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第139話(9月)(4)

その後、本人の希望もあり早々に退院した紅葉は薬の影響からか悪夢を見て魘されていた。 「う、わぁーっ!」 「紅葉…っ!」 凪はずっと付き添い、優しく世話を焼いた。 ちょっとでも凪が傍を離れると不安がる紅葉に平九郎と梅も寄り添う。 一晩明けるとずいぶん落ち着き、簡単な事情聴取を受けた。 紅葉はその時初めて、今回のことが警察沙汰になっていることを知り、また凪が相手(入間)を殴って怪我をさせていたという事実を聞いた。 有段者の凪が手を挙げたと聞き、罪に問われるのではないかと心配で仕方ない紅葉。 凪を護るためなら自分の受けた被害については不問にしてもいいとさえ思っている。 お見舞いに来てくれた誠一に相談する。 紅葉が怯えてはいけないと距離を取って話す誠一に「ちょっとー、遠いよー!」と笑顔を見せた。 その笑顔を見てホッとする誠一。 「大変だったね。 怪我は大丈夫? あぁ…鼻が折れたらしいよ。 少しはマトモな顔になったんじゃない? 大丈夫。向こう刃物持ってたみたいだし、正当防衛でいけるよ。 あとは…光輝が社会的に抹殺してくれるんじゃないかな。」 そう言って微笑む誠一の顔が恐くてそれ以上何も聞けなかった。 3日後、紅葉はオーディションに受かったオーケストラの舞台に立っていた。 まだ痣の残る頬や擦り傷が痛々しい左手を見て、凪の本心は"仕事なんてしないでもうずっと家にいたらいいのに…"と思っていた。 紅葉は凪が本当に望むならそうするだろうが、凪だっめ紅葉の音楽を待っている人たちがいることは分かっている…。 LINKSの音楽では届かないところまで届く紅葉の音楽…。言葉では言い表せない大切なモノを閉じ込めていてはいけない。 そして凪が思っていた以上に紅葉の心は強かった。 「これで辞退したら負けだよ! あんなことで音楽を諦めたくない。」 そう告げる紅葉の顔はすごく凛々しくて凪は「カッコ良すぎて惚れ直すよ」と耳元で囁いた。 「ホントに大丈夫?」 「大丈夫っ! ビシっと決めてくるー!」 「あぁ…。 行ってこい。」 もっと、強くなれと願いながら紅葉を送り出すのだった。 END

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