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第140話(9月②)(1)

9月下旬… 「イーヤーだぁー! 今日の休みはたらふく寝て、飲みに行くんだよ。で、上手くいけばお店のお姉ちゃんと仲良くするんだぁっ!」 駄々を捏ねる子供のように騒ぐのはLIT Jのギターゆーじ。オフの朝に無理矢理起こされて不機嫌らしい。 「そんなのどーせ上手くいかねーだろ…。 いいから来いって! …この前酔いつぶれて家に泊めてやったの誰ー? 朝メシも食わせたし! ちょっと付き合えよー ギタリストは何人いても足りねーんだよ。」 「あ、凪くーん! おかえり! もう出発するー?」 「あぁ。…いーよ。 忘れ物ない?」 ゆーじの首根っこを掴み、後部座席に押し込んだ凪は笑顔で紅葉を振り返った。 「大丈夫ー! ゆーじくん宜しくねー。」 「いやいや…だから行かないって…! むしろどこ行くんだよー? うぉっ!犬っ! ってかサスケっ?!」 同乗者には同じくLIT Jのギターサスケもいて、「お前も?」と、顔を見合わせた2人はお喋りを始めた。 運転は凪で助手席はもちろん紅葉。 「紅葉、そっち陽が当たって暑くね? 冷房も強めだし、タオルかけとけよ。」 「あ、うん。 凪くんは大丈夫? 飲み物とかいる?」 「じゃあもらう。 あー、いーよ、それで。」 「さっき口つけちゃったよ?」 「ん、いいよ。」 「…間接キス…! えー…ねぇ、キスは? 今日行ってきますのキスしなかった…。 足りないよ…。」 「ごめん今高速だから無理(苦笑)」 そう断った凪は一瞬紅葉の右手を取り、指先にキスをおくった。 「後でね?」 「うん…っ!」 ラブラブな2人を見て後部座席から大きなため息が聞こえてきた。 「ねー? お忘れかもしれないけど、俺らも乗ってるからねっ!(笑)」 「どこまで行くの? ってか、SAまだー? 腹ペコー。」 「はいはい。 ちょっと待って。」 SAに着くと木陰になったドッグランで平九郎と梅を少し遊ばせて、先に小腹を満たしたゆーじとサスケに彼らを預けてトイレ休憩や軽食を買う凪と紅葉。 2人が戻るとゆーじたちはやたらご機嫌だった。 「やー、俺も犬飼うかな。」 「は?」 「犬連れてるとめっちゃモテるんだなっ! 若い女の子たちが寄ってきてくれるし…」 「うんうん! "可愛いですね!何て名前ですかー?"ってJD(女子大生)が話しかけてくれてさ! ワンコ最高だな!」 「いやいや…それ、モテてんのはお前たちじゃなくて平九郎と梅だからな?(笑)」 「えー?」 「そんなことねーよ(笑) あと少しでLINE聞けたとこだし!」 「だよなー!」 盛り上がる2人に呆れ顔の凪。 「わー! あはは、くすぐったいー!」 声のする方を見ると小型犬に囲まれてる紅葉がいた。 「あいつまた犬にモテてるな…(笑)」 凪はそう呟き、顔中を舐められている紅葉の救出へ向かった。 それから約2時間… 着いたのは北陸県にある高校。 これから地震の被害に見舞われた軽音部を訪問するのだ。 一通のメールからの縁で実現した活動だが、完全ボランティア。スケジュールの空いていたLIT Jのサスケとゆーじも急遽連れ出してやったきたのだ。 LINKSのボーカルみなも参加予定だったが、彼女は学校という場があまり得意ではなく、門まで来て「…今日は止めとく」と踵を返してしまった。 紅葉は彼女の心身の不調の原因を知っているので「うん、分かった。」とだけ答え、笑顔で彼女を見送った。誠一も凪も察してくれているようだ。 一応凪はバンドリーダーであり、みなの伴侶でもある光輝に確認する。 「お前、フォローしなくていーの?」 「……。とりあえずカナちゃんがいるから…後で行く。 えっと…すみません。 有志で集めた楽器のメンテと機材のチェックして…。一応他にも余ってるパーツとか積んできてるからそれは自由に使ってもらってOKです。 世間話でもしながらギター教えるとか…。 スーパーテクニック伝授するとか…。 先輩方にお任せします。 では、未来ある若者たちへの熱いご指導宜しくお願いします。」 笑顔で告げる光輝に戸惑うゆーじとサスケ。 「おぅ…!」 「教えんのとか…慣れてねーんだけど…!」 「学生時代に戻ったつもりで楽しめばいいんですよ。」 誠一のアドバイスに頷きつつも不安そうな2人。 「いや、俺らミドサーなんでね? えっと20年前…思い出せるか?(苦笑)」 「要は気持ちじゃん? とりあえず行くか…。」 「えっ?! マジで? この曲知らないのかぁ…。」 「すみません…。」 「ゆーじ、可哀想だよ。 しょうがないじゃん、彼ら生まれてなかったんだから(苦笑)」 サスケはケタケタと笑いながらギターを教えている。 「あー…、ジェネレーションショックが酷い。」 「僕も知らなかったけど…でもカッコいい曲だよね!ゆーじくんの言うように難易度的にも合ってると思うし、今から覚えて練習してみたらどうかな?気に入ればアレンジしてみたり楽しめるよ!」 隣でベースを教えている紅葉のアドバイスに場は和む。 「コピーってどうやればいいんですか?」 「どう…? え、どうやるの…?かな? 聞いて、覚えて、弾く…?んだけど…。」 絶体音感のある紅葉には容易いことだが、一般的な練習方法が分からない。 サスケとゆーじの時代はバンドスコアを読み漁ったらしいが… とりあえず自分が覚えて弾いて見せることに。 「紅葉くんはLINKS途中加入ですよね? 曲全部こうやって暗記したんですか?」 「うん、そうだよー。 まぁ、弾いてみて後から直したとこもあるよ。 もちろんメンバーみんなに聞いてね! だからコピーすることだけに拘らなくても大丈夫だと思うっ!」 「そういうのは感覚なんですか?」 「感覚かなぁ…。 ベースって曲を支えるだけじゃなくて、メインにもなれるしすごい面白いよー。」 「やっぱ才能大事だ…!」

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