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第166話(12月)(5)

ふと、甘いいい匂いに気付いた紅葉が反応する。 「みなちゃん何か作ったの? すごいいい匂いー!」 「あ。忘れてた! 焼けたかな? ちょっと待ってて…!」 「あ、オーブン? 熱いから俺取るよ。」 すかさず光輝が立ち上がる。 こういうところはやっぱり夫婦だとみんなが温かく見守る。 「んんーっ! まー…」 両親が離れていくのが見えたせいか、2人を追いかけて数歩歩き、不安そうな声をあげる愛樹を紅葉があやす。 「すぐだから大丈夫だよー。 待ってようね。」 間もなく戻ってきた光輝が抱えてたのは美味しそうな手作りケーキだった。 「わぁー! 美味しそうだねー!」 「きゃーっ!」 紅葉も愛樹も嬉しそうだ。 「誠ちゃんシャンパン開けちゃって! 手空いてる人グラスとお皿持ってきて。 フォークも! 凪ー? 出来たー?」 みなの指示に従う男たち。 「一応出来たけど…これ焼きたてに乗せたら溶けるだろ…(苦笑)」 「じゃあ前に飾って…」 何事かとキョロキョロしている要の前にケーキとチョコレートのプレートが置かれた。 「えっ?!」 そこには"welcome KANAME"と書かれていて驚く要。 「ささやかだけど上京、引っ越し、同居のお祝い。」 そう言って微笑むと、綺麗な包みを手渡す光輝。 「甘いのも好きでりんご好きってゆーじくんから聞いたからタルトタタンにしたの。」 「シャンパンで乾杯しよう。」 みなと誠一の言葉に要は思わず泣き出してしまった。 「わわ…っ! ごめんね、ビックリしたよね!」 「んー…」 あたふたするゆーじ。 愛樹が要の頭を撫でてあげている。 嬉し涙のあとに笑顔が光った。 「…ふふ…、ありがとう。」 「大丈夫? えっと、とりあえずこれ置こうか…。 重っ!え、これ何?(苦笑)」 「食器と土鍋。 あ、鍋汁と食材もあるから忘れないで。」 「今日手伝ってもらったから、鍋なら作れそうだろ?」 「今度はゆーじくんのお家で鍋パだねー!」 「えー!マジでー?(苦笑) でもありがとうー!」 「ケーキ食べようー!」 乾杯して、みんなでケーキを食べる。 しばらくするとカシャーンという音がする。見れば床にフォークが投げられていた。 犯人は愛樹で… 「やーっ! ぷりー!」 「気に入らなかった? 凪のプリンがいいの? 分かった持ってくるね。 パパと食べようね。」 愛樹には凪お手製プリン(これしか食べないので定期的に凪が作っている)を与える。 「光輝くん甘やかさないでよー。 愛樹ー、フォーク投げちゃダメだよ? もー…最近気に入らないといつもなの! 何かの真似かなー? 誰に似たんだろう…。」 絶対みな似だと皆が思っているが、口に出す者はいなかった。 「うんうん、凪くんのプリンも美味しいよね。」 デザートまで食べ終えたところで要が頭を下げた。 「あの…今日はありがとうございました。 僕、田舎でゲイバレしてから友達いなくて…家族とも距離出来ちゃって…。 気遣われてるのツラくて一人暮らししてたんだけど、上手くいかなくて…。 人が…話してるの見るのが噂されてるんじゃないかって怖くて…。 だからこんな大勢で集まったりするのも久々だし、みんな優しいしすごく楽しくて…。 こんな…ケーキまで…っ! ほんとに嬉しかった。 何も…お返し出来なくてごめんなさい…!」 「そんな…っ! ごめんなさい、じゃなくてありがとうでいいんだよ。 …またパーティーしようね。」 「…うん…!」 紅葉が優しくハグすると小さくそう答える要。 完全に役割を見失ったゆーじをこっそり呼び出してみなが告げる。 「あのさ、 同居に舞い上がって早々に手出したりしないでよ?それが約束出来ないならうちで預かる。」 「…はい…、あの、大丈夫です。」 「…良かった。 私はゆーじくんのこと信じてるからね?」 「…はは…っ!」 「みな、そろそろ…。 ゆーじくん、余計なお節介かもだけど…あの子…生活落ち着いたらちゃんとカウンセリング受けさせた方がいいよ。 さっき一瞬…昔の誠一と同じ目してた。」 「…分かった。」 光輝の言葉にゆーじは小さく頷いた。

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