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第70話 (9月) (4) ※微R18

「やらかしたね。」 「…どうしよ…。」 事の顛末をイトコでバンドメンバーでもあるみなに相談した。 さすがに今回は電話にした。 「紅葉はさ、素直なのはいいんだけど、時々考える前に口に出ちゃって失敗するよね。 まぁ、けっこうな失言だよね。 結局Linksはアルバム3枚作る羽目になってめちゃくちゃだし。 脳ミソと口、ちゃんと連動してる?」 「うぅ……。 もう喋るの止める…。」 「喋んなくても音がさー! 死んだみたいな音しか出せてないじゃん。 それも凪を苛立たせてるんでしょ? ヴァイオリンも? えー、コンクールどーすんの? 明日予選でしょ?」 「…胃が痛いよ…。」 「もー……。愛樹の離乳食のお粥食べる…?」 あと紅葉が相談出来るのは双子の片割れである珊瑚。 「相変わらずのアホだな。」 「分かってる…。 どうしたら……」 「とりあえずサービスしまくってSEXで丸め込む?」 「珊瑚…! 真面目に…!」 「…まぁ…折を見て“許して欲しい”って伝えるしかなくね? 下手に言い訳するよりそれしかないんじゃん?」 「だよね…。 それでもダメだったらどうしよ…。 凪くんがこんなに怒ったの初めてなんだ…。 フラれちゃうかも知れない。」 「……そりゃあそうだろ。 うちはアッシュとサチを養子にしたからこどものいる家庭で…偉そうに聞こえたらごめんだけど、男同士は基本的にこども(実子)もてないんだからさ。 もちろん例外もあるけど…。 まず、2人で生きていく覚悟がお互いになきゃダメじゃん? 凪はお前にそこまでの気持ちが見えなくて怒ってんだよ。」 「うん。 僕……愛樹ちゃんが可愛いからって夢中になりすぎてた。本当に…僕の無神経が凪くんを傷付けた…。」 「……凪もプライドの高い男だからな。 時間をかけてまた信頼関係築くしかないでしょー。 まぁ、これでフラれたらその時はしょーがないだろ。 …その時は…帰ってくれば? 叔父さん宅の農場でも継いで、牛と馬にヴァイオリン弾いて聴かせたら?」 紅葉が日本へ行く決意をする前はよく農場を継いだらいいと言われていた。 珊瑚はもちろん冗談で提案したのだが、今の紅葉には割りと本気で響いたようだ。 「うぇ…っ、えっ、ぐ……!」 電話口で泣く紅葉に珊瑚も困惑していた。 もしも、凪と別れるようなことになったら… やはりLinksは解散になるのだろうか…。 リーダーの光輝がバンド内恋愛を禁止にしていた一番の理由がコレなのだ。 相当怒られるだろうし、何より他のメンバーとファンの皆に申し訳ないと思った。 それから… 家はどうなるのだろうか…とか、 愛犬たちはドイツに連れていくべきか…それとも義父にお願いして小麦(凪の実家の愛犬)と一緒に暮らした方が幸せかな…とか、 凪の両親や義弟とももう会えなくなるのだろうか…とか、 珍しくネガティブなことを延々と考えていた紅葉…。 案の定、コンクールの予選はボロボロで…。 どうやら紅葉は頭と口だけでなく、頭と心も直結しているらしい…。 なんとか二次予選までは通ったが、この先に進めるか紅葉自身も分からなかった。 その夜… 紅葉が気落ちしながら帰宅すると珍しく凪がキッチンで夕食を作ってくれていた。 匂いからして、紅葉の大好物の肉じゃがだ。 「お帰り…。 予選お疲れ。無事に通ったって?」 以前のように優しい雰囲気の凪にホッとする紅葉。 「た、だいま。 うん…。おかげさまで…。 でもなんとかって感じだけど…!」 「そっか。 まぁ、次に進めたんだからいいんじゃない?これからだろ?」 「…うん…!」 「…久しぶりにちゃんと料理した。 一緒に食べよう。」 少しはにかんだ笑顔を見せる凪にキュンとする紅葉…。 嬉しくて大きく頷いた。 「うんっ!!」 そして… 夕食とお風呂を終えた2人。 紅葉は寝室でスマホを眺める凪にそっと寄りかかる。 「……もしかして…そういうつもりで来てる?」 「うん…、じゃなくてはい…!」 「…俺のことちゃんと好きなの?」 「好き。…大好き。」 「…俺も紅葉が好きだよ?」 凪からの好きの一言に喜ぶ紅葉。 自然と上から降ってきたキスに身を委ねた。 「…緊張してんのに誘ってんの?」 「うん…。 ちゃんと…仲直り…したい。」 「んー、いいけど。 ちょっとまだこの前のこと引きずってるからさー。コントロールが効かないかもよ?」 「いいよ。大丈夫。 凪くんの好きなようにして?」 「…ふーん。 じゃあ…そろそろステップアップも頑張ろうか?」

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