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第49話 (5月) (1) ※微R18

「…落ち着いた?」 「うん…。ありがと。」 紅葉は凪から受け取ったホットワインの入ったマグを両手に持ち、一口、口に含むと深呼吸をした。 夢を見ていたのか…夜中にうなされて起きてしまったのだ。 凪はまだ起きていて、PCで作業中だったので、リビングへ降りてきた。 「すっかり目が覚めた感じ?(苦笑)」 「うん…困ったな…(苦笑) 凪くん…一緒に寝てくれる?」 「…いいよ。 もうちょっとで終わるから待ってて。 眠れそうなら寝ちゃってもいーよ。 運ぶから。」 「うん。」 紅葉は祖母が亡くなり帰国してから凪と一緒じゃないと安眠出来ないようだ。 紅葉ももう21だが、幼少期に両親を亡くしていて、少し気持ちが不安定になるのは仕方のないこと。 凪はなるべく寄り添うように心掛けている。 ソファーでボーっとしながら、平九郎と梅の寝顔を眺める紅葉。 無防備に眠る姿が可愛くて思わず頬が緩んだ。 「おばあちゃんの夢…みてた気がする。」 「…そっか。」 夢の中で何か言われた気がしたが、思い出せない。もう写真や夢の中でしか会えないことがツライ。 カップを置いた紅葉が膝を抱えて座っていると、 凪が隣に座った。 何気ない話を振ってくれた。 「最近大学…4年生はどう?」 「何でか毎年サークルの勧誘に合うんだけど、今年もそろそろ落ち着いてきたよ。」 「そっか(笑) 勧誘もラストだな。 明日は? 朝早いんだっけ?」 ゆっくり話ながら、紅葉の頬を撫でて抱き寄せる凪…。太股に触れられて紅葉の身体がピクッと跳ねた。 「…あっ…! うん…。 だからダメって…!」 「……触るだけは?」 「ん…っ! でも…!」 額や頬にキスを受ける紅葉は凪の胸に手を置いてささやかな抵抗をするが、目が合うと自然とキスをねだった。 そのまま2人がイチャイチャしていると… 平九郎がピクリと耳を立てて突然起き上がった。 「平ちゃん…?」 うぅ…っ! 続いて唸り声をあげたのは梅。 2匹は庭へ続く窓ガラスや玄関を気にしている。外に向かって警戒をしているようだ。 凪はその様子に手を止めて紅葉を膝の上から下ろすと立ち上がった。 玄関のモニターを確認し、PCで監視カメラも確認している。 「凪くん…?」 「……紅葉、ヴァイオリンだけ持ってきて。 あと平九郎と梅をリードに繋いで。」 「えっ? どうしたの?」 紅葉が戸惑っていると、玄関がガチャガチャと音を立てた。 もちろん施錠されているが、誰かが開けようとしてドアノブを動かしているらしい。 ワンっ!ワン! 平九郎が珍しく吠えた。 「紅葉、早く。」 「誰…?」 「……いよいよ不法侵入しやがった。」 凪の言葉に驚く紅葉。 まさかと思う事態が起きているらしい…。 「えっ?!」 「…あいつ…! 防犯カメラの線も切ったな。 よし、通報。 紅葉、早くヴァイオリン! そしたら俺の側にいて。 あー、警察ですか? 夜分に悪いんだけど、 前から相談してたストーカーがうちの敷地に不法侵入して防犯カメラ壊したり、玄関ガチャガチャやってて身の危険を感じてます。すぐ来てもらえます?」 「っ!!」 紅葉はなんとか凪の指示通り防音部屋へ走り、ヴァイオリンをケースに入れて抱えた。 凪の機材も持ち出したいが余裕はなかった。 2人の約束で緊急時の時に持ち出すものはヴァイオリン、平九郎、梅だけだと決めていた。 ついさっきまで普通に幸せに過ごしていたのに、今がその緊急時なのだと、紅葉の手は震えていた。 「平ちゃん! 梅ちゃん!こっちに来て!」 興奮状態で吠え続ける2匹… 「…平九郎っ! 梅っ!」 凪の大きな声に2匹はピタリと止まり、リードを付けることが出来た。 紅葉はしっかりと2匹のリードとヴァイオリンケースを持って、凪にしがみついた。

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