151 / 212

第159話(11月)(4)

打ち上げ会場の上座に移動した紅葉は機材のセッティングをスタッフと凪に手伝ってもらい、ヴァイオリンを手に準備をしていた。 「ではここでスペシャルゲストにヴァイオリン演奏をお願いしています! LINKSの紅葉くん!宜しくお願いします!」 司会者のスタッフにマイクを渡された紅葉は明るい声をあげる。 「はいっ! LIT Jのメンバーの皆さん、スタッフさん、関係者の皆様!秋ツアーお疲れ様でした! LIT Jのパワフルでロックな世界観、めちゃくちゃカッコ良かったです! 今日はLIT Jらしい熱いLIVEの雰囲気や、ファンとの一体感をイメージした曲を披露したいと思います。LIVEの余韻と共に楽しんで頂けたら嬉しいです。」 挨拶のあと、ヴァイオリンを構えた紅葉は凪とアイコンタクトをとる。 再び前を向くと紅葉の顔付きが変わり、打ち込みのロックテイストな音楽が流れると美しく、でも力強い旋律を奏で始めた。 「っ!」 要を始め多くの人が息を飲むのが分かった。 昨日、凪が"アレ"も含めて、と言っていたのがこの曲の打ち込みのことで。 最初は凪にも内緒で作っていた曲なのだが、ギリギリになってどうしても上手くいかなくてメンバーのみなや光輝、誠一に頼ることも考えて相談もしたが、最終的に凪に助けを求めたのだった。 LINKSとLIT J共通のスポンサーからの提案で実現した身内だけの余興演奏だが、だからこそ妥協したくはなかった。 「だって紅葉の音楽を一番に理解してるのって凪でしょ?私もデジタル苦手だし…理想を形(曲)にしたいなら凪しかいないよ。」 従姉妹のみなに言われた一言が印象的だった。 大事なLIVE前に余計な仕事を増やしてしまい申し訳なかったが、納得のいく曲が出来たと思う。 演奏も、今日のLIVEを聴いて、ユキを送ったタクシーの中でほんの僅かに弾き方を修正した。 4分程の短い曲だったが、演奏後は大きな拍手と声援が贈られた。 「…っ! すごい……っ!」 「要くんっ? 泣いてんのっ?!」 自分の演奏じゃなくて後輩(紅葉)の演奏に感激して涙を見せる要にちょっと複雑な思いを抱きつつ、ゆーじはシャツの袖で彼の涙を拭った。 「っ!」 「ごめん…、つい…。 ハンカチとか持ってねーから…(苦笑) あの2人、なんかスゲーよね。」 「あ…、ありがとう。うん…。」 「うん…。 あ、あのさ…! もし良かったらなんだけど…!」 ゆーじは意を決して先ほど凪にアドバイスされた提案を要に話を始めた。

ともだちにシェアしよう!