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第154話(10月 ②)(3)

その日の夜… 身重の奥さんのためにと、料理を習いにきたLIT Jのリーダー兼ベーシストのマツと雑談をしながらキッチンに立つ凪。 大の男2人でもゆとりのあるキッチンは様々な食材が並んでいる。昼間、買い物に行っておいて正解だったなと思いつつ凪は手を動かす。 マツに初心者向け料理を教えつつ、紅葉と約束したプリンの仕上げを行う。つい気合いが入ってしまい…プリン改めてクリームブリュレだ。 「急にお邪魔してごめんね。 紅葉くん大丈夫?風邪?」 「んー、疲れかな? 熱下がって、寝過ぎたから眠くないって今向こう(防音部屋)で練習してる。」 病み上がりでかれこれ2時間弾きっぱなしだと聞いたらマツは驚くだろう。(もちろん凪は時々様子を覗いている。) 「そうなんだ…! 何だっけ?吹き替え…じゃなくて弾き替え?」 「そうそう。 音大生が主人公のドラマで…演奏シーンだけ出るんだって。」 「みなちゃんも(ピアノ担当)だよね。 で、LINKSがドラマのテーマ曲担当…すごいねー!めちゃくちゃ話題になりそう。」 「それがさ…今までで一番複雑な構成になってて…あの2人がいないと曲が組み立てらんないんだよね…(苦笑)」 「何それ?(苦笑) めっちゃ楽しみにしとくよー(笑)」 そして話題はローディーをしてくれているRyuの話へ。 「Ryuの親父さんに車検頼んだんだけど…。 聞いて!俺と2つしか年変わんないんだよっ…!(苦笑)」 「え、マジで?(苦笑) 待って…? マツくん38でしょ?」 「今年39…(苦笑) で、Ryuの親父さん41。 しかも見た目若いから咲希ちゃん(Ryuの娘)連れてるとパパに間違えられるって!」 「えぇっ?!まぁ…そっか…ありだよな。 んとっ…、Ryuが22だから18、19の時の子?(苦笑)」 「そう…しかもあいつ兄貴いるからさ(苦笑) 兄貴は15の時の子って言ってた。 何がなんだか…(苦笑) その兄貴はもう小学生の子がいるんだって…。」 「はぁー…。 結婚早い家系なんだろーねー。」 「なんかヤンキーの王道みたいな親父さんだったよー(笑)」 「えー…。俺も車検頼みてぇけど、なんか怖ぇな…(苦笑)」 「全然、話すとフツーにいい人だけどね。 あ、これで切り終わったかな…? この後は…煮たらいいの?」 「うん。 煮物は基本的にこんな感じ。調味料の分量と煮汁なくならないように気をつければ意外となんとかなるよ(笑) じゃあ…煮込んでる間に洋食もいっとく?」 「えぇっ?!」 「大丈夫、めっちゃ簡単なやつ。 使うのは冷凍のカット野菜とあるもの野菜(笑)、適当に切って、ベーコンと、うちは紅葉が豆好きだから缶詰めのがあれば一緒に鍋に入れる。少なめの水と白ワインで煮る。 味付けは塩胡椒…コンソメ。 気分でカレーパウダー入れたり…そのうちアレンジ出来るようになるよ。 で、表面焼いたチキンを上に乗せて、ハーブ入れて、蓋して中まで火を通す。ハーブ…まぁ、なくてもいーよ(笑) これは肉メインで野菜添えにしてもいいし、肉なしで水分とコンソメとかトマト足してスープにも出来る。」 「すごい、匂いがもう…めっちゃうまそう…!」 「寒くなる時期だからこういうスープ系とか鍋系は簡単だし、市販のつゆもいろいろあるから使ったらいいと思う。 あとで簡単なレシピ纏めて送るよ。」 「ありがとう、凪! ほんと助かる!」 「いや、料理やってないのにやろうとしてるからスゲー偉いよ。 気持ち大事だよなー。」 「入院になっちゃったから…、仕事もして…やっぱ負担かけてたなぁって。 出来ること増やしたくてさ…。」 2人が話していると、練習を終えた紅葉がリビングへやってきた。 ガチャ… 「いい匂い…!お腹すいたよー。 あ!マツくん!いらっしゃい!」 「こんばんは。お邪魔してます。 体調どう?」 「紅葉、肉食えそう? それとも煮物かスープ摘まむだけにしとく? プリンは?」 「もう元気っ! 全部食べるっ! マツくんも一緒に食べようよー!」 「はは…っ! 了解。」 すっかり元気そうな紅葉に安心し、この日は3人で和やかに食卓を囲んだ。 マツを見送り、2人で軽く一杯…。 と、言っても病み上がりの紅葉はホットワインだ。 やっと2人きりで過ごせる休日にほっとする。 ソファーに並んで座り、それぞれ愛犬たちを撫でる…凪はPC広げているが、急ぎの仕事ではないらしくゆったりとした時間が流れている。 「明日撮影行けそう? 練習間に合ったか?」 「うん。大丈夫ー。 曲は弾いたことあるやつだし… でも…学生らしさ出したいからもう少し下手に弾いてくれって言われて困ってる(苦笑)」 「なんだそれ…(笑) それならもっと下手なやつ?に頼めよって話しだよな。」 「それみなちゃんも言ってた! 引き受けたのは奏者であって役者じゃないからって。名前出す以上、自分の納得出来る演奏するって…。」 「そりゃそうだ。 まぁ…お前もあまり気を負わずにやれよ。」 凪に頭をポンっと撫でられた紅葉は余計な心配が抜けたようだ。 明るい声で冗談を言う。 「…うん。 じゃあ頑張ってもう少しフレッシュさを出していこうかなっ!(笑)」 「ははっ(笑) 気持ちも大事だからな(笑)」

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