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第141話(9月②)(2)

一方凪は… ドラムの部品交換とセッティングから見てあげている。 「これでどう?」 「あ。 やりやすいです!」 「うん。 多分夏休みとかで背伸びたでしょ? 時々動画撮ってフォームチェックしたり、高さも調整するのがいいよ。 で、ここのセッティングだけど…」 話していると、もう一人のドラム志望の子が声をかけてきた。 「あの…! 組み終わりました!」 「…あぁ。 ん、まぁ合格かな。 ……叩いてみな。」 「えっと…。いいのかな?」 緊張した面持ちで組終えたドラムセットの前に座る学生に頷く凪。 重厚感のあるバスとシンバルもキレイな音が鳴る。 「すげぇ…!いい音…!」 「こことここ微調整ね。 あとバスドラの踏み込みが甘いから踏み込む角度と姿勢気をつけて。 ハイハットはもっとメリハリ意識ね。」 「はいっ!」 「ふふ。 ビシビシ教えてるっ!」 「紅葉…。 お前ちゃんと出来てんの?」 「分かんない…(苦笑) 凪くんも前に言ってたけど…やっぱり僕、ベースの基礎教えるの向いてないかも(苦笑) 今マツくん先生に通話繋いでるんだー。 ねぇ、凪くん演奏して見せたら?」 凪のスティックを渡す紅葉。 「お願いします!」 「…いーけど…。じゃあ軽くな…?(苦笑)」 今の凪の性能面ではもちろん、バスドラムも小さいので力を加減しながらもデモ演奏を始める凪。 叩き始めた瞬間、部室全体を重低音が包み込み、その音圧に驚く学生たち。 「スゴすぎ…っ!」 「何、このパワー…!」 みんな目を輝かせていた。 凪のアイコンタクトで紅葉もベースを持って来て、即興演奏をしたり…息の合ったリズムセッションはかなりの盛り上がりを見せた。 それから光輝と話をしに行った凪に気付かれないように、紅葉はドラム担当の2人にこっそり話した。 「あのね。 凪くん何も言わないつもりみたいなんだけど…やっぱ伝えておくね。 今日持ってきたこのドラム…凪くんのお父さんからのプレゼントだったんだよ。」 「えぇっ?!」 「…だから…たくさん使って、大事にしてあげてね。」 「「…はいっ!」」 そこへ… 「あのぅ… 空手部なんですけど、ちょっとだけ顔出してもらえたりしないでしょうか?」 「……凪ー!お呼びだぞー?」 「…えーっと……うん。 いろいろあって実戦はNGだけど…それでもいい?(苦笑)」 凪が空手部へ行き、そろそろ時間なので片付けをと光輝が話していると… 「ってか、腹減ったー。 この辺ラーメン屋とかあんのー?」 「お、いーね! ラーメン食って飲み行くかー(笑)」 ゆーじとサスケが小腹が空いたと話始めた。 食欲は高校生と同レベルらしい。 「あ。あいつの家ラーメン屋ですよ。」 「マジっ?! 行こっ!案内して! ちょっとお母さんに電話して!」 「…とりあえず場所移そうか。 バイトとかデートとか用事がない子はついておいで。あのお兄さんたちがラーメンご馳走してくれるみたいだよ。」 誠一が先輩2人を見てそう言うと学生たちは大盛り上がり。 「イエーイ!」 「ご馳走様でーす!」 「えぇっ?!」 「なっ?! 俺らっ?! おい、光輝!経費だよな?」 「…落ちません。 紅葉はどうする? ペットホテル預けてるんだよね?」 「あ、宿のとこだから連絡すれば時間は大丈夫。 でも凪くん呼びに行ってから合流するね! 場所LINEしてくれる?」 「了解。」 ベースを背負うと部室を飛び出し廊下を走っていく紅葉を見て笑うゆーじとサスケ。 「紅葉くんめっちゃそわそわしてたね(笑) そんな凪の空手姿見たいんかなぁー?」 「目ハートで応援すんだろうね(笑) ってか、お年頃の皆の前なのにあの2人…どーなんだろうねー?(苦笑)」 「今時そんなん気にするヤツいないですよー。」 「うん。なんか、さっきも阿吽の呼吸って感じで…めっちゃ上手いし、カッコいいッスよね。」 総勢20人程でラーメン屋に到着し、ガヤガヤと注文を済ませると雑談をしたり、何人かは誠一に勉強を見てもらってる。 「そっか、震災の片付けがあって夏休みの宿題終わってないんだね?授業も遅れてたり? それは大変だねー。 数学と物理ならカテキョのバイトしてたから教えられるよ。今何やってるの?」 「今は……」 勉強を始めたところで凪と紅葉もやってきた。店内の混雑状況を一目見て凪は「調理師免許あるんで、もし良ければ手伝います。」と厨房へ行ってしまった。 動きっぱなしの凪に「休まなくて大丈夫?」とアイコンタクトを送る紅葉。放っておけない性格の凪はポンっと頭を撫でて頷いた。 「お勉強してる!えらいね! 誠一くん勉強教えるの上手だよね! 僕、こっちの高校の数学全然分からなくて最初のテスト3点とかで…ずっと教えてもらってたんだー。」 「あはは!そうだった!懐かしいねー!」 「紅葉くん…3点はヤベーよ(笑) 俺でも15点くらいとってたよ?」 思い出話で笑い合っていると、女将さんがツマミを持ってきてくれた。 「これサービスね。 勉強まで見てもらって悪いわねー。 ねぇ、どこの大学だったの?」 「ありがとうございます、いただきます。 一応W大です。 でも高校の時は光輝の方が成績良かったんですよ。」 「学祭出る条件だったからねー(笑)」 「あら2人ともすごいのねー! やっぱり今時のミュージシャンは勉強も出来ないとねぇ?」 「母さんー!分かったからー!」 みんなで和気あいあいと話しをしながら楽しい一時を過ごした。

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