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第62話 (8月) (1) ※R18
8月…
夏本番の暑さにクラクラしながらも来日中のドイツの家族と楽しい毎日を過ごしている。
つい先日はヴァイオリンの演奏会があり、祖父を招待出来たことが紅葉にとってすごく嬉しい出来事だった。
凪は仕事で来れなかったので、少し残念だったが…
すぐ下の弟、アビーがビデオを撮ってくれていて、それを観せると「頑張って練習した成果が出てるな」と、褒めてくれた。
もちろん祖父も「父さんより上手くなったんじゃないか?」とまで言ってくれ、ドイツへ帰ったら近所の親戚にも自慢したいと言っているようだ。
紅葉は1つ大きな舞台が終わり、少し落ち着きたいところだが、次はコンクールがあるのでまたしばらく忙しくなる。
「紅葉…ちょっと…」
「? なにー?」
「ん? …出かけるよ。
スマホだけ持ってきて。」
時刻は夜中で紅葉は驚いたが、黙って頷き、凪を追い掛けた。
下の弟たちはもう眠っているようだが、アビーはリビングで本を読んでいた。
凪が声をかける。
「アビー、ちょっと出てくるから。
…勉強してんの? 真面目だなぁ(苦笑)
ほどほどにして寝なよ?」
「分かった。
あと少しだから読んだら寝るよ。
行ってらっしゃい。」
2人はそっと玄関を出て車へと向かった。
「…どこ行くの?」
「ドライブ。
と、2人きりになれるトコ…。」
含みを持たせた凪の台詞に紅葉は自分の頬がカァっと熱くなるのが分かった。
「っ!!」
「…イヤならドライブだけで帰るから考えといて?」
ドイツの家族が遊びに来てからずっと禁欲生活なので痺れをきらしたのかなと紅葉は悟った。
あと数日で祖父たちは帰国予定だが、入れ替わりで紅葉の双子の兄弟珊瑚たちが遊びに来るのでなかなか2人きりになる機会がないのだ。
紅葉は走り始めた車内の中で少し考えてから凪を見つめた。
「…アイス買ってもいい?」
これは2人の中でお誘いに対して“OK”の返事の代わりになっていた。
ちょっとお高いアイスを買ってもらってご機嫌の紅葉。凪はアイスコーヒーを飲みながら車を走らせた。
着いたのはホテル…ではなく、海の見える公園だった。
拍子抜けした紅葉はそれでも嬉しそうに差し出された凪の手を取った。
海風は涼しいけど、肌につく湿度が日本の夏らしい。
「ありがとう、凪くん。」
「ん? 何が?」
「いろいろ…!
みんなすごく喜んでるし、いい想い出になったと思う。僕も…演奏会とコンクールで緊張が続くから不安もあったけど、とっても楽しく過ごせてるよ。
本当に素敵な夏休みって感じ!」
「そっか…。良かった。
確かに…充実してるよな。
…まぁ、男の子たちは好きそうな遊び分かるからいいんだけど…レニとさっちゃんはどーすっかね…(苦笑)」
サッカーや格闘技の観戦、水鉄砲、アスレチック、BBQ、焼き肉、回転寿司…遊び尽くしたし、食べ尽くした。
凪はフィンに空手とキックボクシングも教えたし、基本的にボール1つあれば愛犬たちと延々と遊んでいるアッシュ。
毎日元気いっぱいのパワーとその食欲には驚いたが、凪も夏らしい日々を楽しんだ。
しかし年頃の女の子には何がいいのかと悩む2人…。
「みなちゃんからリスト来てるよ。
さっちゃんの体調次第だけど、夕方からディズニーランドどうかな?って。
あとアートアクアリウム、水族館、食品サンプル作り、買い物、ホテルのスイーツビュッフェ、あ、回転寿司も行ってみたいって…。」
「…なるほど。
デートプランみたいだな…。」
「えっ?! デート?」
誰と行ったの?と紅葉の視線が訴えていた。
凪はフッと笑うと紅葉の頭をくしゃりと撫でてから腰を抱くとゆっくり歩き出した。
少し距離はあったが、男女のカップルとすれ違うと「わー、やっぱり男同士だぁ…!」という声が聞こえ、紅葉は反射的に凪と離れようとした。
凪はそれを止める。
「いーから…行こ。」
「でも……!」
「俺たちもデート中でしょ?
紅葉は…あーいうのに立ち向かう覚悟はあるの?」
「え…?
んと……いろんな考えの人がいることは理解してるよ? ただ、せっかくのデートだから凪くんが…嫌な思いしなければその方がいいかなって…。」
「荒波立てたくない感じ?」
「えっと…?」
凪の真意が分からず困惑する紅葉。
「あ、ごめん。
何でもない。
…行こ。」
「うん…。」
2人は波の音を聴きながら肩を寄せ合い、穏やかな夏の夜を眺めた。
そして帰宅後はシャワーで汗を流しながら少しだけ触れ合った。
「ん…ッ!」
「触るだけならいーい?」
「うん…。
それでもいい…?」
「いーよ。
紅葉に触れてるとスゲー安心する。
あと気持ちイイし…。」
「僕も…。
大好き…。」
「かわいーやつ…。」
「ん…っ、ぁ…!
…好き?」
首を傾げながら凪の首に手を回して彼を見つめる紅葉…
「あー、うん。もちろん。
その角度可愛いな、好き。」
弟たちが同じ家にいると恥ずかしがっていた紅葉も譲歩し、凪と恋人らしい幸せな夜を過ごした。
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