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第34話(2月) (2)
「ありがとうございました…。」
紅葉は改めてお礼を伝えて頭を下げた。
「いーえ!
大丈夫だった?
この辺り、たまに質の悪いヤツがいるから気をつけてね! こんな時間に可愛い子が1人でいたら危ないわよ?」
優しい笑顔でそう言われてホッとする紅葉。
しかしまだ不安そうな表情をしていたようで、寒いし、落ち着くまでお店に来るように言われる。
「でも…、僕…お財布忘れちゃって…!」
「あら、そうなの?
大丈夫よ。お財布がないならぼったくられないから安心じゃない!」
アハハ!と上機嫌で笑うお姉さん(オネェさん)はこの近くでバーをやっているそうで、恵津子と名乗った。
紅葉は迷ったが、ついにバッテリーの切れてしまったスマホを見て決心した。
「すみません…、電話って貸してもらえますか?」
恵津子は2つ返事でOKをして、狭い路地を進み、小さな雑居ビルへと案内してくれた。
「変なお店じゃないから大丈夫よ。
心配ならここからほら、覗いて見て?
嫌ならこのまま走って逃げたらいいわ。」
こじんまりとした店内は普通のバーで、お客さんなのか従業員なのか分からないが、オネェさんたちが賑やかに話し込んでいた。
「安心した?
狭い割に騒がしいけど、良かったらゆっくりしていって。」
「あら、可愛い! 若いっ!
恵津子、この子どうしたの?
まさか拐ってきたの?」
「バカね! 保護してきたのよ!
ちょっと! 手出したらダメよ。」
わいわいと囲まれながらもカウンターに案内された紅葉は、勧められるがままに椅子に座った。
「何か飲む? 喉乾いたでしょ?」
「でも…!」
「遠慮してるのね。じゃあ無料のお水にする?」
奢ってあげるわよー!という恵津子の友人たちに初めましてなのに悪いからと断り、
「なんてイイコ!」
「可愛い!」
「顔が小さすぎっ! 私の半分よ!」
「1/3じゃない? お肌も…見て!透き通って、整って…お人形さんみたい!…ちょっと近くでよく見せてね。」
などと盛り上がっている。
落ち着いたところで電話を借りて、かけていいのか迷ったが、「また絡まれたら危ないから迎えに来てもらった方がいいわよ。」と言われて、暗記している凪の番号に電話をした。
なかなか繋がらず、知らない番号だから出てくれないかもと不安になる紅葉。
「じゃあコンビニで充電器買ってきてあげるわ!」
オネェさんの1人が気転をきかせてくれたその時、ようやく電話が繋がった。
「はい…? 誰?」
いつもとは違う、余所行きの低い声でそう聞かれて一瞬言葉に詰まる紅葉…。
他の人にはこんな口調で話すのかと思うと不思議な感じがした。
「あ、あの…っ!」
「…紅葉??」
「うん。
凪くん、ごめんなさい…。
事務所に鞄忘れて、スマホも充電切れになっちゃった…。」
「はぁー?
何やって…いや…、
で? 今どこにいんの?」
「えっと…親切なお姉さん…?たちのとこ。
え? 住所…?」
紅葉が困っていると恵津子がスマホを手に取り、話し始めた。
「もしもーし!
2丁目のPinkDiamondsってオカマバーで預かってるから迎えに来てちょーだいっ!
番号通知出てるでしょ?ちょっと場所分かりにくいから検索して分からなかったら電話してね!
え? 失礼ね、大丈夫よー!
取って食べたりしないんだからっ!
何? …あ、うん。それは別にいいけど…?
はいはい…!
はい、ダーリンよ。」
なにやらすごい勢いで会話を終えた恵津子は再び紅葉に代わった。
「もしもし…?あの…」
「打ち合わせもう少しで終わるから…そしたら迎えに行く。
んと、40分くらいかな…?押しても一時間はかかんないから、そこでなんか食わせてもらって待ってて?」
「うん。 …ごめんね?」
「…マジで心配してたんだからな?
俺が行くまでいい子に待ってろよ?
ちゃんと飯も食うんだぞ?」
「はい。」
通話を終えて紅葉は恵津子にスマホを返した。
「お腹すいてるだろうから何か食べさせてやってくれってあなたのダーリンに頼まれたんだけど…うちフルーツとかしかないのよね…」
困り顔の恵津子…
すると仲間たちが乗り出した。
「じゃあ、ピザでも頼みましょうよー!
あたしもお腹すいちゃった!」
「ピザー? あんたまた太るわよー?」
「うるさいわねっ!
もうピザの気分なの!
えー、どれにしよう?
紅葉ちゃんはどれがいい?
照り焼き、トマト、シーフード…あ、パイナップルのピザとか好き?」
「パスタも頼めるわよー。」
「んと…
全部ーっ!!」
「…全部?(笑)
いきなり遠慮がなくなったわね…。
ダーリン効果かしら?(笑)」
どうやら紅葉は凪が迎えに来てくれる約束をしてくれて安心したのか腹ペコだったことを思い出したようだ。
お店のフルーツやナッツのおつまみを食べながらピザの到着を待ち、ピザが届く嬉しそうに口へ運び、パスタにポテト、サラダやジュースも次々に食べていく。
「さすが若い男の子…!
細いのに見た目より食べるのね…。」
「可愛くても食べっぷりは男だわ…(笑)」
皆も驚く食べっぷりだった。
「紅葉ちゃんのダーリンって噂の人よね?
同じバンドの…」
「うん…。一応内緒だけど…」
「やだー! みんな知ってるわよ?(笑)」
「そうなの?(笑)」
「イケメンよねー!
お迎えに来るの楽しみー!
どんな人?優しい?」
「ふふ…。
何でも出来てすっごい優しいよ。
でも僕が失敗ばかりだから…呆れてると思う。」
「そんなことないわよー!
こんなに可愛い子と付き合えてるんだから、ねー?」
「ほんと!
さっきも電話で話した時、私のこと"信用していいのか?もし何かあったら許さないからな"って脅……、ううん、"くれぐれも宜しく"ってお願いされたのよ。」
「凪くん…っ!」
キュンキュンする紅葉とは対称的にオネェさんたちは一歩引いていた。
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