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第99話 (1月) (4)
真っ昼間にホテルを出て実家への道程をのんびり車で走る。
「あれ…義くんだよね?」
不意に紅葉が道路の反対側を指差して言った。
「ん?
あー…そう、かな?
車が…確かあれだったと思うけど。」
「…隣の女の人誰だろう?
え、やっぱり彼女かなー?」
いつも社用車なのに自分の車だし、服もきちんとしてる。十中八九デートだろう。
凪は見かけたのが先ほどまでいたホテルじゃなくて良かったと心の中で本気で考えていた。
「そりゃあ義くんにだって彼女の1人や2人くらいいるでしょー?」
「2人はダメでしょー?(苦笑)
え…!
まさか凪くん…?」
「…いや、二股とかしたことないし、いないよ?(苦笑)
…え、待って。
何でそんな不安そうな顔すんの?」
一気に影が落ちる恋人の表情を見た凪は車を端に寄せて停めた。
「……なんか急に自信なくなって…。
ごめん…。」
「…ホテル戻る?」
「えぇっ?!」
「冗談。
……婚約、したでしょ?
ちゃんと俺のこと信じてくれる?」
「…うん。」
手を繋いで触れるだけのキスをすれば少し落ち着いたらしい。紅葉は深呼吸をしたあと、もう大丈夫だと告げた。
その夜…
凪には止めとけと言われたが、気になったので、義くんに昼間の女性のことを聞いてみた。
「ねぇねぇ。
義くん今日彼女さんと一緒だった?」
「ブーーッ!!
ふ、えっ?!
えぇー?!」
「わぁー!
凪くん、タオルー!」
ビールを吹き出した義と、それに驚いた紅葉が慌てている。
「ほら…!
義くんも、口拭いて。
あー、いきなりごめん。
偶然見かけて。」
「……!
マジか。
えー…見られてたんだね。」
反応からして彼女で合っているようだ。
「ビックリさせてごめんね。
え、どんな人?
どこで知り会ったの?」
「遠くて顔見えなかったけど美人?」
紅葉に続き、凪も質問している辺りやはり気になっているようだ。
「えっと…(苦笑)
うん、分かった。
…話します(苦笑)」
「まぁ、飲みなよ」と、ビールを注がれ、それをチビチビと飲みながら付き合って1年半程だという彼女のことを教えてくれた。
歳は2つ上の介護職員。
下町育ちではきはきとした性格らしい。
「へぇー、こども食堂のボランティアで出会ったんだぁ。絶対優しい人なんだろうねー!今度ちゃんと会ってみたいなぁ。」
嬉しそうにそう話す紅葉がトイレで席を外した時に凪は義に告げた。
「あのさ、もし俺たちのことがネックになるようだったらちゃんと教えてね?」
「えっ?!」
「俺ここ継がないのに自己満足で手伝ってるだけだからさ…(苦笑)
せめて義くんの将来とか…迷惑になるようなことはしたくないんだよね。」
「………!」
義は凪の言葉に驚いているようだ。
そして、会話を聞いてしまった紅葉も少なからずショックを受けていた。
凪は義が彼女と結婚を意識しているのだと悟り、自分と紅葉の関係が彼女や彼女の親族にとって問題にならないか危惧しているようだ。
「…そういうこと?
偏見とか持つタイプの人じゃないよ。
っていうか、流行りに疎いから凪兄さんたちのこと知ってるかどうかも怪しいけど…(苦笑)
まぁ…それは置いていて…。
2人は俺の自慢だから…!
なんていうか…同性カップルの身内がいることを恥ずかしいとか思ったことないよ?
彼女と結婚出来るか分からないけど…距離置くとか止めてね?
本気で父さんたちに怒られる…!(苦笑)」
「義くん…!
分かった。
でももしなんかあったら必ず俺に言ってね?」
「…うん。
あのー、この流れで相談したいことあって。」
義が切り出した。
「何?」
「出来れば彼女と…結婚したいと思ってるんだけど…」
「おぉ!」
「素敵っ!
おめでとう!」
ここで紅葉が戻ってきた。
結婚の言葉にパチパチと拍手をしている。
「あ、紅葉くんお帰り。
えっと…まだプロポーズしてないからちょっと早いよ?(苦笑)」
「でもでも!なんか嬉しくて!」
「落ち着け紅葉…。
で、相談って?」
「…彼女、介護の仕事続けたいんだと思う。
そこをどうしたらいいかなって…。」
「あぁ…。女将問題ね。」
義が旅館を継いだらお嫁さんは若女将として働くのが通例である。
紅葉にそのことを説明すると不思議そうな顔をしていた。
「お母さんのお仕事手伝えないと義くんのお嫁さんになれないの? 何で?
義くゆの彼女さんは介護のお仕事が天職って言ってるんだよね?
結婚後も続けたらダメなの? 何で?」
「何で……って…」
「確かに何で?だよな。
…別に良くね? 女将が違う人でも。
あ、俺継がないからっていい加減なこと言ってる?(苦笑)」
「え、いい加減っていうか…ダメじゃない?
伝統的に…!」
「…あの…、僕、良く分からないのにこんなこと言ってもいいかって思うけど…!
お母さんのお仕事はとっても大変だよ。
だからもっと分担したらいいのにっては思うよ?」
「…伝統も大事だけどさ。
義くんが彼女がいいならそこは曲げちゃダメなんじゃない?
あとはもう話し合いだよな。
俺も好き勝手なことさせてもらって全部押し付けてるし、なんか出来ることあればやるよ。」
「僕、応援する!
お手伝いもするよー。
えっと…あ!とりあえず折り紙なら任せて!
…義くんなら伝統を守りながら改革していけるよ。」
「ありがとう…!
なんかちょっと勇気出てきた…!」
「良かった!
とりあえず乾杯しよー!乾杯っ!」
「義くんと彼女が上手くいきますように。」
「僕たちのお式も良かったら来て欲しいなー!」
「…なんか期限設定されてない?
さすがやり手!
うん、…頑張る。」
3人は夜遅くまで盛り上がった。
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