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第122話(6月②)(4)※微R18
「紅葉…、着いたけど…」
「ん…? あ…ごめん。
僕…寝てた?」
「10分くらいだけどな。
あー…どーする?
疲れてるなら…なんか買って帰るけど…」
早く逢いたいからと、モデルの仕事後にそのまま自分の元に帰ってきてくれた紅葉。
凪は少し申し訳なく感じていた。
何故なら…
「…?
わぁ…っ!本当にホテル…?」
凪の指差す方向に見えるのは彼の実家でなく、某ホテル。今いるのは道路を挟んだ隣のコンビニの駐車場で、紅葉の希望を聞いてくれているようだ。
驚いた表情を見せながら少し困った顔で笑う紅葉。
確かに、凪の実家へ帰省してから2週間程そういったコトはしてなくて…。
もちろんキスやハグは一緒にいたら毎日するし、時間はバラバラでも毎晩同じベッドで眠る。
仕事や作業の合間に都合がつけば紅葉の大好きな貸し切り温泉に2人で入り、ちょっとイチャイチャしたり…、でも凪の実家で気を遣うし、義父の正が入院中ということもありなんとなく身体を繋げることは自粛していたのだ。
先日無事に手術を終えた義父は早速リハビリを開始したらしい。まだ痛みも残るので仕事に戻れるまであと2週間くらいは実家にいる予定だ。
タイミング悪く厨房のスタッフが2人も足りなくて(退職と怪我で休職)、面倒見の良い凪は新人の指導などもしていてとにかくめちゃくちゃ忙しいのだ。
毎日3~4時間の睡眠で働き詰めである。
「僕より凪くんの方が疲れてるでしょ?
あの…、イヤとかじゃないよ?でも…そーいうコトより休んだ方がいいんじゃない…?」
「無理。紅葉不足。」
「……っ!
さっきの人…、着いてきてないよね?」
「どーでもいいよ、どうせ部屋までは来れねーし。」
いい?という凪の問いに頬を赤らめて頷く紅葉。
とりあえずコンビニで飲み物とちょっとお高いアイスを買って、ホテルの駐車場に移動する。
どうやら紅葉がアイスを選んでいる間に凪はスマホでチェックインしたらしく、そのまま手を繋いで部屋へ直行した。
調理の仕事中は衛生上の理由で外している凪の結婚指輪がきちんと嵌まっていることに気付いた紅葉はそれだけで嬉しかった。
「鍵もスマホなの?すごいね。
あと…普通の?というか普通より豪華なホテル??」
紅葉は部屋を見渡して凪に聞いた。
「そうだな…(笑)
どこも遊びに連れて行けてないから広い部屋と夜景くらい見えた方がいいかと思って。」
凪が窓際に立ってそう答えると、紅葉は首を傾げた。
「だって今回は遊びに来たわけじゃないでしょー?ふふ…、でも、ありがとう。」
凪の実家の都合での帰省で紅葉の仕事はいくつかキャンセルやストップをかけているものもある。旅館での彼の仕事は本当に雑用ばかりだ。紅葉は早苗を率先して手伝い、凪との関係を公にしたことで時には周りにいろいろ言われることもあるだろうが愚痴も言わず、当たり前のようにそう告げる紅葉に凪の方がお礼を伝えたい気分だった。
忙しくて、凪は心身共に疲労困憊なのに胸がいっぱいになり、癒されるように疲れも消えていく…。
凪は「あぁ、愛しいな」と思った。
「…もっと近くで見たら?」
「あ、ここで大丈夫だよ。」
「…怖いの?(笑)」
「怖くないよ!見慣れないだけ!」
なんだか照れくさくて、夜景を見ようと誘えば、思いの外高所にビビる紅葉がおかしかった。確かに、普段は戸建て住まいだし、紅葉の実家は標高は高いけど、やはり戸建てだ。
自然の星空の夜景は見慣れてても都会のネオンの夜景はなんだか違うのだと言っている。
「じゃあ…風呂にしよっか。」
「お風呂!どんなのかな?
あ、アイスしまってくるー!」
こちらは上手く誘導出来たようだ。
「気持ちいいー?」
「うーん…? うん。まぁ…」
「次、うつ伏せになって!」
「……。」
言われるがままにホテルの大きなベッドにうつ伏せる凪。
「眠たかったら寝てもいーよっ!」
「いや……、一応聞くけど、紅葉くんはさっきから何をしてるんですかね?」
つい先ほどまでバスルームでイチャイチャしながらシャワーを浴びていたというのに、何故だか今は健全モードに戻っているパートナーを前に凪は戸惑っていた。
風呂上がりのアイスが分岐点?と凪が考えていると…
「何って…マッサージだよ!」
もちろん、健全な方のマッサージだ。
紅葉は疲れている凪を少しでも癒そうと気合いが入っているようだ。
ホテル備え付けの薄い室内着を着て懸命にマッサージをする姿は確かに健気だ。
腕はもちろん素人の域(力弱め)だけど…(苦笑)
LINEや電話では語りきれなかった離れていた間の出来事も話してくれる。
「それでね、誠一くんのお家の冷蔵庫は相変わらず何もなくてさー!お米と何故か梅干しはあったからおにぎり作ってあげたんだよ!
その梅干しがさ!1粒300円もするやつだったの!ビックリ!」
「へぇー…」
「美味しかったって池波のおじいちゃんに話してたら家にいっぱいあるからってくれたんだよ!帰ったら食べようね!でもしょっぱいから少しずつ食べるだって!おじいちゃんにはしょっぱ過ぎて毒なんだって!」
確かに腕や肩は疲れが溜まっているので気持ちは良いのだが、この雰囲気をどうしようかと悩む凪。
「んー、ありがと。
代わろうか?」
「ダメっ!
凪くんは動いちゃダメだよ!
それに僕、どこも凝ってないもん!」
「そう…?(苦笑)」
作戦失敗である。
仕方ないので紅葉の気の済むまでマッサージしてもらい、お礼のキスをすることにした凪。
「ん…、んんっ!
は…ぁ…っ!
…疲れ…、取れた?」
いきなり深く濃厚なキスにビビって逃げ腰の紅葉…。なんとか凪にそう訊ねた。
「あぁ。ありがと、紅葉。
おかげでここからめっちゃ頑張れそう…!」
そう応える凪の不適な笑顔に「…あれ?」と驚き固まる紅葉…。
「っ?!」
「とりあえずその微妙な服脱いで、全部見せて?
あと声も、…今日は我慢したらお仕置きだからな。」
「……えっと…、へへ…。
…はい。」
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