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第110話 (4月) (1)

4月… 見頃を迎えた桜の美しい季節… 新年度を迎え、真新しい制服に身を包んだ学生や緊張した様子で会社へ向かうスーツ姿の新社会人の初々しい姿を微笑ましく眺める紅葉。 音大を卒業した紅葉は以前からバンドやモデルの仕事をしていたので、“新社会人”というのは少し違う気がする。 今後はバンド活動に加えて個人で幼児音楽の仕事も始める予定だが、まだ準備中…。 スーツともあまり縁がないなぁと考えながら車の窓から外を眺めていた。 車を運転しているのはもちろん恋人の凪で、手際良く駐車場に車を停めた。 「着いた…。 じゃあ…行くか。 …一応聞くけど…本当にいい?」 「え? 何それ…(笑) 早く出そうよー! あ!待って! 出す前に入口のとこで写真撮ろうー! みんなよくやってるよね!」 「いいけど… 今日めっちゃ風強いよ? 紙飛ばされんじゃねーの?(苦笑)」 「それは笑えないよー! しっかり持ってね!」 「お前がね?(笑)」 春一番なのか、風に吹かれて桜吹雪が舞う… 美しい日本の光景に紅葉は微笑みながら凪と記念写真を撮った。 「紙も髪もぐしゃぐしゃだぁ…(苦笑)」 「直せばいーよ。」 そう言って紅葉の手を取り、歩き出す凪。 2人の左手薬指には真新しい結婚指輪が輝いている。 シンプルだけど、紅葉が一生懸命考えたデザインの指輪はなんだかまだ気恥ずかしいけど、永遠の愛の証だ。 「うん…!そうだね。」 “挫けるようなことが起こっててもまた立ち上がればいい。そうやって2人で生きていこう。”そういった意味を凪は言いたかったのだと紅葉は感じ取り、笑顔で応えた。 今日は凪の28歳の誕生日… 2人はこの日、パートナーシップの申請書を提出した。 「Linksより皆さまへお知らせ。 いつもLinksを応援して下さる皆さまへご報告がございます。 Dr.の凪とBa.&Violinの紅葉はこの度○○区のパートナーシップ制度に基いて公正証書を提出し、“結婚”しましたことをご報告致します。 (日本ではまだ同性間の結婚は法律で認められていませんが、同等の気持ちと覚悟をもってパートナーシップの申請を致しましたので2人の希望から“結婚”とご報告させていただきます。) バンドメンバー同士の、しかも同性同士のカップルにおける“結婚”のご報告に驚かれるファンの方もいらっしゃると思います。 しかしながら知り合って約5年、交際から約4年間、私たちは互いに想い合いながら音楽活動を続けてきました。 私たちは年齢も生まれ育った国や環境は違いますが、音楽を通して深い絆を繋いで参りました。 やがて日々の生活の中でもなくてはならない存在となり、愛犬たちを含め、私たちは一緒にいられることが何よりもの幸せです。 これから先の未来も公私共に支え合っていきたいと真剣に考え、メンバー、スタッフ、家族、友人たちに支えられ“結婚”の運びとなりました。 今後とも皆さまにより素敵な音楽を届けられるよう精進して参ります。 Links並びに凪が兼務しているLIT Jの活動をあたたかく見守っていただけたら幸いです。」 ○○年4月吉日 Links 凪 紅葉 直筆サイン入りのコメントを先日撮ったばかりの結婚式の写真と共にファンクラブで報告したこの一報は大きな話題となった。 夕方のニュースでメディアが騒ぎ立て、事務所の電話はパンク…SNSも大変なことになっている中…2人はスマホをマナーモードにして都内のホテルで優雅に食事をしていた…。

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