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第102話 (2月) (2)

そこから… 信じられないことに疲れきった紅葉は表彰式まで控え室のソファーで爆睡。 胸にはスケッチブックとヴァイオリンケースを抱えてずーっと寝ていたそうだ。 「電池の切れた玩具みたいだな…。」 「おーい!紅葉っ! 起きろよー! もう発表になるよ?」 「え、なにー?」 寝惚けながら友人に連れられてステージ袖へ移動する紅葉。 スマホを見ると凪の両親から「仕事の都合で表彰式を前に京都へ戻るので一目会えないか」というLINEが入っていて慌てる紅葉。 「わぁー!大変! せっかく見にきてくれたのに挨拶もしてないよー!」 「挨拶? そういえばもみっち、スピーチちゃんと考えてあるの?」 「スピーチ?? えっ?! なんか言うんだっけ?」 「……言うんだと思うよ?(苦笑)」 女の子の友人が呆れていた。 その子が先に名前を呼ばれて、紅葉は一先ず彼女を拍手で送り出した。 「とりあえず“LINE見てなくてごめんなさい…気をつけて帰ってね”と。あ、“来てくれてありがと”スタンプしとこうー! あ、凪くんからもLINE来てる…!」 紅葉が凪のLINEを開こうとしていると… 「あ! ほら! 呼ばれたよ! ステージに出て!」 「えっ?! 僕…?」 スタッフらしき人が荷物を預かってくれて、ステージに押し出される紅葉。 訳の分からないまま中央に呼ばれて拍手とフラッシュの嵐を浴びる。 「優勝おめでとうございます」 「?」 手渡された表彰状には確かに自分の名前と“優勝”の文字があった。 「えぇー?! 僕…優勝、なの?」 「アナウンス聞いてなかったのっ?!」 「さすが…!」 2位と3位の子に言われて中央に立つ紅葉は状況が飲み込めずキョロキョロしていた。 2人は悔しさを見せず、「あんな演奏されたら敵わないから」と握手をしてくれた。 続くスピーチも全く考えていなかったので焦っていた。 「えっと……? ありがとうございます…? あの…、夢中だったのでよく覚えていなくて……! まだ信じられないけど… でも…今日は自分の満足のいく演奏が出来たと思います。僕を支えてくれた人たちと、ここにいる仲間たちに感謝します。」 笑顔でそう答え、その後は入賞者と並んで記念撮影。 下位の人たちから捌けていくのだが、その時に家族や友人、恋人から花束をもらうのが習わしで、紅葉は拍手をしながら微笑ましくその様子を見ていた。 最後に紅葉の順になり、ユキや後輩たちから一輪挿しとおめでとうの言葉をもらい、笑顔でありがとうを返す。 立ち上がり帰ろうとしたところで、カツカツという足音を聞いた。 視線を向ければそこにいたのは凪で驚きのあまり固まる紅葉。 周囲は驚きの声をあげながら凪の通る道を開けた。 「な、な、な…っ!」 「…おめでと。 でも寝癖ついてる…(笑) LINEしたけど…寝てたの?」 そう言って長い腕を伸ばしステージ上の紅葉の髪に触れる。 それからすっと品のある薔薇の花束を差し出す凪。 その様子に驚いて思わずステージにしゃがみ込む紅葉。 「ははっ! 何してんの? まさか腰抜けた?」 凪の笑顔があまりに優しくて、注目を浴びまくっていることも忘れて涙ながらに彼を見つめてしまった。 「こんなことして…、目立つのにいいの…? …なんか王子様みたい…! え、もしかして夢??」 「王子様? …それはお前じゃね? …ほんと、スゲーカッコ良かった。 紅葉は俺の自慢のパートナーだよ。」 優勝を聞いた時も泣かなかったのに、嬉しくて号泣する紅葉。 撤収作業に入っているステージの端で見つめ合う2人は周りの目も気にせず微笑み合ったのだった。 もちろん… ネットニュースやSNSでは紅葉のコンクール優勝に加え、2人のことも大きく取り上げられることになり大盛り上がり。 「リアルBL! 表彰式に薔薇の花束持って現れるとかカッコ良すぎない?!」 「最高の彼氏様、王子様!」 「一見怖そうなのに紅葉くんに向けて笑った顔めっちゃかわいいし!」 「ほんと、“恋人同士なんだな”って思ったー!同性とか関係ないよね?」 そんな感じで相当騒がれていて、紅葉は凪のイメージを心配していたが、本人は気にしていないようだった。とにかく「おめでとう」と紅葉の頑張りを称えてくれた。 コンクール後は取材やらもすごく、紅葉か帰宅したのは深夜だった。 スマホはずっとお祝いのメッセージが鳴り止まない。 少しずつ返信をしつつ、 表彰状とメダルよりも、凪からもらった花束を嬉しそうに見つめる紅葉。 「ふふ…! いい匂い…! 素敵…! ドライフラワーにしようかな?」 「…そんなに気に入ったの?」 「うん! だって…! うわぁー! 思い出すだけで…っ!!」 顔が熱い…と、両手で扇ぐ紅葉。 どうやらシチュエーション込みで感激したらしく、思い出す度に大興奮の恋人に苦笑する凪。 母親に言われ、表彰式の前に慌てて用意した花束だが、ここまで喜ばれる記念の品になるとは思っていなかった。 「これさ、少しだけ…風呂に入れてみる?」 「っ!!」 薔薇の花を指差した凪はそう言って紅葉をバスルームへと誘った。

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