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第51話 (6月) (1)

「何しちゃったのかなぁ…。 なんだろうなぁ……。 えー、やだなぁ…! せっかくこれから京都に行くのにー! お義母さんたちのお土産買いに行けない…。」 「土産なんてSA寄りながらでも買えるから…。 学校から呼び出しくらってんでしょ? 早く行かねーと…(苦笑)」 ある日、紅葉は大学から呼び出しを受けて少し動揺していた。 不幸があって間があいてしまったが、ようやく凪の実家に帰省出来るので(凪の大阪でのイベントLIVEに合わせて帰省)その予定が狂わないか心配らしい。 「また和訳だったりして…!」 先日はドイツ人の先生を気遣ってドイツ語でレポートを提出したら『日本語か英語しか分からない』と書き直しになった笑い話もあった。 さすがに続けてそれはないかと、紅葉は少し緊張しながら大学へ向かった。 一方自宅に残った凪はスケジュールを確認しながら筋トレ中。 4年生…卒業の年である。 紅葉は卒業後も個人的にヴァイオリンは続けるし、バンドにも取り入れたりするだろうが、学校の演奏会やコンクールも今年で最後になるのでなるべく聴きに行きたいと思っている凪。 自分が行くことで、紅葉の学生生活の支障にならなければ…と懸念はしているが、もうそういった考え方も止めようと思っている。 これからも紅葉と共にいるのだから、自らバリアや壁を作る必要はない。 だからと言って2人の私生活が全て筒抜けというのは違うけど…。 「アホらしい世の中に気ぃ遣って何になんの? なぁー、平九郎? ……ヤベ。最近独り言多いな(苦笑) とりあえず…先に荷物積むかー。」 凪は愛犬たちに愚痴りながら、車に荷物を運び始めた。 「おめでとう! 君の作った曲が幼児向け番組で放送されることが決まったよ!」 「……へぇー…?」 間延びした返事と『そうなの?』と首を傾げる紅葉に先生も困り顔だ。 既にLinksで数々のタイアップをもらった経験があるので、紅葉は特に驚くことはなく、うちの学生でこんなすごい功績を…!と、興奮した様子の先生の話をボーっと聞いていた。 凪にアドバイスを受けて、トラウマになっていた作曲に再チャレンジし、歌詞もつけた。 もちろん日本語で。 こどもたちがほんの少し、勇気を出してチャレンジする時に『頑張れ』と、応援する気持ちを音楽にしたくて…簡単なメロディーと歌詞だけど、心からの気持ちを込めて作った紅葉の曲。 一学生の曲として応募したものなので、Linksの紅葉だとは名乗っていない。 事務所にも確認してとか、著作権とかお金のこととか難しいこともたくさん言われたが、紅葉は何も求めなかった。 「たくさんのこどもたちに聴いてもらえるの? それはとっても嬉しいです! 僕、お金はいりません。 …どうしてもってことなら、病気のこどもたちのために使える基金とかに使いたい…。」 帰宅後、凪に話すととても喜んでくれた。 光輝にも連絡すると、おめでとうと言ってくれて、大学とも話してくれるようだ。 「ごめんね。お金のこと…勝手に決めてきちゃった…!」 けっこうな金額になるのかも?とあとから気付いた紅葉は凪に謝罪した。 「いいよ。 持ち帰って考えたところで、紅葉なら結局そうしたと思う。 ほんとにすごいな。おめでとう、紅葉!」 テレビとかで流れるの楽しみだな、と、一番の理解者である凪の言葉がとても嬉しかった。2人はぎゅっとハグをした。 「実は俺もちょっといいことあったんだよね。」 「何ー?」 聞けば、少し前に受けたフード系の資格に合格したとのこと! 「この勉強してたんだね! 凪くんスゴーい! おめでとうっ!!」 「ありがとう。」 「「何かお祝い…」」 2人揃ってそう言い出して思わず顔を見合わせて笑った。 「何がいい?」 「とりあえずランチに行かない? 今すぐ!」 「腹減ったの?(笑) いーよ。 何にする?」 「凪くんドイツ料理食べたいって言ってたよね?今日…ランチやってるかな?」 行きつけのドイツ料理店にしようと言う紅葉。 「電話してみる。 え、お祝いにしてはリーズナブルだけど…?」 「あと京都でケーキ買ってみんなで食べよ!」 「…了解。」 贅沢を求めない紅葉だが、幸せそうな顔に凪もそれで十分だと思った。

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