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第162話(12月)(1)
「旨…っ!
ね、おかわりってある?
うわ…卵焼き最高ー!」
「あるよー!
京風の卵焼きも美味しいよねっ!」
「……なんで今日もゆーじがいんの?
ってか、最近ずっとうちで朝飯食ってない?(苦笑)」
気付けばブランチの時間に合わせてほぼ毎日凪と紅葉の自宅に現れるLIT Jのギターゆーじ。
馴染み過ぎてきていて、紅葉も普通におかわりのご飯と味噌汁をよそってあげている。
もちろん、これ(朝食)を作ったのは凪だ。
「……いいじゃん別に。
だってここん家の飯、美味しいんだもん。
お礼にわんこたち散歩連れてってるし…一応夜は遠慮してんじゃん。」
「よく言う…(苦笑)
夜は夜で連日サスケと飲んでんだって?(苦笑)」
凪の指摘にゆーじはそうそうと笑った。
「だいたいね。昨夜はサスケと誠一と三人でバル行ってさー!男だけでめっちゃ健全な飲み!(笑)
ねぇ、誠一とカナちゃんってホントに付き合ってないの?部屋貸してるだけ?」
「そう。ない…と思う。うちバンド内恋愛は…もう成り立たないけど(苦笑)
メンバーとスタッフとの恋愛は引き続き禁止なんだよね。」
誠一はほぼ光輝とみなの家に居候しているし、住む場所(タワマン)にも拘りがないと言って即日カナに部屋を譲ったのだ。
「カナちゃんのマンション水漏れだってねー!大変ー。
でも火事じゃなくて良かった!」
ほとんど聴力のない彼女は災害時に対応するのが困難な場合があり、今回の件でみんな心配している。
新しく部屋を借りるのも難航していて、でも実家には頼りたくないらしい。
一度決めたら揺るがないところがみなに似てきている…。
「とりあえず誠一のマンションならセキュリティも安心だしなー。なんかあったらコンシェルジュが対応してくれるらしいよ。」
「はぁー。すげーな。」
ゆーじは味噌汁を啜りながらボーッと話を聞いているようだ。
「あ!
みなちゃんがあやなちゃんとカナちゃんで同居したらいいって言ってた!
どう思う?」
ここで紅葉の口から名前が上がったのがサスケの片想いの相手のあやなだった。
「そりゃあ意外過ぎる組み合わせだな…(苦笑)」
凪も驚いていたが、しばらく考え込んだ後で「案外上手くいきそうじゃね?」と告げる。
カナは聴力の障害があるが、長年LINKSのスタッフとして働いていて収入はきちんとある。
あやなは怪我はしているが、日常生活に支障はない。でも休養中で無職だ。
バイトをしながら保育の勉強をしたいので家賃の安いところに引っ越したいらしい。
ルームシェアするのはピッタリな2人かもしれない。
「カナちゃんはサバサバしてて判断早いし、あやなちゃんはちょっと優柔不断だけど、面倒見いいもんね!
そういえば…、あやなちゃんに恋愛はお休みって言われてサスケくんもしょんぼりしてたけど、
ゆーじくんは要くんが地元に帰っちゃって寂しいんだねー。」
「……紅葉くんは時々グサっと刺さること言うよね。」
どうやら図星らしい。
もちろん、凪も気付いていて、だからこそさっきみたいな小言は言うが「今日行っていい?」というゆーじの連絡にNoと返したことはないし、料理は多めに作っている。
愛犬たちの散歩を任せているのもゆーじを信頼しているのはもちろん、リフレッシュと癒しになればと思ってだ。
「…紅葉、そろそろ時間だろ?
そのままでいいから支度しな?」
「あ!ホントだ!
ごめんね、ありがとっ!
ごちそうさまでしたっ!
えっと…余計なこと言っちゃった…?
…でも逢えなくて寂しいなら逢いに行ったらいいと思って…。
ゆーじくん!ファイトっ!」
「おう…。サンキュ…(苦笑)」
一回り年下に励まされてゆーじは空笑いしていた。
バタバタと身支度を済ませた紅葉は玄関で平九郎と梅に行ってきますのハグをして、凪にも行ってきますのキスと大好きの言葉を贈り仕事へ出掛けた。
凪がリビングに戻るとゆーじがダイニングテーブルに伏せていた。
平九郎と梅が心配してるのか、それとも散歩の催促なのかゆーじの周りをうろついている。
凪は黙って空になった皿を下げた。
食洗機にセットしながら手洗いするものを片付けていく。
「…何でそんな落ち込んでるのか聞いた方がいい?」
「うーん…。はい。」
「はは…っ!
大丈夫そう?」
「…あんまり…。
なんだろうねー、踏み込めないっていうかさ…。まず、踏み込んでいいものかな?って迷いが…。」
肘を付き、窓の外をぼんやり眺めるゆーじ。
凪は濡れた手を拭き、斜め向かいの席に座った。
「振られたわけじゃないんでしょ?
男同士だから?
それとも…みなが、要くんは訳有りだろうねって言ってたけど、そこ?」
「どっちかと言えば今はそっちかな。
いろいろあって、向こうがそれ気にしててさ。
俺も、もし付き合っても乗り越えていけるかなぁって…。」
そうか…と、凪は少し考え込んでから言葉を探した。紅葉と出逢う前なら乱暴な言葉で一方的に諭していただろうが、今は自分ならどうするか考え、そしてきちんと相手の気持ちを考えて発言出来るようになった。
なんというか…離れていても紅葉の顔が浮かぶのだ。
「その言い方は相手が傷付くよ。」
「誤解されちゃうよ。」
大袈裟かもしれないが、それなら伝え方を変えようと素直に思えるようになったのは紅葉のおかげだ。
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