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第38話 (3月) (2)
※シリアス展開のためBL要素あまりありませんがご了承下さい。
※親族の訃報のお話になるので、苦手な方はご注意下さい。
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卒園式を翌日に控え、紅葉は会場設営の手伝いをするべく、久しぶりに実習先だった幼稚園を訪れていた。
そこで指導を受けていた、一番厳しかった里佳先生が退職することを聞き号泣する紅葉。
「なんで紅葉先生が泣くのー?
私、怖いお局だったでしょ?」
「里佳先生厳しかったけど、でも…っ!
こどもたちの安全のために大事なこと真剣に教えてくれたし…!
保護者の方も里佳先生のことすごい信頼してて…!尊敬してました。
うー!なんで辞めちゃうの?
もしかして結婚ですか?
いつの間に彼氏出来たの?
あと…おつぼねって何?…壺? 骨??」
「…相変わらずだね、紅葉先生…(苦笑)
残念ながら、親の介護で田舎に戻るのよ。
向こうでお見合いでもしよっかなー?」
「介護…!
お見合い…?あ、それは知ってる!
でも…里佳先生? 確かお見合いではおしとやかにしないとダメなんだよ?」
「何よ…(苦笑)
せっかく“BGM素敵ね”って褒めようと思ったのに!(笑)」
和気あいあいとしながら、卒園式の準備をして、夕方早めに帰宅した紅葉。
ツアー前の準備で在宅ワーク中の凪と共に休憩をしようとコーヒーメーカーをセットし、おやつも出そうとしていた。
ガッシャーン…っ!!
派手な音を立てて食器棚から1枚の皿が落ちた。
驚いた平九郎と梅がワンと数回吠えたが、すぐに落ち着いてくれた。
「わっ!
やっちゃったぁー!
ごめんなさーい…っ!
…平ちゃん、梅ちゃんもビックリさせてごめんね。危ないからそっちにいてね。」
「紅葉は? 怪我してない?」
「平気。
手が滑っちゃって…!
ごめんなさい、お皿…!」
素手で割れた皿を片付けようとする紅葉を凪は慌てて止めた。
「紅葉! 危ないからいい。 俺がやるよ。
お前…手怪我したら…っ!」
ヴァイオリンを弾く大事な手なんだからと凪は言って紅葉の手を取り、破片で切ってないか確認した。
「良かった。大丈夫そうだな…。
…ん? どうした?」
ふと、紅葉の表情がいつもと違うことに気付く凪。
紅葉は凪に包まれた自分の両手を見つめながら不安を口にする。
「なんか…イヤな感じがする…!」
「えっ?! どっかぶつけた?」
「あ…! 違う…っ!
手じゃなくて…。
…なんか良くないことが起きそう…!
っ! 珊瑚に連絡しないと!」
紅葉はそう言うと、慌ててスマホを取りに行った。
「なんだ…?」
不思議に思いながらも、凪は一先ず割れたお皿の片付けを始めた。
その後、どこか不安気な紅葉は凪や平九郎、梅、池波氏を始め、家族や友人、メンバーなど、親しい人に何も起きませんようにと祈りを捧げていた。
普段は食事の時なども含めてキリスト教のお祈りをしない紅葉。
出会った頃にも、紅葉の実家でもやらなくていいのか聞いたことがあったが「お父さんとお母さんが死んじゃった時、“神様なんていない”って珊瑚が言ってて…僕もそれからやらなくなった。」と聞いたことがあった。
祖父母も2人の意思を尊重して強要しなかったらしい。
だから余計に珍しいなと凪は感じていた。
「変な感じって…別に体調悪いとかじゃないんだよな?
…とりあえず明日朝早いんでしょ?
寝坊したら大変だからもう寝な?」
凪は紅葉に休むように言った。
「眠るまででいいからぎゅってして…。」
可愛いお願いに頷いて、何かに怯える恋人を抱き締める凪。髪や額に口付けると安心したのか、紅葉はすぐに眠りについた。
ホッとし、作業に戻った凪。
LiT Jは明日がリハーサル、明後日がツアー初日なので確認事項が山程あるのだ。
時々紅葉の様子を見に寝室を覗き、
ようやく寝ようと凪がベッドへ向かったのが午前4時。
ベッドサイドの小さなテーブルに置いた紅葉のスマホに着信が入る。
電話の相手は双子の片割れである珊瑚。
昼間の紅葉の様子から凪は胸騒ぎがして、咄嗟に通話をスライドすると「ちょっと待って!」とだけ告げてから紅葉を起こした。
「紅葉! 起きて。
珊瑚から電話っ!
紅葉!」
「…? っ!!」
飛び起きた恋人は凪からスマホを受け取ると恐る恐る電話に出た。
いつもは日本語で会話している2人なのに、今日はドイツ語だ。
恋人の口から発せられる久々のドイツ語に、懐かしさを感じる間もなく、すぐにそれが嗚咽に変わり、凪は訃報だと察した。
紅葉の嫌な予感は当たってしまったらしい。
泣き崩れる恋人を抱き止めて、ベッドに投げ出されたスマホを拾い、電話を代わる凪。
珊瑚は落ち着いていて、すぐに流暢な日本語で凪に状況を教えてくれた。
「あばあちゃんが…!
朝、なかなか起きて来なくて…!
いつも早いのにフィンがおかしいなって呼びに行ったら、おじいちゃんが“寝坊かい?”って呼び掛けてるとこで…でももう…!
レニが休みで実家にいたんだけど、昨夜喧嘩したみたいで…パニックになって、フィンもだけど…!
とりあえず朝早く学校に向かってたアビーを呼び戻してもらって、俺らも駆け付けて…
一応警察とか病院とか…なったけど、血圧の薬もちゃんと処方量守ってたし…他聞寝てる間に…って感じみたい。
ごめん、バタバタしててこんな時間になった。」
「そっか……。
気にしなくていい。
…大変だったな…。」
「そっちも忙しいだろうけど…
もし来れるなら葬儀待つから教えて欲しい。
あと、みなには言わないで。」
こんな時でも珊瑚は妊娠中のイトコを気遣った。
「分かった。
とりあえず一回折り返す…。
珊瑚…大丈夫?
大丈夫じゃないよな…
ごめん、任せて。」
「俺が長男だから…なんとかする。
でも…ちょっと…手が足りなくて…
サチが翔から離れないし、レニも不安定で…!
みんなだけど、特におじいちゃんは現実受け入れられないって感じだから…。
ごめん、なるべく早く紅葉こっちに帰して欲しい。」
「…分かった。」
凪は通話を終えると、無言のまましばらく紅葉を抱き締めた。
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