隣へ向かった。 「ったく…!」 「…ごめんなさい…!」 明らかに不機嫌な彼に素直に謝る紅葉。 「…何してんの? さっさと帰るよ。 …ほら、そこの2人も!」 紅葉を立たせると、真実とユキにもそう告げた凪は財布を取り出してさっさと支払いを済ませてしまう。 「あ…、私が…!」 「いくらか分かってんの?」 見せられた伝票は20万円をこえていて、青ざめる真実…。 凪は溜め息をついた。 「ここは出しとくから…。 もう2度と来るなよ?」 「…はい。」 「凪くん、僕も払う…っ!」 「お前はあとで…」 "オシオキ"と唇の動きだけで言われて固まる紅葉。

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