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第73話 (9月) (7) ※微R18

その後も日を改めて、シチュエーションも変えて何度かチャレンジしてみたが、途中で泣き出してしまう紅葉を前に凪は戸惑いつつ「止めよう。」と優しく告げた。 紅葉自身はもう大丈夫だと思っていて、大好きな凪を受け入れたいのに、あの夜の記憶と感覚が勝手に蘇って邪魔をするのだ。 凪はゆっくり慣らしていけばいいと、Vanilla SEXを了承してくれているが、元々が異性愛者の彼は挿入込みの行為の方が当たり前だったはずだ。 いつか物足りなさを感じてそれこそ浮気や自分から気持ちが離れてしまわないかと紅葉は不安になっていた。 こんな内容(男同士のSEX問題)、さすがにいくら仲良しのイトコでも女性であるみなには相談出来ないし、カウンセリングも考えたが、他人に話すにはハードルが高かった。 と、なると相談出来るのは一人だけ…。 「はぁぁ………! 分かんないんだけど、まず、なんでそんな拗れてんの?」 珊瑚の溜め息が長かった。 「僕にも分かんない…。 …頭も身体も心もバカなのかな?」 「それは……そうかもなー。 パニックったのが原因でバランスがおかしくなったんじゃん?」 「ひどい…。 …ねぇ、珊瑚だったらどーする?」 「挿れられるの無理になったら? え、普通に…じゃあ俺が挿れるしかなくない?」 「………。」 相手は一人しかいないはずだが、紅葉は「誰に」とは聞けなかった。 「荒療治で無理矢理ヤッてもらうか、Vanillaで我慢させるか……」 「もしどっちもイヤって言われたら?」 「あ? そんなこと言わせねー! じゃあ1人でヤれって言う…! んー……自分だけが原因で相手のこと考えるなら別れるのもありかな?って思ってんの?」 「……。 ずっとこのままなんて無理だよね…。」 「おい! なんつーネガティブ入ってんの? しっかりしろよ? もし凪がそんなロクデナシなら俺がEDだって噂ネットで流してやるからな!」 「あはは…。 止めてよー。それは違うんだってばー!」 なんとか笑いに繋げて通話を終えた。 解決にはならなかったけど、ちゃんと凪と向き合え、話し合えとアドバイスをもらった。 不安と緊張を抱えて望んだコンクールの二次予選。 なんとか弾けた、というレベルだった。 本来の音の伸びが出せずに先生からも心配された。 そして最終予選を迎える頃、紅葉の不安は最大になっていて、コンクールへの緊張からあまり眠れず、朝から微熱だった。 「どう、しよ…。 絶対本選残らないとなのに…! なんか…これで失敗したら全部上手くいかなくなる気がしてきた。」 コンクールと凪とのことは関係ないのにパニックになる紅葉。 食事も喉を通らず、会場内を歩いていてもフラフラしている紅葉…。 持ち慣れたヴァイオリンがすごく重たく感じた。 順番になり、課題曲を一曲なんとか弾き終えた。大丈夫、ミスはなかったはずだ。 あと一曲…! 紅葉の記憶はそこで途切れていた。 「あ、れ?」 「…気付いた? ここ病院だよ。」 白くて四角い天井と、薬品の独特な香りは確かに病院だなと、やけに冷静に納得する紅葉。 目の前にいるのはイトコのみなだった。 「みな、ちゃん? …コンクールは?」 「紅葉、高熱で倒れたんだよ。」 「…ヴァイオリンは?」 倒れたと言われて、紅葉が真っ先に気にしたのはヴァイオリンの存在だった。 父の形見を倒れた時に落として壊したりしてなければいいのだが… 「無意識に庇ったんじゃない? 先生に見てもらったけど、なんともないって。 ほら、ちゃんとここにあるから…。 ステージでいきなり倒れて、熱がすごかったんだって。 今は下がったけど、疲れたんだろうって医者が言ってた。無理したね? 今日はこのまま入院だよ。」 みなは分かりやすくそう説明すると、心配そうに紅葉を見つめていた。 「そっか…。」 「…なんか欲しいものある?」 「…凪く、ん…」 「外にいる。 すごく心配してるよ。 ごめんね、救急車で運ばれたからこの前の病院じゃなくて…。面会に厳しくてさ、ここに入れるの私だけなんだ。」 一緒にコンクールに出ていた友人が凪とも面識があって、すぐに連絡してくれたのだが、凪が病院側にパートナーだと説明しても規則で今は面会出来ないらしい。 「うん…。 みなちゃん、あんちゃんは?」 寂しさを堪えて、紅葉はみなの愛娘のことを気にかけた。 「光輝くんがみてるから大丈夫。 今頃打ち合わせに娘同伴でデレデレだよ。」 「ふふ……。」 「…もう少し寝な。」 そう言われて目を閉じればすぐに深い眠りに入れた。 コンクールは一曲しか弾けなかったので、落選。 分かっていたが、大学の先生からそう伝えられた紅葉は改めて肩を落とした。 倒れた原因は疲れじゃない。 精神的な弱さからだと紅葉は分かっていた。 悔しかった。 在学中、大きなコンクールはもうあと一回しかない。 「お父さんに怒られる……」 優しかった亡き父に怒られた記憶はないけど、ヴァイオリン師匠と弟子としてだったらきっと怒られただろうなと想いを巡らせる紅葉。 検査の結果、幸いにも大きな病気は見つからず、薬もなく、しばらく無理はせずに療養するようにとだけ言われた。

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