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第86話 (10月) (2)
それから…料理に夢中でまだお酒を口にしていなかったので、2人でのんびり飲もうかと紅葉が考えていると…
雨が止んだので、凪からドライブがてら少し外出しようと誘われた。
いつもより口数の少ない凪の運転でやってきたのは4年前、2人の交際が始まった想い出の神社だった。
誰もいない境内でまだ色付きの浅い紅葉の木をぼんやり眺める…。
とりあえずベンチに隣合って座るが、その間も会話はなかった。
なんだか先程までとは違う物静かな雰囲気の凪を前に紅葉は緊張していた。
大人のオモチャを使った日から紅葉はずっと不調が続き凪にに迷惑をかけたり、彼を困らせている自覚があった。
紅葉自身もあんな些細なことがここまで長期的に響いてくるとは思わず困惑しているのだ。
最近は情事も触れ合いだけで終わることが当たり前になってきていて、凪の気遣いに申し訳なく思っている。
きっと凪は何か話がしたくてここへ連れて来たはずだ。
…紅葉はもしかしたら…と、別れ話を疑い泣きそうになる。
「………。」
「………。」
お互い無言の時間がやけに長く感じた。
いつもは喋らずに隣にいるだけでも安心出来る存在なのに…お互いの緊張がお互いへ伝わり、妙に張り詰めた雰囲気になっていた。
紅葉は足元の砂利を見つめながら、ぐるぐると考えを巡らせていた。
“誕生日にフラれるのはないかな?→でも付き合った記念日に終わりにするつもりなのかも?”
とか
“今日の晩ごはんが最後の優しさだったのかも…→あんなに喜んじゃったから…もし別れ話なら切り出しにくいよな”
とか
“絶対別れたくない…→もしフラれたらめげずにすぐにもう1回告白しよう!”
とか…
ポジティブに考えようとしてネガティブに陥るスパイラルにハマっていた。
一方、凪もどう話を切り出そうかと迷っていた。
「「……あの…!」」
まさか、話を切り出すタイミングが同時で顔を見合わせて驚くと困惑する2人…
「……何?」
「あ…ううん!
凪くんからどーぞっ!」
「いや……先に紅葉が…」
まるでコントかと思うようなやり取りになってしまったが、2人の緊張は解けないままだった。
「あー…えっと…、実はさ…!」
意を決した凪が話を始めようとした瞬間…
紅葉は堪らず勢いよくベンチから立ち上がった。
驚く凪を前に泣きながら訴える。
「ヤダ…っ!」
「えっ?! な、お前…まさか知って?
…え、何で? 誰から聞いた?」
「……誰からも聞いてないけど…
でも凪くんからは聞きたくない!」
「………。」
紅葉の台詞に言葉を失う凪。
「…うぇ…ん…っ!
別れたくないよ…ぉ!」
いざその時が来たと思ったら堪えられずに号泣しながらそう訴える紅葉に更に驚く凪。
「………はぁー?」
何がどうなっているのかと混乱する凪。
紅葉は既にパニック状態だ。
「っ! ……だってっ!
大好きなんだもん……!」
「………俺も好きだけど…?」
「でもでも…っ!!
別れ……? え…っ??」
「………。」
「………。」
お互い頭の中がクエッションマークでいっぱいになった瞬間だった。
「…とりあえず1回落ち着こう?」
「…うん…。」
再びベンチに座って紅葉の涙が止まるのを待った。
凪も頭の中で状況を整理しようとしている。
そして改めてお互いの考えを伝えた。
紅葉はレスや面倒をかける自分が原因で凪が別れを考えているのかと思ったと告げて凪を相当驚かせた。
「レスじゃねーし。
俺が怖がらせたんだからさ…もっと俺を責めていいのに。」
「そんなことないし、出来ないよ!」
「…そういうとこが紅葉らしいんだけどな…。
あんなトラウマ与えたのに、キスも受け入れてくれるし、触らせてくれるし…、怖がってたバックハグも出来るようになったし…。
今は無理させたくないからそれだけでも十分なんだけど?」
凪は少し困った顔で笑った。
「そう、なの?」
「あぁ、ちゃんと満たされてる。
…俺もさ、紅葉に泣かれたらって臆病になってる部分もあるし、
もし…紅葉が最後まで出来ないっていうのを気にしてるなら一緒にカウンセリング受けようか?って言おうかと思ってた。」
「…っ!
凪くん…!」
凪がそこまで考えていてくれることが分かって感無量の紅葉。
ギュッと凪に抱き付くと「ありがとう」と伝えた。
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