52 / 212

第50話 (5月) (2)

警察に続いて、凪は隣の池波氏へ電話をかけた。 パッと見同じ敷地内に建つ2棟なので、不法侵入者への注意を促す為だ。 もちろん前から事情は説明済みで、池波氏はすぐに事態を理解してくれた。 「じーさん起きた? 夜中にごめん。 いや、まだ朝じゃねーって(苦笑) うん、今警察呼んだ。 セコムもう来るって? 了解。 じーさん家鍵閉まってる? とりあえず絶対家から出ないでよ? うん、連絡するから。」 「おじいちゃん…!」 「紅葉っ! 危ないから外に出るな!」 「っ!」 凪の制止に踏み止まり、紅葉は池波氏と電話で話しながらセキュリティと警察が早く来るように祈った。 ストーカーはもう再三凪からも光輝からも注意もされていて、弁護士にも相談済み。 警察から警告もされているが付きまとい行為は止むことがなく…何をするか分からない相手だ。 火でもつけられたら大変だと紅葉は恐くて仕方なかった。凪はインターフォンの映像と防犯カメラを確認しながらストーカーの動向を監視している。 その後、駆け付けたセキュリティに女はあっけな確保された。ほどなくして警察も到着して、ストーカーはパトカーに連行された。 凪は事情と経緯を話す為、玄関を開ける。 「紅葉ー!平九郎たちを寝室か客室に連れてって。無理そうなら…キッチンに入れて(笑)」 「分かった。 …おいで。大丈夫だよ。 動かない…。気になるよね…。 凪くん、キッチンに入れるね。」 いつもはキッチンに入らないようにゲートがあるのだが、今は人の出入りが多く、外へ出てしまわないように仕方ないのでそこへ入れる。 「ちょっとおじいちゃんのとこ行ってくるっ!」 紅葉は池波氏が心配で、外へ飛び出した。 数十メートル先の隣家を目指していると、突然黒い影が動いた。 「っ!! 誰っ?!」 池波氏かと思ったが、大柄の男で驚く紅葉。 暗闇で人相は分からないが、手の辺りに光る物が見えた。 ナイフかもしれない…そう思ったが紅葉は一歩も動けずにいた。 平九郎の吠える声がして、振り返ると同時に誰かに腕を掴まれ後ろに引かれた気がした。 それから身体のすぐ近くを風を切る音がして…! 「紅葉っ!」 凪の声が聞こえ、ドサリと男が地面に倒れた。 暗いのと速すぎたのでよく見えなかったが、凪は一瞬で男を取り押さえたようだ。 「凪くんっ! 大丈夫っ? 怪我してない?」 「バカっ! それは俺の台詞だって…っ!」 すぐに警察官が飛んで来て凪が取り押さえた男を連行していく。 紅葉はどこか呆然としながらも自身の身体を見渡してどこもなんともないことを確認した。 「…僕は大丈夫だよ。」 「…良かった…っ! お前に何かあったら、俺…!」 そう呟いた凪の声は微かに震えていて、ぎゅっと抱き締められた紅葉は、涙が止まらなかった。 たくさんの警察官に見られていたが、2人は構わずにしばらく抱き合ったままでいた。 「紅葉がおばあちゃんを亡くして、今さ、特にもう家族を喪いたくないって思ってると思うけど… 俺にとってはそれは紅葉だけなんだよ。 もちろん家族も大事だけどさ…! あー…、何言ってるか分からないかもだけど、お願いだから伝わって。」 その言葉に紅葉は何度も頷いた。 後から聞いたら防犯カメラに映っていたのは1人ではないと気付いていた凪は警察に2人捕まえたか確認すると女1人だと言われて、おかしいと思ったらしい。 防犯カメラの線は鋭利な物で切られていたし、凪は不安になって紅葉の後を追いかけたのだ。 平九郎たちもまだ吠えていて嫌な予感がしたらしい。 そしてストーカー女が雇ったと言う共犯の男は紅葉に向かって刃物を向けていたようで、凪は紅葉を守る為に渾身の一撃で飛び蹴りを入れたそうだ。 あの時、腕を引いてくれたのはきっと亡き祖母か両親だろうと紅葉は心の中で想うことにした。 「格闘技とかやってます? 空手経験者でキックボクシング…? 通りで…! あぁ、大丈夫。あの男…骨折れてるかもだけど、十分正当防衛になると思いますよ。」 改めてリビングで警察に事情を聞かれたが、凪はずっと紅葉と手を繋いでいてくれていた。 足元には平九郎と梅が離れずに側にいて、あれだけ吠えていたのに今は大人しく眠っている。 凪は2人の関係についても「恋人であり公私共にパートナー」だとはっきり伝えてくれた。 安心した紅葉は凪に寄っ掛かりながらウトウトし始め、それを見た警察官が後はまた改めて…と切り上げてくれた。 細かなことは光輝と弁護士に委ねることにし、凪は紅葉を抱えて寝室へ向かった。 「お前たちもおいで。」 こんな時はみんなでいるべきだと、平九郎と梅も呼び寄せる凪。 大丈夫…、大事なものはこの手の中にある。 そう自分に言い聞かせると紅葉を抱き締めてようやく眠りについたのだった。 End

ともだちにシェアしよう!