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第148話(10月)(5)※R18

初めて凪とキス以上のことをした時は、緊張と不安でガチガチだった。 そしてベッドの上の土壇場でまだ最後までは怖いと言う紅葉に凪は優しく待ってくれていた。 それから…どんどん凪を想う気持ちがつもり溢れていき、自然と大丈夫だって、寧ろ彼との行為を必要だと思えて…。 初めて凪を受け入れた時のことは、必死過ぎて行為のひとつひとつをはっきりと覚えているわけではないけれど、性別関係なく自分のことを受け入れてもらえたのだと安心して、嬉しくて、愛おしくて胸がいっぱいになったのは覚えている。 お互いの想いを紡いでいくことは男女の恋愛でも簡単ではないし、同性同士の恋愛でこんなにも幸せを手に出来るのは奇跡なのかもしれない。 「どうした? キツイ…? 怖くない?」 約束通りいつも以上に丁寧に行為を進める凪は目に涙を溜める紅葉に気付いて心配しているようだ。行為を先に進めることよりも優しく手を繋いで、たくさんのキスをくれる。 「ううん…。 大丈夫…! 怖くないよ。 緊張…っていうかドキドキはしてるけど…」 何度も身体を重ねるうちに、良い意味で身体は慣れていく。何も考えず心をひらいて相手を受け入れ、身も心も委ねれば互いに気持ち良くなれることを知った。 同時に凪を想う気持ちは増していき毎回心臓は高鳴るのだ。 「…ホントだ。」 身体を屈め、紅葉の胸に耳を当てて確かめた凪はふっ…と柔らかく笑い、「俺もだよ」と紅葉の手を取り自身の胸に触れさせた。 「同じだ…! ん…っ、気持ちいいし… …幸せ…。」 「…ん。そうだな…。 今日さ…紅葉がゆーじに話してくれて、なんか…いろいろ思い返してさ…。 改めて幸せなんだなって思った。」 前だけ向いて歩んできたが、いつの間にか2人の軌跡が出来ていて幸せを実感する。 「…続きいい?」 凪の問いに笑顔で両手を伸ばして彼を求める紅葉。 「うん。 …凪…、いっぱいして。」 「…あぁー…!紅葉がそーいうこと言うから加減出来なくなるんだって…!(苦笑)」 「あっ! だって…ッ! んん…ッ!凪のこと…大好き…だから…! ひっ、ぁ、待って! だめ…っ! それ気持ちイイ…っ!」 穏やかで甘い夜は熱くなっていく…。 眠りに落ちる直前、紅葉は改めて凪に告げる。 「凪くん…! ありがと、僕のこと受け入れてくれて。 好きになってくれて…。」 「…何…改まって恥ずかしいな…(苦笑) でも…紅葉が俺のこと好きになって、ドイツから飛んできて、告白してくれたから始まったんだよ。だから…こちらこそありがとう。 紅葉…好きだよ。」 「…っ! うん…!」 これからも2人で寄り添って生きていこうとキスで誓った。 翌日から凪が集めてくれたストラディバリウスを弾くヴァイオリニストの動画やインタビュー記事を研究したり、気持ちも新たに練習に取り組む紅葉。 少しずつ自分が思うように弾けるようになり、紅葉も自信を取り戻してきた。 そして急なメンバー変更で音大の同級生がオケに参加することになったり、亡き父親の友人で、幼い頃紅葉にヴァイオリンのレッスンをしてくれていた恩師との再会もあり風向きが変わってきたのだ。 やっと来日したヴァイオリニストが練習に参加するようになると場も引き締まり、陰口を叩かれることもなくなった。 「やっぱり前向きになれる環境と充実した毎日が大事だなぁ…。 っ! この唐揚げ旨っ!」 凪の作ってくれたお弁当を食べながら染々と実感する紅葉だった。

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