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第55話 (7月) (1)

※今回はシリアス展開の予定です。 LiT Jの今夏のツアーは東京からスタートする。 順調に集客数を伸ばした彼等は、ツアー初日だが、まるでファイナル並みに大きなLIVE HouseでLIVEを行うことになった。 メンバーもスタッフも準備を入念に行い、気合いも十分だ。 夕方に差し掛かっているのにジリジリと肌を焼くような暑さ… やはり日本の夏は猛暑という言葉がピッタリだ。 紅葉は差し入れにアイスを買って、急いで凪の元へ向かった。 「こんにちは! ツアーの成功を願って応援に来たよ! 初日大事だよね! 皆さんアイスはいかがですかー?」 元気よく挨拶するとスタッフやメンバーにアイスを配る紅葉。 「あ! 若菜さん!」 マツの奥さんも来ていて挨拶をする。 「紅葉くんこんにちは。 ゼリー食べる?」 世間話をしながら、紅葉の作った曲が小児病棟でも評判だという話を聞いた。 「すっごい嬉しい…っ!」 紅葉は感無量の様子だった。 「あー! もう絶対無理…っ!! やる気出ねぇー…!」 「文句ばかりうるせーな…! 自分が忘れたんだろー? 適当に買ってきて貰えば?」 そこへ、何やらブツブツとふて腐れながら歩くボーカルのAoiと、紅葉の恋人である凪がやってきた。 「凪くん! お疲れ様ー! Aoiくんどうしたの? …アイス食べる?」 「お前の食べるやつ一口ちょーだい…。 …あー、あいつ? カラコン家に忘れたんだって。」 「カラコン…?」 着けたことがない紅葉にはその重要性がイマイチよく分からないのだが、Aoiにとってはステージに立つ上で必須アイテムらしい。 取りに帰るには時間が足りないので、みんなで知恵を絞る。 「Aoiー! 近くにドラッグストアあるってよ? 買ってきてもらうー?」 「スゲー拘ってるやつで、しかも度入りなんだよ…。処方箋ないとダメな感じ。 あー、もうさ、今日サングラスしてていい?」 「ずっと?(苦笑)」 「さすがになくないー?」 「あっ!! あいつに持って来させたらいーんじゃんっ!」 「あいつ…? ユキくんかな?」 その手があったと、ご機嫌にスマホを操作する Aoi… ユキは今まで1度もLIVE会場や打ち上げなどAoiの仕事場に顔を出したことはない。 人混みや集団が苦手そうなタイプだし、本当に大人しい…けど、どこか世間知らずで、感情が読み取りにくいところもある。 猫好きで、なんだか不思議な雰囲気の青年なのだ。 「紅葉くんの話聞いてると僕も楽しくなってくるよ。」と、優しい彼は紅葉の友人でもある。 「だーかーらっ! 今すぐ必要なの! いーから持って来いよ…っ! どうせ家に引きこもって本読んでるだけだろ? 少しは役に立てよ。」 頼み事をしているはずなのに何故か上から目線で物を言うAoiに顔をしかめる凪。 黙っていられなくて、Aoiのスマホを取り上げて年上のメンバーに注意する。 「Aoi、ユキにだって都合はある。 ってか、それ人に物を頼む態度じゃねーよ?」 それだけ告げるとスマホを返して楽屋を出ていってしまった。 紅葉は慌てて彼を追う。 「凪くん…っ! 待って!」 「紅葉…! …悪い、つい口出したわー…(苦笑) LIVE前のボーカリストは特に神経質だって分かってるのにな…。」 「そっか…でも僕も同じ意見だったよ。 ユキくん、来れるかな? 多分…けっこうハードル高いと思うんだよね。 …僕途中まで行こうかな…?」 「どーかね…。お前行くと注目浴びそうだし、それはそれで心配だな…。 とりあえず保険でスタッフにカラコン買いに行っておいて貰うかな…。 …ん?」 「あ、アイス…っ!」 忘れてた! と、ビニール袋からアイスを取り出す紅葉。 「溶けた?(苦笑) あー、それにしたの? なるほど? さては計算だな? これなら一口もらうのにキスしないとだよねー?」 「えっ?! 違…! …でも…やってみたい…っ!」 「いーよ? こっちおいで。」 死角に入り、紅葉のアイスを半分こする2人… 紅葉が選んだのはフルーツ味の丸いアイスで、これなら1つずつ食べればいいと思って選んだのだが、せっかくなのでキスしながら分けあった。 「んぐっ?!」 「っ! …溶けてる…(苦笑)」 アイスは表面はまだ固かったが、だいぶ溶けていて、噛んだ瞬間に中の甘いジュースが溢れて驚く2人。 「うわ…! 汁が…! シャツに垂れてない?」 「多分だいじょーぶ… ふふ…!びっくりしたねー! 思ったより溶けてた!」 下らない事に笑い合ったのだった。 「今どの辺ー? あー、あの辺りか…。 えっ?! 渋滞? マジー? じゃあ…あとは歩いてってか、時間ねーからちょっと急いで来てよ。 大丈夫、そんな距離ねーし! 木陰になってるでしょ? そうそう、真っ直ぐだって。 黒と赤の建物だからすぐ分かるよ。 俺これからリハに出るからスタッフに渡しておいて? じゃあ頼むね、ユキ。」 先ほどよりはだいぶ物腰柔らかくユキに話すAoi どうやら無事に届きそうだ。 「凪くん、リハ頑張ってね!」 「おう!」 紅葉は凪をステージに見送り、少し見学させてらった。 大きな会場はステージも広く、奥に組まれたドラムセットも凪も見易い。 「そろそろユキくん着くかな?」 まだ外は暑いだろうし、どこから入るのか分からないかもしれない。 紅葉は友人のために何か冷たい飲み物でも買って裏口で待っててみようと移動した。

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