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第59話 (7月) (5)
2人がそんな話をしているもと紅葉から連絡が入り、ユキの母親と接触出来たようだ。
急いで戻ると…
「あ! お帰りなさい。
ユキくんのお母さんに聞いたらまだ意識戻ってないって。
…でも検査で脳に異常はないって先生に言われたみたい。
実際は目が覚めないと分からないのこともあるだろうけど…って。
心臓は、不整脈が続いてるから落ち着いたらペースメーカー入れる手術になるかもって…。」
「そっか…。
サチと同じだな。」
「うん。
その話もして、きっと元気になるよって話して…あ!」
話の途中でユキの母親が顔を見せてくれた。
「紅葉くん…こちらもお友達?
わざわざありがとうございます。
面会出来なくてごめんなさい。
規則で家族以外はダメなんですって。」
困り顔のユキの母親は思ったより落ち着いていて、きっとこれまで何度も入退院を繰り返してきたのだろう、気丈な印象を受けた。
「あの…彼だけでもダメですか?
一目だけ…!」
紅葉はAoiだけでもと彼女にお願いした。
「え?
あなた…ずっとここにいた方よね?」
「…えっと…。」
「お前挨拶もしてねーの?ったく…!
…すみません。
昨日ユキくんの倒れた現場に俺もいました。
紅葉と同じバンドの凪です。
俺たちは同性カップルで、ユキくんのバイト先の隣に住んでます。」
さらりとカミングアウトする凪に驚くAoi…
そのまま雑談を続けている。
Aoiは少し考えて、先ほどの凪の言葉を思い出した。
逃げることは簡単だが、大事なことにきちんと向き合いたいと心から思えたのだ。
不安の方が大きいが、とにかくユキに会いたかった。
「あの…っ!
すみません、倒れたの俺のせいなんです…っ!
俺があんな暑い中走らせたから…!」
「どういうこと…?」
「…忘れ物を届けて欲しいって無理言って頼んだんです。 すみません…っ。
…俺…今、ユキと一緒に暮らしています。」
「…葵、さん?」
名乗る前にAoiの名前(本名)を知っていて、驚く。
「は、い…。」
「そう…ですか。
あなたが…っ!
…雪人から聞いています。
とても綺麗な、素敵な方だと…。
そうですか…。」
母親は全てを悟ったようで、でもその顔は嫌悪ではなく、優しく微笑んでいた。
「皆さんご存知かしら?
あの子家出したんですよ?(苦笑)
本当にビックリして…!」
「家出?」
「1ヶ月くらいたってようやく連絡が来たと思ったら、大切な人と暮らしたいから帰らないって言うんです。
年頃だから仕方ないかなって、通院と定期検査、薬をちゃんと飲むことを条件に許したんです。」
「そうだったんだ…」
「俺の責任です…!
薬、飲むなって…!病気だって知らなくて…!
今思えば確かにここんとこ調子悪そうだったのに…!」
「…ずっとお友達もいなくて…。
学校とかの子たちはみんな病気のことを知ってるから、どうしても気を遣われて…そうすると壁が出来ちゃうでしょ?
それがイヤで、だから皆さんには話さなかったんだと思います。あの子、意外と頑固なのよ。」
「でも…」
「全ては雪人と息子の行動を許可した私の責任です。…あなたは何も知らなかったんだから、悪くないのよ…。
雪人と一緒にいてくれてありがとう。」
その言葉に葵は膝を付いて涙を流した。
「ユキに…会わせて下さい…っ!
お願いします!」
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