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第42話 (3月) (6)
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昨夜の電話で弟たちも少しずつ落ち着いてきたので、凪の誕生日までには帰国すると紅葉から連絡があった。
あと数日で逢える喜びで、自然と上機嫌になる凪。
鼻歌混じりにたくさん料理を作ったので、みなの家に持っていくことにした。
愛犬たちも散歩ついでに連れ出して徒歩15分程で到着。
みなと光輝の自宅は室内の扉でスタジオと繋がっているのだが、プライベート空間と分ける為に外との出入口(玄関)は自宅側とスタジオ側の2ヵ所に分かれている。
Linksのメンバーとスタッフのカナだけがスタジオの鍵を持っている。
凪は彼女が寝ているかもと思い、自宅側のインターフォンは鳴らさず、スタジオ側へ回りった。
平九郎と梅は庭先に繋いでおく。
スタジオにも小さな冷蔵庫があるので、いつもそこに料理を入れてLINEで連絡をしているのだが、みなは起きていたようで、解放された扉からスタジオを覗くと声をかけてくれた。
「あ、凪…!
ちょうどいいとこに。」
「はよ…。
おかず入れといたから。
ガパオとシュリンプサラダ」
「いつもありがと。
…ねぇ、タクシーの連絡先書いたやつ見なかった?」
「さぁ?
検索すれば?
ってか、どっか行くの?
時間あるから送るよ?」
「あ、いい?
なんか破水したっぽくて病院に聞いたらすぐ来いって言われてさー。
普通のタクシーダメなんだよ。
陣痛タクシーじゃないと。
でも番号登録してなくてさー!」
「は…?
何言ってんのっ?!
え? 大丈夫?
破水?? それって産まれるってこと?」
「大丈夫だよ?
多分ね。
ねぇ、光輝くんが入れた陣痛アプリ、痛みがないから使い方が分からない。」
あっけらかんとしている彼女に凪は驚き本人以上に慌てた。
「とりあえずソッコーで車取ってくるから!」
平九郎たちと全速力で走って、いつもは愛犬たちのブラッシングと脚を丁寧に拭いてから家に上げるのだが、そんなことはしていられない。
急いで免許証の入った財布と車のキーだけ持って今来た道を戻った。
が、みなは呑気にガパオライスを食べて待っていた。
安全運転で、でもなるべく急いで病院へ向かう。
「光輝は?連絡したの?」
「今カナと誠ちゃんの見送り行ってるー。」
「えっ?マジで?」
今日渡米する誠一とは先日飲みに行ったばかりだ。
「光輝くんは絶対パニックになるから、カナに連絡した。さりげなく連れてきてって。
ってか、光輝くん絶対邪魔だよねー。」
「え?
何、あの2人そんな感じなの?」
誠一とカナ、確かにお互い今はフリーなはずだが…意外な組み合わせだと驚く凪。
「今すぐは無理だろうけど、将来的にどうかなー?
誠ちゃんにあんだけズバズバ言える子ってなかなかいないから…。」
「確かになぁ…。
え? ってか、お前なんでそんなに余裕なの?
痛みとかないの?」
「別になんともないよ?
…あっ!ヤバイ!」
「何っ?!」
彼女の声にビックリする凪。
赤信号がもどかしくて、このまま車内で産まれてしまわないかとハラハラする。
「2階の窓閉め忘れちゃったかも…
凪、悪いけど後でまた家に行ってくれる?
雨降りそうだし…。」
「……お安い御用ですよ。
頼むから病院まで待てよ?」
無事に病院に着いて、バタバタと慌てるスタッフの後を荷物を持って追いかける凪。
帰るタイミングが分からず、突然の事態に異様な緊張を感じつつ、とりあえず光輝が来るまで…と思い付き添うことに。
でも特に何も出来ず男は無力だな…と感じる凪。
「ご主人ー?
あれ? ご主人じゃないですよね?
あの…いつも必死…一生懸命に先生にご質問されてる方は?
すぐ来れる?」
「今成田から向かってまーす。
あと1時間くらいかなー?」
みなはベッドでモニターやらいろいろつけられて、そう答えるとタブレットをいじっていた。
「こんな時に何してんの…?」
「あ、これ?
締め切り3月末までだったやつなんだー。」
「……産休中にやっとけよ。」
「いや、眠気が酷くて寝るのに忙しくてさ。
それに時間があるとやらないものなんだよ。」
「だからって今じゃなくね?(苦笑)」
「…じゃあ何しよう?
何か食べてもいいかなー?
みんな何してるんだろうね?」
一般的には陣痛に耐え苦しんでいるはずだ。
なんかさっきから隣から苦しそうな声が聞こえるし…!
自分はなんともないのにその声を聞いているだけでヒヤヒヤしてくる凪…さっきから手汗がヒドイ。
痛みに強い…(というか鈍い)彼女はモニターの波形的には確かに陣痛がきているようだが、全然痛くないそうで…
「今日産まれるかな?
やっと逢えるねー!」
助産師さんたちも驚いていた。
「あの、もう少ししたらLDR(分娩室)に移動してもらいたいんだけど…」
「待って、これだけ書いて送らないと…
よし!
え、光輝くん間に合うかな?
凪ー、ビデオだけセットしてってよ。
そこの鞄に入ってるから。
ついでに飲み物も取って?」
「マジで?
なんか俺、変な汗かいてきたんだけど!
なんで紅葉いないの!
もう光輝! 早く来いよ!」
凪は思わずこの現状に叫ぶ。
バンドメンバーで、恋人のイトコの出産にこんなに深く関わることになるとは思わなかった。
結局、緊張しながらもとりあえず分娩室にビデオカメラをセットして、カナにLINEを送りまくった。
その間みなは何故か車のカタログを見ている。
「だから…何してんの?」
「免許取ったのに光輝くんが運転させてくれないんだよね。でもこの子が産まれたら、やっぱり私も車が必要だと思うんだよね。」
「はぁ…。 今、選ばなくて良くない…?」
「もうディーラーでだいたい決めてて、オプション悩んでるんだー。
出産後だったら光輝くんOKくれそうだから決めとかないと。」
「(苦笑)
出産祝い、チャイルドシートでいい?」
「うん! ありがとうー!」
その後、大パニックの光輝が無事に到着して、ようやく凪は緊張感から解放された。
頼まれた窓の施錠をし、自宅へ戻るとどっと疲れを感じしばらくソファーから動けなかった。
そしてあっという間に新しい命の誕生を知らせる連絡が入り、また驚いたのだった。
まるで紅葉の祖母から命のバトンを繋ぐように産まれた赤ちゃんは女の子。
予定日より早く生まれたため少し小さめではあるものの健康なようで、もちろん、みなも無事だった。
光輝は待望の我が子の誕生に感動し過ぎてずっと泣いているらしい。
出産中は担当医も驚く程の専門知識で妻と赤ちゃんの状態を確認し、号泣しながら指示を出していたようで…みなはドン引きだったとか。
凪は命の恩人だと電話口にずっと感謝されていた。
紅葉にもその日のうちに報告すると「えっ? もう産まれたの? わぁー! おめでとうー!!
みんなー! みなちゃんに赤ちゃんが産まれたよ!」
向こうの家族も大盛り上がりだった。
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