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第96話 (1月) (1)

ぽろん…ぽろん… 「相変わらずヘタだなぁ…(苦笑)」 なんとも微妙な腕前の琴の演奏で目が覚めた凪はポツリと呟いた。 奏でているのは紅葉だろう。 ここ(実家)へ来る度、母親の知り合いがやっている教室に習いに行っているのだが、 ベースもヴァイオリンも一流なのに、琴だけは何故だか一向に上達しないのは不思議だ…。 まぁ、趣味でやっているので楽しければ良いのだが… 超多忙な年末を乗り越えて、元旦に実家へ着いた凪と紅葉。そして愛犬の平九郎と梅。 いつもなら凪は家業を手伝うのだが、流石に疲れが溜まっていたようで、身体が重かった。 「1日だけ休ませて」と母親に申し出れば優しい笑顔で頷かれ「気を遣わなくていいからゆっくりしていきなさい」と言われた。 元旦の昼間から母屋の自室で紅葉と眠っていたのだが、どうやら紅葉は先に起きたらしい。 時計を見ればもう夕方だった。 「ヤベェ…、寝過ぎた……。」 恋人を実家に連れてきておいて長時間放置はマズイと普通は焦るところだが、その心配は無用だったようだ。 紅葉は和室にいて、凪の母親の早苗に琴を習っていた。 「あ! おはよう、凪くん!」 「起きたの? 良かった。 そろそろ支度しないと日が暮れちゃうから…。お父さんたち呼んで来ないと…!」 「…何の支度?」 「いいから着替えなさい。」 「………。」 寝惚け眼の凪が早苗から有無を言わさず渡されたのは和服…しかも正装だった。 忘れてたが、結婚式の衣装(試着)らしい。 凪と紅葉の衣装は母の早苗が用意してくれていて、 平九郎、梅、実家の愛犬小麦の衣装(和装の犬服)は義父の正が手配してくれていて、 義弟の義くんが馴染みの写真館に頼み込んでくれて正月から式の前撮り写真…というか家族写真を撮ることになった。 何も知らされてなかった凪は言われるがままに身支度をした。 「お着物ー!」 何故だろう…紅葉に和服を着せると成人式感?いや、七五三感?が出てしまう…。 「わぁー! 平ちゃんたちすっごく似合ってる! 可愛いー!」 「あとで3人(3頭)で撮ってもらおうかー!」 義父と紅葉が愛犬たちを前にスマホで写真を撮りまくって盛り上がっている。 因みに義父の正は小麦を溺愛するあまり、自宅敷地内にお手製のドッグランを作っていた…。(小遣いをコツコツ貯めて休日に少しずつ作ったらしい…!) 平九郎と梅も昼間、遊ばせてもらったらしく、疲れたのか大人しく衣装を着せることが出来たようだ。 「じゃあ撮りますよー! 皆さん、にこやかに!」 「はーいっ!」 「…待って。 顔がしまんねぇ……!」 モデルをしていることもあり、カメラを前にするとスッと表情が整う紅葉とは対照的に、 凪はまだ疲れが抜けないのか、寝起きだからか顔が引き締まらないと嘆いていた。 「大丈夫! 凪くんはいつもカッコイイよ!」 「もう! 凪、早く前向きなさい。 大して変わらないわよ。」 「………。」 恋人の励ましと母の叱責を受けて顔を上げる凪。 早苗に対しては頬が引き吊った写真になったらどうしてくれる…と思いながらも、隣に立つ紅葉と視線を合わせると幸せそうに微笑んでくれたのでなんとかなった。 出来上がった写真には自然体の凪が映っていて、紅葉は仕事時とは違う表情の彼に貴重だととても喜んでいた。 夜… 世の中のお嫁さんたちは正月の義理実家への帰省が苦痛らしいが、紅葉は例外なようでずっと楽しそうにしている。 絵に書いたような家族団欒よろしく、みんなで夕食にすき焼き囲んで、食後は仲良くトランプとウノを楽しんでいる。 「………。」 「なにこれ、不味い…。 あはは…! 凪くん、ごめんね! 今煎れ直すね!」 眠気覚ましにはピッタリだが、抹茶の塊に危うく噎せそうになった凪は思わず顔をしかめた。恋人はお茶も向いていないようだ。 「お待たせ。 お茶菓子どうぞ。」 「紅葉くん苺もあるよー。」 「わーい! いただきます。」 結局、早苗にお茶を煎れ直してもらった。 「美味しい…! お母さんは何でも上手に出来て素敵…!」 「え? そんなことないわよー。 私だって最初は失敗ばかり…。 それにもしドイツに行ったら上手に出来ることなんて1つもないと思うわ。」 「ワイン開けたり、ソーセージ焼いたりくらいだよ?」 「薪ストーブの扱いとか、馬の世話も難しそうよ。」 「そうかな? 文化や習慣だからねー。」 「お祖父さんや弟さんは元気? お兄さんたちは?」 「みんな元気! 送ってもらった凧揚げで遊ぶって言ってたよ。」 和やかに話す両親と恋人を横に凪は半分寝ている。貰い物だという日本酒を義父から勧められて飲んだので、珍しく酔いが回ったのだろうか…。 「随分お疲れね…。」 「…凪くんはとっても忙しかったんだよ。 お母さんお父さんに会えてホッとしたんだと思う。 …もう寝る?」 「いや、もうちょい起きてる。」 家族の話に耳を傾ける凪。 その目蓋は重そうだ。 結局しばらくしてお開きとなり、紅葉に世話を焼かれながら自室へ向かう。 本当はイチャイチャしたいところだが、紅葉にはここだと恥ずかしいからダメだと何度も言われている。 凪も昼間あれだけ寝たのにまだ疲れが残っているのか今は眠気が勝っている…。 「なんだか今日の凪くんかわいい…!」 「…かわいいはナイだろ…(苦笑)」 明日の朝は厨房を手伝うつもりの凪。 大人しくお休みのキスをして眠りについた。

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