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第157話(11月)(2)

「お久しぶりです。突然ごめんなさい…。」 あやなは姿勢を正すと頭を下げた。 「…急にお店辞めたって聞いて、連絡取れないからもう会えないと思ってた…っ! えっと……、元気にしてた…? なんか…雰囲気変わったねー!痩せた?」 いつも通り振る舞おうとするサスケにあやなも緊張を少し解いて笑顔を見せた。 「元気よ。 …サスケくんも元気そうで良かった。」 「うん……。 えっ、えっと…今日はどーして?」 改めてサスケが訊ねるとユキと紅葉がフォローに入った。 「スマホが壊れちゃって連絡出来なかったんだって。 …僕、葵のとこ行ってくるね?」 「あ…うん。ステージにいるよ。 そっか…っ! …あれ?ここ…面識あったっけ?」 マイペースなユキに答えつつ、サスケの疑問は膨らむ。 「偶然会って、その……謝らなきゃって、私…咄嗟に話しかけちゃって…(苦笑)」 「それでいろいろお話して…。 今ね、僕のアシスタントしてもらってるんだよー。 この前も一緒に幼稚園の演奏会に行ってね。 どんぐりで楽器作って…楽しかったねー! あやなちゃん絵が上手だから助かってるんだっ! 今日もね!病院で演奏会あって、帰りに誘ったの!」 「……イマイチ過程が分からないけど…(苦笑) とりあえず…! 凪も知ってるってこと?」 紅葉の説明ではよく分からないが、一番確認しなきゃいけないポイントを理解しているサスケ。 「…当たり前だろ。 俺も面接同席してOK出した。」 取材を終えた凪が楽屋に姿を現すとあやなは深くお辞儀をした。 「凪くんっ! お疲れ様ー!お腹空いてない? カツサンド買ってきたよー! この前食べたいって言ってたお店の…!」 「おー、サンキュー! 向こうで一緒に食べるか。」 状況構わずハグを交わす2人に苦笑しつつ、さりげなく席を外してくれたので、サスケはあやなに向き合った。 「えっと…」 「サスケくんにもちゃんと謝りたくて…今日は無理言って入れてもらいました。 私…あのお食事会からいろいろ考えて…凪さんにも、紅葉くんにも嫌な思いさせてしまって…。 何よりサスケくんに失礼なことしたなって… 本当に、ごめんなさい。」 「え…っ、…別に謝んなくていーよ。 まぁ、言い方アレかもだけど…色掛けっていうの? あやなちゃんにとっては仕事…だったんだろうし…。…だから気にしてない。 でも…心配はホントにしてたよ? 急に辞めちゃってたし…」 困惑したあやなが耳に髪をかけると服の袖から包帯の巻かれた右手が見えた。 「…えぇっ?それどーしたのっ?!」 「…ちょっと…。バチが当たったみたい(苦笑) まぁこれも辞めるタイミングなのかなって…。 それで、病院で…ユキくんの付き添いに来てた紅葉くんに会ったの。 話してみたらすごく真っ直ぐな人で…謝る前に怪我のことすごく心配してくれて…。 演奏会にも誘ってくれて、それでヴァイオリン聴かせてもらって…音楽ってスゴいね。 もちろんサスケくんのバンドも好きよ?カッコいいし、迫力があって。 でも……紅葉くんのヴァイオリンはまた違って…なんていうか…とにかく感動したの。 …こんな心のキレイな人に敵うわけないって、尚更自分のしたことが恥ずかしくなって… だから…これからのことはゆっくり考えようって思ってるんだ。」 「そっか…。 何も出来なくてごめんね…。 大変な時に会いに来てくれてありがと。」 「こちらこそ…大事な日にごめんね。 LIVE…頑張ってね!」 あやなを見送ったサスケはなんとも言えない表情をしていた。 楽屋に戻る凪はすれ違い際に訊ねる。 「…連絡先聞いたの?」 「いや……」 「…後悔するかも…って今ちょっとでも思うなら聞いておけば?」 「…っ!」 凪の言葉にサスケは廊下を走り出した。 一方… 会場2階席 「…ユキ。 なんでこんなとこいんの? …冷えるよ。行こ。」 自分のコートをユキの肩にかけた葵はユキの手を取る。 「葵…!うん。 …一番遠くの席からだと葵がどのくらいの大きさに見えるのかなって思って…。 あ…っ! 人に見られるよ?」 手を引いて歩き始める葵。 ユキは慌てて離そうとした。 2人は同性の恋人関係を公言しているわけではない。バンドの顔であるAoiに変な噂がたっては…と心配するユキ。 「…いいから行こ。 俺ボーカルだから一番取材入っててあんま時間ねーの。」 「うん…。 葵カッコいいね。 こんなにたくさんの人が集まる会場で…! みんな葵のこと見に来るんだね!」 「…お前は? 調子良ければ…ちょっとは見て行けるの?」 「えっ? うん…。大丈夫だよ。 せっかくだし、見て行こうかな。 チケットって…まだある?」 「…アホ。関係者席、取ってあるから。 座ってていーし、 疲れたら適当に帰っていーから…。」 ぶっきらぼうな言い方だが、葵なりに心臓に持病がある恋人を思いやる愛情が込められた発言だ。 ユキは嬉しそうに微笑む。 「ありがとう。 分かった。応援してるね。」

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