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第151話(10月)(8)※微R18

翌朝… 誕生日だから…と、だいぶ盛り上がり過ぎてしまい久々にまともに動けなかった紅葉は、凪に卵入りの雑炊をベッドまで運んでもらった。 ふぅふぅ…と湯気を飛ばしながらレンゲを口へ運べば身に染みる美味しさ…。 「あー…コスプレにハマったつもりはなかったんだけど…まぁ、…可愛かったんで…(苦笑) 無茶してごめん…。」 流石に反省の色を見せる凪に紅葉は笑顔で応える。 「大丈夫だよ。 あと少し休めば動けそうだし… それに…嬉しかったし…!」 照れながら再び雑炊を手にする紅葉。 食欲もあるようなので大丈夫そうだと安心した凪は1枚の紙を差し出した。 「……? なぁに?」 「誕生日プレゼント。 ごめん、昨日渡し忘れてたから…。」 「えっ?! パーティー(とコスプレ)だけで充分だよ?」 カサ…っと用紙を手に文字を追う紅葉。 意外なことにそれは英文だった。 「…? Wedding?」 誰の? と聞きたそうな顔で凪を見つめる紅葉。 「誕生日プレゼントとか言いつつ、実行するのがまだ先にはなるんだけどさ…。 ドイツ行った時に、結婚式しよう。」 凪の言葉に自分と凪を指差し、"僕と凪くんの結婚式?"とアイコンタクトで確認する紅葉。 笑いながら頷く凪に目を開いて驚く紅葉。 「…ひょぇっ?!」 「リアクションヤバ…っ!(笑)」 「いや…だって…! え? もうやったのに…?」 「でも紅葉の家族、全員の前ではやってないし…。特にお爺ちゃんにはちゃんと見てもらおうよ。」 「…っ!! でも…そんな…! いいの?」 嬉しいが、金銭的なことも含めて慌てながら訊ねる紅葉。 「結婚式って言っても日本みたいにバカ高くないし。別に何回やってもいいじゃん? 家族と親しい友達だけでどう…? あ、今回共演するヴァイオリンの先生も呼べるなら呼んでさ。 一応翔くんと珊瑚に相談してスケジュールと場所は押えたから…それ予約表。 こっちでは和装だったから、向こうでやるならこっちでタキシード借りて持って行こうかなーって。もちろんまた和装でもいいけどね。」 荷物増えるな(苦笑)、と続ける凪。 紅葉は一回落ち着こうと呟き、雑炊の乗ったお盆を脇に置くと、凪に抱き付いた。 「ありがとう…っ!」 「…どういたしまして。 受け取ってもらえるみたいで良かった。」 「嬉しい…! でも…幸せ過ぎて心配になる…!」 「何言ってんだか…!(苦笑) 紅葉が不安な時も心配な時も…ずっと俺が側にいる…。」 「うん…っ!」 そして紅葉が参加するオーケストラ公演当日… 緊張の中、第一ヴァイオリンという大役をこなした紅葉。 コンマスを勤めたマエストロから終演後に自分のオケに来ないかと勧誘を受けた。 「…ごめんなさい。 ありがたいお話ですが…僕には日本で一緒にいたい人がいます。彼の側を離れてまで音楽を続けていくことは考えていません。」 紅葉は迷いなくそう告げた。 凪がいないのなら各国を巡り、大きな会場で高価な楽器を手に演奏するということも、ヴァイオリニストとしての地位も名声も、お金も何も欲しくない。 「ふむ……驚いたな。」 「え…?」 「20年前に同じ台詞を聞いたよ。」 「…っ! もしかして…父を…ご存知で…?」 そう訊ねる声は震えていた。 大好きな亡き父は…ヴァイオリニストとしても尊敬している父は、自分たち家族を想い、かつて同じ選択をしたのだろうか…? マエストロはまるで祖父のような優しい表情で紅葉と向き合った。 「確か…双子のお兄さんがいたね? まだ君が1つか2つの頃の写真を…本当に嬉しそうに見せてくれたのを今でも覚えているよ。それなら仕方ない…と、今回も答えるしかなさそうだね…。 うん……そうか…」 "大きくなったね"と続く言葉に紅葉はこどものように泣き崩れた。 そこへ紅葉の恩師がやってきた。 父の親友で、父が亡くなってからずっと紅葉にヴァイオリンを教えてくれていた。 幼い頃の紅葉が貯めた小遣いやバイト代で払った微々たる額のレッスン費は日本に行くと決まった時に全額渡してくれた。 正に恩師だ。 「紅葉…! 素晴らしかったよ。 今日の君の演奏…! 僕の中で昔、君のお父さんが奏でた音と重なった。」 「先生…っ!」 「紅葉…マエストロは引退されるんだ。 だから君を第一に呼んだ。 最初で最後のチャンスだったんだよ。」 「っ! ありがとうございました…!」 「紅葉…、またストラディバリを弾いてみたくないか?日本がいいならプロオケに君を推薦しようか?」 「…正直、僕には身に余ります。 それにストラディバリは有名だし、歴史もあって一流の楽器です。僕が弾かなくてもこの先多くのヴァイオリニストに愛されて弾き継がれるヴァイオリンです。 でも…父のヴァイオリンを今この世で一番理解しているのは僕だけだと思います。このヴァイオリンで奏でたい音楽がたくさんあるんです。 それと同じくらい、やりたい音楽が他にもあって…。」 「そうか…!」 「…君が望む道をいけばいいよ。 …あいつなら君にそう言うはずだ。」 「はい…っ!」 恩師の言葉に紅葉は泣きながら笑ってそう答えた。 その後は2人に凪を紹介したり、恩返しにと恩師に食事をご馳走したり…! 昔話を重ねるうちに母国への思いが溢れてきた紅葉。 懐かしい、会いたいという想いをまた曲にして前へと進む。 「うん…。 俺は好きだよ、この曲。 なんつーか…紅葉の音楽はいつも愛で溢れてるな…。音が目に見えそうだよ。」 「ありがとう…っ! 凪くんの音はね、元気になる。 前に進む勇気をくれるよ。」 2人は目を合わせて微笑み、優しいキスを交わした。 END

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