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第132話(8月)(1)

※今回のお話では災害を取り上げています。 被災経験等でお読みになるのが辛い方がいらっしゃいましたら、閲覧をお控えいただけらばと思います。 こちらのお話、設定も全てフィクションになります。 「え…っ! LINKS、フェスに出れないの?」 フェスまであと1週間… 紅葉は困惑を隠せずに思わずそう尋ねた。 凪もスマホに入る連絡に目を通しながらなるべく紅葉を不安にさせないように優しく告げる。 「んー…どーなるかってとこ。 光輝と誠一が交渉に行ってるから…まぁなんとかするだろ(苦笑) スケジュールズレまくって…俺、これからLIT Jの打ち合わせとリハに行ってくるから…。 お前誰かに呼び出されたりしても一人で行くなよ? もうすぐみなも来るから。」 「うん、分かった。」 事務所の会議室に一人残された紅葉は凪を見送るとスマホを開きネットニュースに目を通した。 数日前に北陸で大きな地震があり、地滑りや家屋の倒壊など被害状況に胸を痛める。 光輝の生まれ故郷の近くらしく、彼は何か出来ることはないかと災害後すぐに動き始めた。 だから停電している地域に今回の野外フェスで使う予定だった電源車を生活電源として使ってもらうために譲りたいと頭を下げられた時、メンバーは皆、即快諾した。 問題は1週間後のフェスで初披露する予定の新曲のスポンサーだった。 LINKSは完全自主活動をしているので機材や今回の野外フェスだと電源車も自分たちで手配しているのだが、曲毎に企業スポンサーがついたり、タイアップがついたりするとその都度契約を結んでいる。 スポンサーはド派手に新曲を披露したかったらしく、当初の約束と違う、相談もなく勝手にしてとお偉いさん方が大層ご立腹らしい。 「僕も謝りに行かせてくれたらいいのに……。」 メンタルが体調や演奏にかなり影響する紅葉。 光輝は話し合いが難航することを見込んで同行させなかった。自分の責任だと寝る間も惜しんで対応にあたっているようだ。 もうLINKSの正式メンバーになってからの活動の方が長いのにいつも守られていると紅葉は不甲斐なさを感じている。 代わりの電源車を用意するにしても繁忙期なので予定していた容量を補えるほどの電源車は空きもなく、時間もないし、費用の捻出もLINKSの負担となるだろう…。 メンバーはそこまで派手なものにしなくてもと思っているのだが、先方は譲らず…フェスの終盤を任されているLINKSが出場しないのでは?という憶測も飛び交っている。 「なんか僕にも出来ることないかな…。」 漠然とそんな思いを抱いていると従姉妹のみながやってきた。 「お待たせ。 …足、もう大丈夫?」 「うん! なんともないよ。」 「ホントごめんね…。 愛樹に怪我がなかったのも紅葉のおかげ。 ありがとう。」 「…ううん。 ちゃんと支えられなくてごめんね。 体調大丈夫?」 「うん。平気。 愛樹の風邪、凪にもうつしちゃってごめんね。」 「気にしないで! 凪くんも言ってたけど、また大変な時は頼って欲しいよ。」 紅葉がそう告げるとみなは穏やかに微笑んだ。 「イベント…、多分出れないってことはないと思うんだけど…。 演出は変えていかなきゃだから全部見直さないと。みんな忙しいから2人で策を練ろう。」 「セットリストとかも変わる…?」 「そうかも…。 フェスのテーマが"音楽と夏~最高の思い出を~"だからそこは意識して…今のLINKSが伝えたいこと…いれていこう。」 「うん。 えっと、つまり…節電?すればいいんだよね?」 「まぁ、そうだねー。 一先ずLIT Jで余ったやつ回してもらえそうだけど、多分それもそんな多くないからね。」 「デジタル演出のことよく分からないけど、アナログなら得意だもん! 出来ること見つけたらいいんだよね? …いろいろ削ったらLINKSの実力がより伝わるんじゃないかな? 丁寧に手間かけてやってみようよ。」 「……紅葉。 そっか、打ち込みない分、普通に演奏技術でカバーすればいいんじゃん。 あと超優秀な音響スタッフさん来てくれないかなぁー(苦笑)」 「スタッフさん頼みなとこあるよね…。 あ…!メドレーっていうか、曲の繋ぎにソロパートで見せ場作ったりしたらカッコ良くない? メンバー紹介のせてさ! あと…キャンプで使うんだけど、LEDライトのランタンとか照明代わりにどうかな?」 「いいねー!」 そこからは大忙しで、メンバーで打ち合わせとリハを繰り返したり、演出を考えつつ、スポンサー企業と話し合いを重ねた。 そうこうしている間に噂を嗅ぎ付けたメディアが騒ぎだして『売名行為だ』とさえ言われたが、LINKSのメンバーは相手にしなかった。 売名だろうがそれで困ってる人が救われるなら…そんな思いだった。 被災地からの感謝の言葉が届いたり、それを聞いて少しずつ協力してくれる方々も現れ始めた。 そしてフェス3日前になんとか先方との折り合いもついて、無事に当日を迎えることになった。

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