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第37話 (3月) (1)
3月は別れの季節…
もちろん凪と紅葉の仲は変わらずだが、
今年の3月は涙から始まった。
「うっ…、えっ、っ…!えっ、く…」
「…大丈夫?」
「ん。 …ありがとっ。」
凪に差し出されたティッシュで思い切り鼻をかんだ紅葉。
大きな瞳からはポロポロと涙が溢れていた。
そんな恋人の姿を見た凪は、少しでも紅葉が落ち着くようにと、ソファーの隣に座って肩を抱いた。
2人の愛犬、平九郎と梅も近くにきて紅葉の手を舐めたり、クゥークゥー言いながら心配しているようだ。
「で? …完成したの?」
「うん…っ!
どう、かな?」
ノートPCに映し出された動画と音楽を確認する凪。
2人が見ているのは紅葉が教育実習で訪れた幼稚園の卒園式用で使われるアルバム動画だ。
既に実習は終わっているのだが、せっかくだからとこの動画にBGMをつける大役を任された紅葉。(因みにボランティア)
ヴァイオリンがメインで、控えめにピアノをのせたBGMはゆっくりとしたとても優しい旋律が印象的な紅葉のオリジナルの曲。
写真の切り替わりに合わせて盛り上がりや、間合いなどもきちんと取れているし、全体的なバランスも良いので凪はその出来映えに感心し、大きく頷いた。
「…うん。いいと思うよ。
…きっといい式になるよ。」
「うぅ…っ!」
作業中は動画を見る度に感動と寂しさで泣いていた紅葉。何回見ても反射的に涙が出てくるようだ。
「泣きすぎだって…(苦笑)
ほら、ティッシュ…!」
「だってー、みんな“紅葉先生ー!”って言ってくれてね…!
見て、これ入園した時…!
あ、僕いなかったけど、こんな小さかったんだね…っ!もう…小学生になるんだね。
うぅ…嬉しいのに寂しくて…。
凪くん…っ! 僕…この仕事向いてないかも(苦笑)」
確かに…数ヶ月の付き合いの園児たちにここまで感情移入していたら、卒園式の度に身が持たないだろう…。
卒業後はバンド活動とは別に、フリーで幼稚園や保育園、児童擁護施設などを回ってこどもたちに音楽を使った遊びを教えたいと考えている紅葉。
必然と出会いと別れが多くなるだろう。
…果たして大丈夫だろうか…。
思わず心配になる凪だったが、そんなことないから…と励まし、目が真っ赤に腫れた恋人を抱き締めた。
「卒園式も呼ばれてて挨拶するんだろ?
本番は泣くなよ。
あと、多分大丈夫だろうけど…スーツのサイズ確認しとけよ?」
「はぁい…っ! ぐす…っ」
紅葉の涙に弱い凪はなかなか泣き止まない恋人を前に狼狽えていた。
「…ねー、肉じゃが作るから泣き止んで?
ほら、さっきから平九郎たちの視線がさ…!
なんか俺が泣かせてるみたいじゃん?(苦笑)
あ、キスとかする?」
「…っ!うんっ!」
その2つで泣き止んだ紅葉はもう笑顔を見せていた。
凪もホッとして、目元に口付けてから唇を塞いだ。
でも…この涙はまだほんの始まりで、序章に過ぎなかった。
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