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第161話(11月)(6)

「だからなんでうちに付いて来るの?(苦笑)」 「そんなこと言わずにちょっと落ち着かせてよ。同じバンドのメンバーのよしみで!」 そう言ってまるで我が家のようにソファーに横たわるのはゆーじ。 「…いや、それ完全に寝る気だよね?(苦笑) もう…!ちょっと、ゆーじ!(苦笑)」 平九郎と梅が遊ぼうと尻尾を振って近付いていく。 「いーよねー?よしよし…っ! ほら歓迎されてる! だってさぁ…、大した額じゃねーのにホテル代勿体無いって言うから…。 めっちゃ片付けてからうちに連れて来たのはいーんだけど…! なんかヤバいね。 家に2人っきりってさ…! いつも晩酌するんだけど、飲むとムラムラするからとりあえず飲まないようにしてさ…! でもなんか飲まないと乗り越えられねー気もしてきて!」 「だからってゆーじが帰らなかったら有らぬ誤解生じるだろーが…。 ってか、付き合ったの?」 「まだ…っ。 やっぱ初回がヘマしちゃったし、なんとかイイトコ見せて信頼得てからと思って…! だから手出さないように必死なんだって!」 「へぇ。 向こうはどんな反応なの? あ、飲む?(笑)」 話は長くなりそうだと、冷蔵庫から取り出したビールを差し出す凪。 「…止めとく。 もー、面白がらないでよー(苦笑) んー…やっぱ警戒されてんのか…絶妙な距離感ですね。 え、付き合う前ってこんな感じだっけ?手応えなさすぎなんですけど…?(苦笑) 凪は?どんなだったー?」 「…俺らのは参考になんないと思うよ(苦笑)」 そう返しながらゆーじにコーラを渡す凪。 紅葉の物なので、あとで足しておかないとと買い物リストに追加する。 「でも成功例だし、聞いとこー。」 ゆーじに言われて5年ほど記憶を遡る凪。 「あー…… スゲー気合いの入った女装…しかもミニスカでいきなり家に来たり… 紅葉が大学通うのに同居始めた時は勝手に俺のベッドに入ってきてたり…」 「はっ? なんだその積極性! …それマジな話ならお前よく耐えたね! どんな修行したら手出さずにいられんの?(苦笑)」 「まぁ…高校生で無知だったからな、あいつ…(苦笑) 俺だって今なら無理だよ、そんな据え膳(苦笑)」 「だよな(笑) いや、意外だなぁー…紅葉くんがねー。」 「あとまぁ…やっぱり家庭環境とかも知ってた部分大きいかな…。大事に出来ないなら手出すべきじゃないって思ったし…んー、紅葉は何に対しても真っ直ぐ過ぎるから、こっちもちゃんとしなきゃって。 いや、そんなん当たり前なんだけどさ(苦笑)」 「…そっかー…。 やっぱもうちょいちゃんと話、しないとだね。 なんか時々暗い顔しててさ…。 そーいえば紅葉くんは?もう寝てる?」 「あ…、帰ってきた。」 噂をすれば紅葉の車の音が聞こえ、愛犬たちが玄関へ向かって行った。 「『凪ーっ! 帰ってたの? 遅くなってごめんね!あんちゃん寝かし付けてたら一緒に寝ちゃってたよー!』 うわぁ!ゆーじくんっ?!ビックリした!」 「おじゃまー! 俺もビックリした! え、家だと英語なの?」 「いや。 来月、ドイツ行くから耳慣らし。 ごめん、こいつすぐ追い返すから(笑)」 「ひどっ(笑) まぁ、帰るけどねー。 いい話聞けたし! あ!紅葉くんにお願いあったんだ!」 冷蔵庫を開けた紅葉がコーラがないことに気付き凪を見る。凪はアイコンタクトで謝り、代わりにビールを手渡した。 「何ー?」 「要くんがまた紅葉くんの演奏聴きたいって言うんだけど、どっか時間とれるとこある?」 「ヴァイオリン? んと、この前の曲がいい? マツくんに今後のLIVEとかで使いたいから録音してって言われたけどまだ出来てないんだよねー。」 「なんでもいいって。 俺の立場ないんだけど、紅葉くんのファンになったって言ってた!」 「えー!嬉しい! えっと…練習してるとことかでも良ければまた明日の夜、みなちゃんと音合わせするよ。 その前、夕方から家で練習する予定だから…呼んでもいい?」 凪に確認する紅葉。 「…ゆーじか俺が一緒ならいーよ。 まぁ、音の響きがいいのはみなのとこかな。」 「一応みなちゃんに聞いてみるね。 あともしかしたら要くんの地元でも演奏するかも?だけどまだ未定なんだー。 とりあえず明日大丈夫なら都合いい方教えて貰えれば。」 「うん、分かった。 ありがとうー! また連絡するね。お礼するから…!」 「あはは!気持ちだけでいいよー。」 ゆーじが帰ったあと、凪は紅葉を後ろから抱き締めて聞いた。 「また仕事増えんの? 最近ファン増え過ぎじゃね?(笑) んでもって、どんどん専業主夫から遠ざかってねー?(苦笑)」 紅葉も多忙になる程、すれ違いも増えるので少し不服そうな凪。 「仕事っていうか、ボランティアかな。 老人ホームなんだけど…オファーきてるって光輝くんが…!…ダメ?」 「それは…ダメとは言えねーよ(苦笑) みんなさ、紅葉のヴァイオリンに癒されたいんだな。」 「少しでも力になれるなら嬉しいよ。」 「…俺にも1曲だけ弾いてくれる? お礼するから。」 「もちろん…っ! えー、じゃあお礼はキスでお願いします!(笑)」 「あはは。遠慮しないとこ好き(笑)」 前払いしとく、と紅葉にキスを贈る凪。 紅葉は幸せそうに微笑み、凪と防音部屋へと移動したのだった。 END

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