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第94話 (12月) (1)

12月に入ると街は一気にクリスマス一色となり、賑わいを見せている。 イルミネーションが飾られたり、あちらこちらにクリスマスツリーやプレゼント用のポスターも掲げられ、その数は日に日に増えていく。 Linksは先月、東京、名古屋、大阪のツアーを無事に終え、活動再開後のLIVEツアーとしても反響が良かった。 さてじゃあ一段落…出来たら良かったのだが… 早々にアンコール公演(東京)が決まり、年末の歌番組のイベントも続々と決まり…準備で忙しくしている。 アンコール公演はLinks史上最大規模でのワンマンLIVE、しかもLIVEHouseではなくホールでの公演となるため、演出にも力を入れていて、打ち合わせやバンド練習も念入りに行っている。 因みにLIVEの時の光輝とみなの愛娘のベビーシッターは当面の間、ユキの母親にお願いすることになり、一安心。 なかなか固定のシッターが決まらず困っている話を紅葉がユキに話したところ「僕のお母さん、保育園で働いてたよ。」と聞き、光輝がダメ元でオファーしたのがきっかけだった。 ユキの母はブランクを心配していたが、全く知らないシッターより、身内の繋がりの彼女の方が安心出来るとみなもホッとした様子だった。 無事に退院したユキも母親と一緒に愛樹をみてくれているそうだ。 葵がヤキモチを妬いているのは言うまでもない…(苦笑) 凪と紅葉はクリスマス近くになると混むし、仕事も忙しくもなるから…と早めにレストランでのディナーデートを楽しんだ。 婚約指輪のお返し代わりにと紅葉が予約したのだ。 「だいぶ奮発したな?」 「たまにはいいでしょ? っていうか、ベースと指輪貰ったんだから…ディナー1回じゃ足りないよ。 もう2~3年は僕がクリスマスディナー代出すからね!」 「そう?別にいーのに…(苦笑) まぁ、そういうのもいいな。」 未来の約束に微笑み合い、美味しい料理とワインに大満足の2人。 「はぁー、美味しかったぁ! みんな(ドイツの家族と凪の家族)にプレゼントも送ったし、贅沢なディナーも食べたし…、あとは…お仕事だねー?(苦笑)」 「ホント…毎年12月は忙し過ぎてイヤになるな…(苦笑)」 Linksのアンコール公演が終わると凪が掛け持ちしているLIT Jも年末のLIVEがあるので特に多忙な時期に入る。 スケジュールは詰まり過ぎで早くも疲れ気味の様子だ。 紅葉も幼稚園のクリスマス会や演奏会に呼ばれていて多忙…しかし愛らしい子供たちの笑顔に癒されているので元気。 「そんなこと言わないで…! ほら、また今年も誠一くんのお家でクリスマスパーティーやろうよ! 愛樹ちゃんは初めてのクリスマスだからビックリするかなぁ?」 「また光輝がはりきりそうだよな…。 ってか、なんでいつもクリスマスだけあいつの家なの?(笑)」 「んー、セレブ気分の演出?(笑) あ!ケーキどうしようか~! みんなで食べるなら大きなケーキにしよう!」 「…予約しないとな。」 楽しげな恋人を横に凪も優しく微笑んだ。 が、 家に帰れば即練習。 恋人同士だけど、同じバンドのメンバーでもあるので楽器を前にしたらきちんと切り替える。 「そこ…、今のとこ違くね?」 「えっ?! 本当に? ごめん…!」 「…わざとズラしてるから。 慣れるまで変に感じるかもしれないけど… とりあえずやってみない?」 「うん、分かった!」 「じゃあ最初からもう1回…」 紅葉が作曲していた曲をアンコール公演のドラムソロで使用することに決めたのだ。 しかもただのドラムソロではなく、紅葉のヴァイオリンとのコラボレーションという初めての試みとなる。 ドラムソロにベースを合わせたことは何度もあるが、ヴァイオリンとなるとまたハードルが上がる。 もちろん打ち込みでベースラインも入れるのだが、メインはヴァイオリンとドラム。 クラシックではなくロックの演奏、そしてLinksの世界観を表現出来るのか不安な紅葉はイトコでLinksのボーカルでもあるみなに曲の確認を頼んだ。 しかし楽譜に一通り目を通した彼女は紅葉にこう告げたのだ。 「…紅葉、もう私の小言がなくても大丈夫でしょ? あ、ごめん…。 突き放してる訳じゃないよ? いい曲だと思う…。 だから自信を持って進めて欲しいの。 あとは2人でこの曲を完成させて…。 もちろん、どうしてもうまく出来ないとこがあれば相談に乗るけど… 大丈夫、凪と紅葉なら出来るよ。」 彼女の言葉を胸に紅葉は最愛の人と共に曲を創りあげていく。 そして LIVE当日… LIVEの前半が終わり会場の盛り上がりも熱気も上々。 ステージ上では誠一が企画したプロジェクションマッピングが映し出されている。 メンバーたちは急いで衣装を着替えて、水分補給を済ませる。 ベースからヴァイオリンに楽器を持ち変えた紅葉 は緊張を隠せずにいた。 そこへ仕度を終えた凪が歩み寄る。 スタッフが大声であと1分だと告げている。 「…行ける?」 「…うん…っ!」 顔の強張る紅葉に苦笑する凪。 いつものようにポンっと紅葉の頭の上に手を乗せて言った。 「カタイなぁ…(苦笑) あんだけ弾き込んだんだし、大丈夫だって。 多少ミスったって俺がちゃんとフォローする。 だから思い切りいけ。」 「うんっ!」 “そうだ、1人じゃない”と紅葉は凪と視線を合わせると大きく頷いた。 2人はコツン…と拳を合わせステージへと向かった。 暗闇の中、ドラムセットがライトアップされ、凪の力強いドラムの音が響く。 一気に加速していく曲はベースや効果音に合わせて光が放たれる。 一瞬の静寂の後、美しい旋律を奏でるのはもちろん紅葉だ。 みなに演奏を頼んで入れたピアノの旋律と合わさり、クラシック展開かな?という観客の予想を良い意味で裏切り、紅葉は激しく力強いメロディーを奏でていく。 そこに打ち込みの音も凪のドラムも重なり、一気にロックテイストの曲へと変貌を遂げた。 視線を合わせ、阿吽の呼吸で凪のドラムと掛け合いをしたり、音を追い掛けたり、2人の超絶技巧をリンクさせた曲は壮絶だ。 あまりの迫力に最初は傍観していた観客も次第にリズムに合わせて拳を掲げ、声援を送ってくれた。 会場一体となったこの時の光景を凪も紅葉も笑顔で見渡していた。

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