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第115話 (5月) (1)

「何見てんの?」 PCを食い入るように見つめている紅葉に凪は声をかけた。 「あ…、凪くん! 写真見てた…!」 「式の写真? あー、珊瑚から? どれ? おー……すげー。 めちゃくちゃいい感じだな。」 画面に写し出される写真は紅葉の双子の兄でカメラマンの珊瑚が撮影してくれたものだ。 光の加減が幻想的で美しく、2人の自然な表情が撮られていた。 「うん。 これとか…好き。 あ、ねぇ!これすごくない?(笑)」 「ははっ! ヤバい…(笑) 最高っ! ほら、お前たちも写ってるぞー。」 中には愛犬たちが無邪気にじゃれ合う写真や友人たちのふざけている写真も混ざっている。 一つ一つに目を通しながら想い出に浸る2人…。 凪と紅葉の挙式は京都の神社で家族とLinksのメンバーだけを招いて行った。 サプライズゲストとして光輝が珊瑚をカメラマンとして呼んでくれていて、紅葉と珊瑚の弟で凪を師匠と慕うフィンも空手の大会に合わせて来日。 式にも来てくれたので紅葉は泣きながらの大喜びだった。 紅葉の希望で日本式の結婚式を挙げた2人。 当日はそれなりに緊張したようで、紅葉は三三九度の儀式で盃に注がれた祝酒を一気飲みしてしまうというハプニングもあった…(苦笑) 嬉し泣きでメイクは崩れ、祝酒でほろ酔い状態ではあったが、なんとか無事に式を終えられた。 披露宴は愛犬たちにも参加してもらいたかったので、凪の実家の広い庭に手作りの会場を作ってもらって友人たちとガーデンパーティーをしたのだ。 こちらは2人ともタキシードに着替えて、洋風に。 LIT Jのメンバーや紅葉の親友のユキも参加。 セレモニー的な演出も入れた。 暖かな春の日差しが降り注ぐ中、みなと光輝の愛娘、愛樹がフラワーガールをしてくれたのだ。 実際は花びらの入った小さな籠を持った愛樹がよちよちと歩いては立ち止まり…ついには途中で座り込んで小石で遊び初めてしまったのだが… 愛らしい姿にみんなでほっこりしたのだった。 料理は旅館の料理人たちが協力して用意してくれて、凪も前日に自らが仕込みをしていた。 ウェディングケーキも地元のケーキ屋さんに頼んで用意してもらったのだが、ケーキカットの寸前で小麦(実家の愛犬)がダッシュで突っ込んできて、そこへ平九郎と梅も参戦…! 慌てて止めに入った義父の正がケーキ台ごとひっくり返し、 最終的に参加者全員がクリームまみれになるという漫画のようなハプニングがあった。 「すっごい楽しくてめちゃくちゃ面白かったねー!」 「そうだな…(笑)」 一般的な結婚式や披露宴とは違うが、2人らしい暖かな式だった。 その証拠にどの写真も皆笑顔である。 思い出しながら笑う紅葉に凪は話を続けた。 「そーいえば、光輝が事務所宛てに結婚式場から俺らにオファー来てるって言ってたなー。」 「そうなの??どんな?」 「んー、同性カップルの結婚式取り扱ってる式場からモデルしませんかー?って。」 「えっ?! ほんとに?」 「ホント。 俺たちは結局、良く分からないまま個人で手配しちゃったけどなー。 どーする?受ける?」 「んー…。 また衣装着れたり、カッコいい凪くんと写真撮ってもらえるのは嬉しいけど、今は…もうちょっと余韻に浸りたいかなー?」 そう告げる紅葉は写真に視線を向けて微笑んだ。 「…そうだな。 俺たちがモデルやって結婚式挙げたいって同性カップルがその夢を叶えられたらいーけど、全てをオープンにしたい人たちばかりじゃないだろうし、安易に引き受けるのは…って感じだよな。」 「そうだね! なんていうか…プランとか本人たちの希望がちゃんと通るとこなら…って思う!」 「じゃあちょっと保留な…。 モデルとは言え結婚式何回も挙げるもんでもないし、まぁそもそもスケジュールに空きがねーし!(苦笑)」 「そうだったー!(苦笑)」 新婚旅行の予定も未定のまま仕事の予定はびっしりと埋まっている状態だ。 2人はプライベートモードから仕事モードへと切り替えつつ、スケジュールの確認作業に入った。

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