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第164話(12月)(3)

「わーい! 鍋パっ! 楽しみー!」 愛犬たちを連れた紅葉は嬉しそうに鼻歌を歌っている。 お風呂上がりの愛樹は遊び相手を見つけニコニコの笑顔を向ける。 「わんわんーっ! ボールっ!」 「うん、髪の毛乾かしたら平ちゃんと梅ちゃんとボール遊びしようか。」 紅葉がそう言うと、小さな手を挙げてお返事する愛樹。 「はいっ! わんわん、かぁーいーねっ!」 「「かわい…っ!」」 最近発語も出来る動作も増えた愛樹にメロメロな紅葉と要が声を揃えた。 因みに愛樹と平九郎、梅のボール遊びは延々と続く。 キッチンでは食材の準備が始まった。 「…なんだこのキノコの量…! 紅葉か……(苦笑) そーいえば光輝は? 」 「なんか菓子折り持ってどっかに謝りに行ったよ。」 誠一が答え、大量のキノコを前に凪は苦笑する。 「あー…(苦笑) この前のイベントで柵壊したやつ?」 凪の一言に反論するみな。 「…だから壊したんじゃないって! もとから壊れてたの! ちょっと足かけただけでグラつくとか柵の意味なくない? 私のせいじゃないよね? 絶対謝んないからね! もう散々お説教聞いたし! ってか、あのパフォーマンス気に入った!って超大物の先輩が喜んで弁償してくれるって言うんだからそれでいーじゃんね?」 包丁をダンっと鳴らして肉を切りながら興奮気味に言うみな。 その様子に顔をひきつらせながらゆーじが口を挟んだ。SNSでもだいぶ話題になっていた。 「イベント…ってあれか! アリーナの! 葵が『あの状況でイヤモニ(ear monitor)外して歌い切るなんてありえねぇ』って言ってたぞー(笑) ステージ袖あるのに音の関係で絶対行くなって言われてたのに、1曲目から暴走して、駆け巡った挙げ句、どんどん観客煽りまくってLIVEHouse並みに柵まで寄ってって壊したって?(笑)」 「…簡易的に説明するとヤベーな(笑)」 「だから壊してない。 ってか、凪がGO!って言ったんじゃん!」 「言ってねーよ、アイコンタクトだけ(笑) まぁ…LINKSは徹底したリズムトレーニングしてるからな。あのレベルの音ズレはカバー出来るって思ったんだよ。」 「凪くんのカウントが正確だから行けたんだよね。はぁ…カッコ良かったぁ…!」 ステージを一周したあと、ずっと凪の側で演奏していた紅葉は頬を赤らめた。 イチャイチャしすぎだと後で主催から言われたが、アンケート結果ではLINKSが1位。女性客が8割を埋めたイベントでは2人の仲の良さも良かったと成果が上がってたのでお咎めはなかった。 「ずっと定位置でって言われたけど、ステージも会場も広いのにもったいないよね? いやー、楽しかったよねー! いつかワンマンでやりたいねー。」 普段真面目な誠一もそう言って笑っていた。 「LINKSはいくんじゃねーの?マジで。 昨日の映画館での演奏も話題になってるし。」 ボール遊びに疲れたというサスケが水を飲みながらそう言った。 すかさず愛樹が追ってきて、サスケに登り始めるがされるがままだ。 LINKSがテーマ曲とエンディング曲を提供した某有名アニメ映画がヒットしていて、昨日は初めて映画館でバンド演奏を行ったのだ。 「あー!(苦笑) あれはあれでインタビューぶった切ったんだって?(笑)」 ゆーじも笑いながらそう話す。 「集中したいのに歌う直前まで話しかけてくるから…。 あと、あの人(女子アナ)ヒールがカツカツうるさいし…! カナに合図して止めてもらったの。 愛樹…サスケくんから降りて。 あ…!髪引っ張ったらダメ。」 「イタタ…! 姫ー!勘弁して下さい(苦笑)」 サスケも含めて皆、みなが髪を切った理由がよく分かった。 複雑な感情を歌に込めて歌う彼女は昨日もステージに座り込むくらい全身全霊で歌いあげた。 「確かに、あの司会の子はもうちょっと空気読んで欲しかったよねー(苦笑) 凪も光輝もスゲー目線送ってるのにスルーして続けるし…なんか可笑しくて(笑) そういえばあの時のカナちゃんのストップが迅速過ぎてホントビックリした(笑) でもおかげで無事にスタート出来たし、映画館での演奏はなんかホールともLIVEHouseとも違って味があって良かったなぁ。」 誠一の言葉にメンバーは頷く。 「あ。僕も…朝のニュースで見ました。 あの…、すごく良かった…ですっ!」 要がそう言ってくれて先ほどまで怒っていたみなも微笑む。 メッセージ性の高い歌詞と美しいバラードの旋律は映画の内容ともマッチしていて、早速映画も曲もトレンドキーワードランキング上位となっているようだ。 その後、出来上がった鍋を囲み、みんなでわいわいと話ながらの鍋パーティー。 お酒も進む。 「要くん、騒がしいけど、遠慮しないで食べて飲んでね。」 みながそう告げると控えめに頷く要。 隣のゆーじが甲斐甲斐しく取り分けてあげている。 「肉もっと食べれる?」 「あ、はい…。 …うん。あ、ありがと…!」 お皿を渡す時に軽く指先が触れただけで赤面している2人を見てサスケがむくれていた。

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