29 / 212

第27話 (12月) (3)

その後、真実とユキを送ることになった。 真実はRyuと暮らすマンションではなく実家へ送って欲しいとお願いされて、さすがに凪も後輩を思い、優しく彼女を諭した。 「今日は本当に申し訳ありませんでした。 紅葉くんもユキくんも私に付き合ってくれただけなので…!巻き込んでしまってごめんなさい。 お金も…バイト代貯金してるので、後日きちんとお返しします。」 「あー… マジで、この前の件はあいつは悪くないし…! 今日のことも気にしなくていーから…! 頼むから別れるとか言わないでね?」 「ちょっと…冷静になって考えてみます。 Ryuちゃんのこと…よろしくお願いします。」 「どーしよ…っ!」 「…ヤバイなぁ…。 何か考えねーと…。 次、ユキ…。 俺Aoiの家大体しか知らないけど…住所とかって…」 「凪くん…! ユキくん寝てる。」 「……マイペースな奴だな…(苦笑) もういーや、Aoiに聞くし…!」 連絡するが、歌録りの真っ最中らしく、集中してるから…と、言われてしまい…この日は凪と紅葉の家へ連れていくことに。 ぐっすりと眠ったまま起きないユキを凪が抱えて、客室のベッドへと寝かせた。 自分以外の男の子を横抱きにして歩く凪を見ていた紅葉は複雑な気持ちになった。 「あいつ見た目より軽いな…。 …じゃあ、俺はスタジオに戻るから… 風呂入るなら入ってさっさと寝ろよ?」 「はい…。 お仕事中だったのにごめんなさい…。」 「それはいーけど…、ホストクラブはダメだろ?(苦笑)お前の方が年上なんだから、彼女が店に入る前に止めないと…!」 「…ごめんなさい…!」 「……一週間キス禁止。」 「えっ?!」 「オシオキ」 「やだっ!」 「お仕置きです。」 「そんな…っ!! え…っ?!ホントに? む、無理ーっ! やだよ…っ!」 涙目の紅葉を見て凪の決心が揺らぐ… 「……じゃあ4日。 あと4日でレコーディング終わるから…多分。 それまで、キス禁止ね?」 どのみちその4日は凪はレコーディング、紅葉は実習と学校でテストがあり、すれ違い生活だから顔を合わせることも少ないのだ。 紅葉は溢れる涙をコートの袖で拭い、なんとか頷いた。 「嫌いになってない?」 「なってない。 ただ、スゲー心配したし、紅葉だって俺に悪いと思ってるとこあるよな? そこは反省して?」 「…分かった…っ!」 その後、凪を見送ってからビービー泣く紅葉を平九郎と梅が起きてきて、顔を舐めながら慰めてくれた。 夜通しレコーディング作業に終われた凪は昼前に帰宅し、いつもは駆け寄ってくる愛犬たちに微妙な距離を取られていることに眉を寄せた。 「何? 別に虐めてるわけじゃねーんだって…! ……何これ?」 ダイニングのテーブルの上には紅葉が作ってくれたのだろう、朝ごはんとお弁当まで用意されていた。 側に置かれた手紙にはお疲れ様の文字と、今日も長時間作業になるならお弁当を持っていって欲しいと書かれていた。 凪は驚きつつも、二段弁当を手にした。 「…すごいな。 朝から2つ弁当作ったってこと? …いや、何これ… …両方ご飯なんだけど?(笑) えっ?! あいつおかず二個持っていったの?(笑) なんか…もう許しちゃいそうなんだけど…(笑)」 凪は爆笑しながらも可愛くて健気な恋人を思った。 お昼に紅葉から「ごめんなさい、お弁当間違えました!」のLINEが入っていて、凪は「さすが紅葉ー!徹夜明けに爆笑した。」と返信した。 それでも凪はご飯だけの弁当を持って夕方からまたスタジオへと向かったのだった。 一方、失敗続きの紅葉は凪とのキスを禁じられて日に日に元気がなくなっていた。 今までもすれ違い生活はあったが、相手が寝ている時にこっそりキスをしたり、くっついて一緒に眠るだけで元気が出ていたのだ。 今回は全くそれもなくて、紅葉のテンションはだだ下がり… 一発合格が当たり前だった実技の課題テストもリテイクをもらってしまい、約束の4日間を過ぎて5日目も学校へ行くことに…。 更に追い込まれることになっていた。 追加課題を課せられたが、なんとかOKをもらい、大学を出る紅葉… 凪のスケジュールを確認して、一刻も早く逢ってハグとキスがしたかった。 ちょうど凪からLINEが入っていて、学校が終わったと伝えると、そのまま繁華街の駅で待ち合わせたいと書かれていた。 駅で待ち合わせなんて珍しいなぁと思いつつ、家に向かうバスではなく、電車に乗り指定された駅の改札口へ降り立った。 車で来るはずの凪が分かりやすいようにロータリー近くに移動し、ヴァイオリンケースを片手に、髪型をチェックしているとナンパされる紅葉…。 もちろん相手は男性で、驚きつつも丁重に断り… しかしまたナンパされて、少しずつ場所を移動しながら凪に見られていないことを願う紅葉。 「あれ? 女の子みたいなのかな?」 女の子にしては髪も短いのだが、変装のために被った帽子で髪の長さが分かりにくいのかもしれない。 細身の黒のスキニーにシンプルなブーツ、ベージュのコート、首もとは黒のふわふわマフラーで口元を覆っているせいで女性に見間違われるのかと思う紅葉…。 3人目の男性にナンパされて「男です…」と断ったところで凪が現れてホッとする紅葉。

ともだちにシェアしよう!