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第30話(12月②) (1)
12月末日…
凪はLiT JのLIVEとLinksの新曲作業に追われ、紅葉もクリスマスコンサートや実習先の幼稚園のクリスマス会、モデルの仕事などに追われ…なんとか仕事納めを終えた2人。
明後日から凪の実家へ帰省するため、空き時間に支度をする凪と紅葉。
ありがたいことに2人の物も愛犬たちに必要な物もほとんどを向こうで凪の両親たちが揃えてくれているので持ち物はお土産くらいなのだが…
「えっと…小麦ちゃんへのお土産のおやつは…?
…あっ! 梅ちゃん! それダメだよ! 返してっ!ダメダメ…!」
恒例のようにリビングでの追いかけっこが始まる。
凪は賑やかで元気な愛犬と恋人を眺めながらコーヒーを片手にルート確認や渋滞予測をチェック中。
「おっ! ここのSA新しいドッグラン出来たんだ…。せっかくだし、寄るか。」
和やかに(?)過ごしていると、平九郎が玄関先に向かい、珍しくワンと吠えた。
「ん? どうしたー?」
駆け寄ってくる平九郎に凪はモニターで玄関を確認する。
門もあるが、用心に越したことはない。
不審者などでなければ良いのだが…
「? ユキ?」
用心しながら玄関を開けると、すぐ側で踞るユキがいた。
彼は凪の掛け持ちしているバンド、LiT JのボーカルAoiの恋人で、紅葉の友人だ。隣に暮らす池波宅で買い物などの家事や通院の付き添い等のバイトをしているので、普段からよく顔を合わせる。
「おい、大丈夫か?」
「ユキくん?! 大丈夫っ?! どーしたの?」
紅葉も慌てて駆け寄る。
元から色白で細身の青年だが、明らかに顔色が悪い…。
とりあえず家の中へと促して休んでもらう。
「お腹痛いんだって…。
2階の部屋エアコンと加湿器つけて寝てる…。」
「水分とれてる?」
「うん。 …少し熱っぽいけど、吐き気はないみたい。」
「そっか…。とりあえず様子見でいーかな…。
紅葉ついててやって。
あー、年末で病院休みのとこ多いから…一応救急やってるとの調べといて?
Aoiには連絡しとく。
空港には俺一人で行くから。」
「でも…!」
空港へ行く理由は紅葉のすぐ下の弟アビーが来日するためだ。
凪は気にするなと、話を続けた。
「もしユキをうちに泊めるとなったら、アビーはみなのとこでも大丈夫だろ?
とりあえず迎えに行ってくるから…何かあったら連絡して?」
「分かった。 …任せてごめんね、ありがとう。 よろしくお願いします。」
「おー。
看病優先で、出来たらでいーけど、荷造りよろしく。」
「はい。
気をつけてね。」
紅葉が凪の頬に軽いキスをすると、
凪はいつものように紅葉の頭をポンと撫でて車のキーを手にした。
凪が空港に到着すると、ちょうど紅葉から着信が入った。
広い空港内を移動しながら通話に出る凪はサングラスと帽子を被り、長い足で到着ロビーへと向かう。
変装していてもモデルのようなバランスのとれた長身と、シンプルな服装だが、どこか目を引く出で立ちにすれ違う人々が思わず振り返って見ている。
凪はそんな視線も気にせず通話を続けた。
「どんな感じ?」
「少し落ち着いたみたい。
話してたらいきなり寝ちゃった…(笑)
凪くん…あの…!」
「どーした?」
「…Aoiくんは?」
「今取材受けてるらしいから終わったら迎えに来いとは伝えたけど?
…何? あいつまた何かやらかした?」
「…多分…。
あの、言いにくいんだけど…
ユキくんから聞いちゃったから…話すね?
昨夜、その…Aoiくんとそーいうことがあって…」
言葉を濁して話す紅葉の意図を探りながら、アビーの乗った飛行機が定刻通り到着したことを確認する凪。
「そーいう? あー、はいはい。」
「えっと…、中の、を、そのままにしちゃってたみたいで…!
ユキくん、処理の仕方が分からなくて…?
っていうか、お腹痛くなるって知らなくて…。
多分それかな?って言ってるんだけど…。」
「ハァー?
もうあいつシメる!
年上だけど、いい加減過ぎてこっちも腹立つわ。
あいつ迎えに来たら俺が帰るまで待たせておいて?」
マナーとして許せんと溺愛派の凪は怒っていた。
因みに「紅葉くんたちはどーしてるの?」というユキの直球質問に、紅葉は赤面しながら真面目に答えたそうだ。「え…、と、ゴムしてくれる…。けど…、たまにそうなった時は凪くんがお風呂で綺麗にしてくれる…。僕も自分で後処理したことない…。」と。
そのまま凪がAoiの愚痴を続けるのを紅葉は黙って聞いていた。
「うん…、僕もAoiくんにユキくん辛そうにしてたよってLINEしとくね?
えっと…そっちは無事着いた?」
「そろそろかな?
…おー、来たっ!
アビーこっち!」
キョロキョロと辺りを見渡すアビーを見つけた凪は手を振った。
また少し背が伸びたようで、凪と並ぶと同じくらいだ。身体つきも大人っぽくなっている。
きっと紅葉と並んだらアビーの方が兄だと思われるんだろうな…と凪は心の中で感じていた。
紅葉は電話越しに迎えに行けなくてごめんねと弟に謝り、2人の帰宅を待つことに。
帰宅後、一応事情を聞いたのかアビーは兄(紅葉)との再会を済ませるとお土産を手に2人でイトコのみなの家へ向かった。
凪は「自分勝手もいい加減にしろ」と、Aoiに説教したが、のらりくらりと軽く流され、ユキもAoiが迎えに来てくれただけで嬉しかったようでまだ微熱の残る身体で帰っていった。
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