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第75話 (10月) (1)

10月10日 「じゃあ行ってくるね。 アップルパイ楽しみにしてますっ!」 「あぁ、任せとけ。 …誕生日なのに忙しい1日になりそうだな?」 「そうだねー。 でも楽しみ…!」 22才の誕生日を迎えた紅葉。 オフの予定だったが、午前中から仕事…というか以前から機会があれば…と調整していたボランティアの依頼が入り、イトコのみなと共に病院の小児病棟で演奏会を行うことになったのだ。 久しぶりに触れ合うこどもたち。 自分の奏でる音楽に耳を傾けてキラキラの笑顔を見せてくれる彼らの姿を見て紅葉の心も癒された。 コンクール以来、ヴァイオリンを弾くことにも少し臆病になっていた紅葉には最高の“薬”になった。 「病気や怪我が早く治りますようにって元気付ける気持ちで行ったのに、僕の方が元気も勇気ももらっちゃったなぁ。」 「私も。本当にそんな感じだったね。」 みなも優しくそう答えた。 そして帰り際にプレゼントをくれた。 「あ、紅葉、待って! …誕生日おめでとう。 こっちは光輝くんからね。」 「わー、ありがとう!」 「最近元気なかったせいかな? 少し髪がパサついてるよ? これから乾燥してくるからしっかりケアしてね。 …じゃあお疲れ様。良い誕生日を…。」 「ありがとう。」 みなからは高級そうな髪のトリートメントを、光輝からレストランのペア招待券。 因みに誠一からは少し前に高級ブランドのふわふわバスタオルとクッションカバーをもらった。 紅葉が帰宅すると、凪は夕食の仕込みをしてくれていた。 少し休憩してから約束通り愛犬を連れて出掛けることに。 車で森林公園へ散歩にやってきた2人と2匹。 気持ちの良い秋の風を浴びながらのんびりと歩く。 久しぶりに穏やかな笑顔を見せる紅葉に凪も嬉しそうだ。 途中キッチンカーのコーヒーをテイクアウトし、ベンチで凪お手製の焼き立てアップルパイを頂くことにした。 「すっごいサクサク! りんごの甘さもちょうどいいよ! シナモンもいい香りだし、酸味とのバランスが絶妙ーっ! もー、最高に幸せー!」 「良かった。 外で食べるのも悪くないよな。 …とりあえずこいつらが大人しくしてるうちに食べな?(苦笑)」 凪は平九郎と梅がアップルパイに飛び付かないようにおやつを与えながら押さえてくれていて、紅葉はその光景に笑いながらパイを口に運ぶ。 凪に数口分分けて、残りは家でゆっくり食べようということになった。 「わわ…っ! 平ちゃん! …何これ…!どこでつけてきたの?」 「……あー、ヤバイな…(苦笑)」 平九郎の毛には通称くっつきむしと言われる、植物が無数に付いていた。 仕方なく手で1つずつ取り除こうとするが、長い毛に絡まってなかなか取れない。 「あ、雨…!」 雨も降り出してきてしまったので、自宅へ戻ってから平九郎を横にさせて地道に取っていく紅葉。 凪は途中まで手伝い、それからお昼が軽めだったという紅葉のために早めに夕食を作り始めてくれた。 宅急便が届き、凪の家族からも紅葉の誕生日プレゼントとしてお菓子と愛犬たちの写真入りマグカップが届いた。 「すごーい! 見て、可愛いよ! 凪くんどっちにする? 平ちゃんマグと梅ちゃんマグ! 小麦ちゃんの小皿もあるよ!」 義父からのプレゼントに大ウケの紅葉。 「こういうの作る人、本当にいるんだな…しかもまさか身内にいたとは…(苦笑)」 思わず苦笑した凪は、紅葉が実家へお礼の電話をしている時に「次作るなら写真は珊瑚に撮ってもらったやつを使ったら?」と品質向上のためのアドバイス(?)をしていた。 豪華な夕食はいつもより手の込んだ美しい和食だった。 「お、美味しい……!」 「…良かった。 なんかちょっと地味だったな。」 やっぱり外食にすれば良かったかな?と凪は気にしていたが、紅葉は首を横に振った。 「そんなことないよ! 綺麗だし、優しい味。 お野菜もたくさんで、お魚もすっごく美味しい! こんなにたくさん…大変だったよね? 作ってくれてありがとう。」 紅葉は改めてお礼を伝えた。

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